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マイナス金利政策解除を決めた会合の日銀『主な意見』:追加利上げを急ぐ記述はない

2024/03/28

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「主な意見」では先行きの政策を明確に示すものはなかった

日本銀行は28日に、マイナス金利政策解除を決めた3月18・19日の金融政策決定会合の「主な意見」を発表した。主な意見は、決定会合で実際に発言した内容の中から、9人の各政策委員が自ら選んで掲載するものだ。発言者の名前は明らかにされない。

金融市場は、マイナス金利政策解除後の日本銀行の次の動きを探る観点から、この「主な意見」に注目していた。しかし実際には、次の政策を明確に示唆するような発言はなかった、というのが金融市場の受け止めのようだ。

これは当然のことでもあるだろう。「主な意見」では、自らが議案を提出するなどして、対外公表文の脚注に記載される場合を除けば、先行きの政策について具体的な内容は載せないことがルールになっているとみられるからだ。会合では、今後の利上げのペースなどについて、具体的な発言があったかもしれないが、それは10年後に議事録が出るまで明らかにならないのではないか。

日本銀行は「ビハインド・ザ・カーブ」を懸念していない

ただし、今回の「主な意見」の記述で最も注目したいのは、政策金利の引き上げを進めなければ、物価上昇率は2%を上振れていってしまうといった「ビハインド・ザ・カーブ」の懸念、金融引き締めが後手に回っているとの懸念が全く示されていないことだ。

実際には、物価高騰のもとでも日本銀行が異例の金融緩和を維持してきたことから、円安が大幅に進み物価上昇率が押し上げられてしまった。また、家計を中心に中長期の予想物価上昇率(期待インフレ)が上振れるなど、経済の安定を損ねる事態になっている、と筆者は感じている。その意味では、既に日本銀行は深刻な「ビハインド・ザ・カーブ」の状態に陥っているのではないか。

しかし日本銀行はそのようには考えていない。「主な意見」の中で「金融引き締めへのレジーム転換ではなく」、「(金融正常化は)時間をかけてゆっくりと」などの発言が、それを裏付けているのではないか。利上げを全く急いでいないのである。「2%の物価目標達成が見通せた」と宣言しながら、政策金利の引き上げを急がないのは、整合的な行動ではないように感じられる。物価達成が見通せたのであれば、政策金利を2%超えの中立水準まで迅速に引き上げてもおかしくないところだ。

緩やかな政策金利引き上げが先行きの日本銀行の政策を考える際の「起点」に

マイナス金利政策解除後のかなりの期間、低金利を維持することでなんとか2%の物価目標が達成される、との見方が日本銀行内で主流であるのだろう。

展望レポートで示されている日本銀行の経済、物価見通しは、市場の金利見通しがベースとなっている。スワップ市場での2年物金利が0.3%程度、現物国債市場の2年物金利が0.2%弱であることは、先行きかなり緩やかな利上げのペースを市場が織り込んでいることを意味する。向こう1年の間に1回程度の利上げが市場では想定されているのではないか(コラム「日銀の政策金利見通しと物価見通しが整合的でないことの危うさ」、2024年3月28日)。

そして、日本銀行もこうした金融市場の金利観を尊重している。これが、現時点での日本銀行の基本的なスタンスであり、先行きの日本銀行の政策を考える際の「起点」となる。筆者も、追加利上げは来年年初になることを、現時点でのメインシナリオとしている。

円安進行で追加利上げ前倒しも

ただし、日本銀行の今後の政策スタンスは、環境変化によって変わっていくだろう。春闘での賃上げが物価に及ぼす影響は、夏場の物価統計で確認され始めると考えられるが、それが想定以上に大きければ、今秋の追加利上げの可能性も浮上するかもしれない。

そして、それ以上に注目しておきたいのが、為替動向だ。大幅な円安進行が続く場合には、日本銀行は追加利上げの前倒しを示唆し、市場の金利見通しを上方修正させることを通じて円安をけん制する可能性が出てくる。さらに、実際に追加利上げを今年後半に前倒しする可能性も出てくるだろう。

金融市場の安定を維持する観点からも、今後の利上げは、金融市場の期待に概ね沿った形で実施していくことを日本銀行は目指すだろう。その市場の金利見通しを上方修正させる意図を持ったメッセージを日本銀行が発する場合には、それは、それまで金融市場が織り込んできたスケジュールよりも、追加利上げが前倒しで実施される可能性を強く示すものだろう。

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