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自民党・党紀委員会が処分を決定:国民の政治不信と党の混乱は深まるか

2024/04/05

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塩谷氏は処分に強く反発

自民党の党紀委員会は、派閥の政治資金規正法違反事件を巡り、4日に処分を最終決定した。処分の段階が幾つにも分かれる、非常に複雑なものとなった。

厳しい処分を決める際に大きな焦点となったのは、安倍元首相が派閥の政治資金パーティー収入の議員へのキックバックをやめる決定をしていたものの、同氏の死後にそれが復活するに至った経緯である。安倍氏存命中の2022年4月の会合と、安倍氏死去後の対応を協議した同年8月の会合の双方に参加した幹部らが、キックバックをやめさせなかったとして最も責任が重く、厳しい罰則が適用される方向で議論が進んだ。

双方の会合に参加した幹部は、塩谷元文科相、世耕前参院幹事長、西村前経済産業相、下村元文科相の4名だ。政治倫理審査会ではそれぞれの発言に食い違いがあり、誰がキックバック継続の議論を主導したかについては明らかになっていない。そのため、4名は同列の処分になると当初は見られていた。

しかし実際には、この4人のうち、塩谷氏、世耕氏の2名が、党規律規約に規定される8段階の処分のうち、最も厳しい「除名」に次ぐ2番目の「離党勧告」となった。塩谷氏は安倍派座長、世耕氏は参院安倍派会長というそれぞれの役職の重さが最終的には考慮されたものとみられる。

この処分を受けて、世耕氏はそれを受け入れ、離党届を提出したが、塩谷氏は強く反発している。「離党勧告」を受けた議員は、その通達から10日以内に再審査を申し立てず、離党届も出さなかった場合には除名される。

処分最終決定前の4日午前中に同氏が提出した弁明書では、「スケープゴートのように清和研の一部のみが、確たる基準や責任追及の対象となる行為も明確に示されず、不当に重すぎる処分を受けるのは納得がいかず、到底受け入れることはできません」、「清和研と同様、関係者が起訴された総裁派閥を率いてきた岸田総裁の道義的・政治的責任も問われるべきであります」、「このような独裁的・専制的な党運営には断固として抗議するものであります」などと、処分について強い不満をあらわにしている。

塩谷氏が離党勧告を受け入れない場合には、最も重い「除名」処分となる。今回の処分、特に塩谷氏の強い反発は、自民党の結束をさらに揺るがすものとなりかねない。旧安倍派を中心に、旧安倍派に対する厳しい処分について、そして岸田首相が処分の対象とならなかったことに対する不満が強まる可能性もある。

他方、幹部会に参加した西村氏、下村氏は、高木前国会対策委員長とともに、3番目に厳しい「党員資格停止」となった。西村氏、下村氏の資格停止期間は1年、高木氏は半年である。

一方、いわゆる安倍派5人衆である萩生田前政調会長、松野前官房長官は、二階派の武田元総務相とともに、6番目に厳しい「党の役職停止」となった。期間は1年である。それ以外も14名が「党の役職停止」の対象となり、政治資金収支報告書への不記載額に応じて、1年と半年の処分となった。

処分の対象となったのは、安倍、二階両派の元幹部に加え、政治資金収支報告書への不記載金額が2018~2022年の5年間で500万円以上だった両派の議員39名だ。不記載額が500万円以上1000万円未満の議員17名に対しては、7番目に厳しい「戒告」処分となった。

全体では4段階、期間の違いも考慮すれば6段階に分かれる複雑な処分結果となった。

処分は次の衆院選挙に大きく影響

「離党勧告」を受けた議員は、選挙で自民党の公認は得られず、無所属で衆院選に出た場合には比例での重複立候補はできないため、小選挙区で勝たなければならなくなる。

ただし、離党勧告を受けて党を離れても、ほどなくして復党するケースも少なくない。新型コロナウイルスの緊急事態宣言下に深夜の会食をしたとして、自民党の3人の衆院議員が党幹部の勧告で2021年2月に離党した。しかし3人中2人が、1年もたたずに復党を認められている。

いったん離党してしまうと、復党するには党に復帰申請したうえで、党紀委の審査を受けなければならない、というハードルがある。しかし実際のところは、それは高いハードルとは言えないかもしれない。

また、「党員資格停止」は、3か月から2年の期間で適用され、その間は離党者に近い環境の下での議員活動を強いられる。党会合や総裁選への参加、選挙での公認は認められない。

いずれのケースでも、向こう半年、あるいは1年のうちに衆院選挙が行われる場合には、厳しい選挙を余儀なくされるという点が、処分対象者にとって最大のペナルティとなるのだろう。

4月の補選、秋の総裁選への影響が注目

今回の処分には、政治資金規正法違反事件での道義的、政治的責任を明らかにし、一定の決着をつけることで、自民党が4月28日の衆院補欠選挙に備える狙いがある。

しかし、処分を急いだがゆえに、実態が明らかにならないなかでの処分となった感がある。当初想定されたよりも厳しい処分が一部には下されたと言えるが、これで国民がどの程度納得するかはなお疑問である。二階元幹事長や岸田首相への処分は見送られるとみられるが、それについても批判は高まりそうだ。

また、この処分では、キックバックの再開を止められなかった幹部のいわゆる管理者責任が強く問われた点が特徴的であるが、それが国民の関心とズレている面はないか。

国民が最も関心を持っているのは、キックバック再開の経緯や責任を明らかにすることよりも、キックバックされた税金のかからない資金が、政治活動以外の私的な目的で使われていなかったか、という点ではないか。岸田首相は、聞き取り調査の結果、「そうした使途は確認できなかった」と説明しているが、「そうした使途はなかった」と明言している訳ではない。この点が明らかにならない限り、国民は今回の処分を評価せず、それは補選で、自民党への強い逆風となって表れてくる可能性があるだろう。

他方、4段階での複雑な処分となった根拠、基準が明確ではないとの不満が、安倍派の処分対象者の間では強まっている。それが、党の結束を一段と弱めてしまうことに加え、岸田首相の自民党総裁再選を阻む方向で、秋の総裁選にどのように影響していくのかなど、今回の処分がどのような形で今後の政治情勢に影響を与えていくのか、大いに注目されるところだ。国民の政治不信への対応としては、今国会で早期に政治資金規正法の改正を実現することも求められる。

(参考資料)
「<Q&A>離党勧告…それでも「しれっと復党」するのでは? 自民の裏金議員の「処分」って重い?軽い?」、2024年4月3日、東京新聞

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