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民間経済・国民生活の犠牲のもと、軍事経済体制で持ちこたえるウクライナ侵攻2年のロシア経済

2024/02/26

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制裁逃れでエネルギー輸出を回復

ロシアの2023年の実質GDP(実質国内総生産)が前年比+3.6%になったと、ロシア連邦統計局は発表した。ウクライナ侵攻が始まった2022年の成長率は-1.2%であったが、マイナス成長を1年で克服した。2024年の成長率については、国際通貨基金(IMF)は最新見通しで+2.6%と予想している。昨年10月時点から1.5%ポイント上方修正した。また2025年のIMFの成長率見通しは+1.1%と、成長ペースは鈍化しながらもなおプラス成長が維持される見込みだ。

ロシア経済が持ち直しているのは、戦争継続に伴い軍事関連の需要が経済をけん引しているためだ。そして、先進諸国による制裁措置への対応が進んでいることも背景にある。

国際エネルギー機関(IEA)によると、ロシアの原油、石油製品などエネルギー関連輸出は、2023年に月平均で147.1億ドルとなった。原油価格が高騰した2022年の181.5億ドルからは2割程度減少したが、ウクライナ侵攻前の2021年の146億ドルを上回り、ロシア経済、財政が引き続きエネルギー輸出によって支えられていることを示している。

先進諸国がロシア産原油の輸入を停止し、さらに他国に対しても輸入価格に上限を求める中、世界では所有者が明らかではない「影の船団」と呼ばれる闇のタンカーが増加し、ロシア産原油をインドや中国などに運んでいる。

ベルギーのシンクタンク「ブリューゲル」の分析によると、2021年1月からロシアがウクライナ侵攻を始めた2022年2月までの平均で、ロシア産原油の輸出先では欧州連合(EU)が55%を占めていたが、2023年には8.9%まで低下した。その一方、インドは同期間に1.6%%から35.2%に、中国は11%から22%へと急増した。

ロシアは先進諸国による制裁措置の影響を徐々に乗り越え、エネルギー輸出による収入を回復させている。

進む戦時経済体制化

他方、軍事関連需要の拡大によって、国内経済は持ち直している。ロシアの2023年の政府支出は32.2兆ルーブル(約53兆円)であったが、国防費がその約2割を占めた。国防費は、ウクライナ侵攻前の2022年から約8割も増加した。さらに2024年の国防費は歳出の約3割を占め、ソ連崩壊後最高水準となるGDPの6%に達する。

フィンランド中銀の研究機関BOFITの分析によると、戦争関連の製品の生産量は、2022年2月のウクライナ侵攻前から2023年9月までに約35%増加し、2023年1~9月の製造業の生産量増加分の約6割を占めたという。まさに、戦時経済体制である。

一方で、軍需品の海外からの調達も続いている。英コンサルティング企業「イースタン・アドバイザリー・グループ」によると、精密誘導兵器に利用する半導体は中国や香港、カザフスタンなどから引き続き調達されている輸入元という。

インフレによる国民生活の圧迫は続く

ただし、強い軍需によって経済はむしろ過熱し、人手不足の深刻化と物価高を生じさせ、それが国民生活を圧迫している。物価高は、財政収支悪化などを背景としたルーブル安によっても助長されている。

インフレ率は足元で7%台となっており、ロシア中央銀行の目標値である4%を大きく上回っている。ロシア中央銀行は2月16日に、政策金利を16%に据え置いたが、インフレへの警戒を維持して、引き締めの長期維持が必要との認識を示した。

ロシア中央銀行は、ルーブルと国内物価の安定を狙って、昨年7月以降合計で8.5%ポイント利上げを実施している。こうした金融引き締めが、民間経済の活動を強く制約しているのである。

コピービジネスの横行

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、多くの海外企業は、ロシア国内での活動を停止し、また撤退を決めた。これによって、ロシア国民が得られる海外企業による製品やサービスが大きく縮小してしまった。

他方、撤退した海外企業を真似る、コピービジネスがロシアでは横行している。昨年夏にオープンしたロシアのブランド「ジャスト・クローズ」は、ユニクロとよく似た赤地に白のロゴマークを用いている。ユニクロが閉店した後にロシア企業が開いたのが、この「ジャスト・クローズ」だ。

また、米スターバックスの店舗を引き継いだ「スターズ・コーヒー」や、米マクドナルドを引き継いだ「フクースナ・イ・トーチカ(おいしい。それだけ)」などもある。

プーチン政権は、撤退を決めた外国企業に極めて低価格でロシア側に資産を売却するよう圧力をかける一方、著作権保護などの規制も緩和し、コピーしやすい環境を整えたのである。

人手不足と技術不足で中長期的な成長への展望は開けない

このように、制裁への対応進展と軍事経済化によって、ウクライナ侵攻から2年を経過したロシア経済は持ちこたえている。しかしそれは、民間部門、国民の強い犠牲のもとに成り立っているものだ。また、海外での資金調達の道を閉ざされる中、社会保障基金を取り崩して財政赤字の穴埋めに使うことにも、いずれ限界がくる。

さらに、ロシア経済は足元では持ち直しているものの、中長期的には強い逆風に晒される。海外企業の撤退や制裁措置によって、新たな技術が海外から入ってこないことが、成長を制約することになるだろう。そして、深刻な人手不足も、ロシア経済の中長期の成長を制約する。

フランスのシンクタンク「国際関係研究所」(IFRI)は2023年7月に、ウクライナ侵攻が始まった2022年2月以降、ロシアから国外に移住した人の数が100万人に上るとの報告書を発表した。1917年のロシア革命直後に匹敵する規模の人口流出だという。もともと進行していた人口減少に、ウクライナ侵攻後の動員、海外流出、さらに軍事関連の生産活動への労働力動員によって、ロシアの民間経済の人手不足は一層深刻となっている。

ウクライナ侵攻から2年のロシア経済は、当初想定したよりも持ちこたえている状況であるものの、中長期的には成長の展望は開けない。

(参考資料)
「ロシア、「コピー経済」急成長 政権が後押し、市民「制裁克服した」」、2024年2月11日、朝日新聞
「[スキャナー]露経済 制裁に耐性 侵略2年 GDP回復」、2024年2月21日、東京読売新聞
「ロシア中銀、政策金利16%に据え置き インフレ警戒」、2024年2月16日、ロイター通信ニュース
「ウクライナ侵攻・2年:ロシア経済、制裁に適応 軍事産業が支え 原油輸出、抜け穴」、2024年2月17日、毎日新聞
「ロシアGDP、3.6%増=2年ぶりプラス成長-23年」、2024年2月8日、時事通信ニュース
「アングル:軍事頼みのロシア経済、持続性に疑問 国民生活は停滞」、2024年2月8日、ロイター通信ニュース

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