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高まる中東情勢の緊迫化で原油高、米国株大幅下落に

2024/04/15

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中東情勢を受けて米国株は大幅下落

12日の米国市場では、米国株価が大幅に下落する一方、原油価格が上昇、また地政学リスクの回避で金価格が上昇するなど、金融市場は大きく動いた。イランが近くイスラエルに報復攻撃するとの観測が強まったことが、背景にある。

12日のダウ平均株価は、一時580ドルを超える下落となり、終値も475ドル安で2か月半ぶりに3万8,000ドルを割り込む3万7,983ドルとなった。他方、同日のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物相場は、一時1バレル87.67ドルと、2023年10月下旬以来の高値を付けた。

中東情勢の緊迫化で原油価格が上昇したことは、米国での物価上昇率の低下を遅らせ、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを先送りする要因となる。それは、物価上昇率の着実な低下のもと、利下げが進み、経済も安定を維持するという「ソフトランディング」シナリオに疑問を投げかけるものだ。

FRBの利下げ先送りは、ドル高要因となるが、他方で、地政学リスクの高まり、それを受けた米国金融市場の不安定化は、リスク回避で円高要因ともなる。両因が拮抗する形で、1ドル152円の日本の当局にとっての防衛ラインを超えた円安も、1ドル153円超の水準で膠着している。

イラン革命防衛隊がイスラエルに対してドローンとミサイルで攻撃

発端となったのは、シリアの首都ダマスカスのイラン大使館周辺が、4月1日に空爆を受けたことだ。これはイスラエルによるものとみられ、イラン側は即座に報復を宣言している。バイデン大統領は12日に、イランが近く報復に踏み切る恐れがあるとの認識を示したうえで、イランに対して攻撃を「やめろ」と訴えた。

イランの報復に備えて、米軍はミサイル防衛システムを搭載するイージス駆逐艦など2隻を中東海域に配備した。また、ドイツ、フランス、インドなどの政府は周辺国への渡航を控えるよう国民に勧告している。

こうした中、イラン革命防衛隊は13日に、イスラエルの特定の標的に対して数十の無人機(ドローン)とミサイルを発射したと発表した。米英軍、ヨルダンがその無人機を一部撃墜したと報じられている。イランが警告していた報復措置が実行されたとみられる。

しかし、本格的な戦闘を避けるために、イラン側は攻撃規模を抑制したとみられる。イランの国連代表部は今回のイランによるイスラエルへの軍事行動について、在シリアのイラン外交施設への攻撃に対する報復だとしたうえで、「問題はこれで終わったものと考える」と、イスラエル領への攻撃は今回の一度限りと示唆した。ただし、「イスラエルが再び過ちを犯せば、イランの対応はかなり厳しいものになるだろう」と警告している。

イスラエルがイランに対して報復攻撃を行えば、両国間の戦闘は本格的なものに発展している可能性が出てくる。

イラン革命防衛隊は14日に発表した声明で、「米国とシオニスト政権(イスラエル)よるいかなる脅威も、どの国に由来するものであれ、イランはその脅威の発生源に対して相応かつ相互的な対応をとることになる」とした。

イスラエルがこれに対して報復措置を講じる場合、米国、イスラエル、イランの間で本格的な紛争へと発展する可能性がある。その場合、イスラエルとガザ地区で始まった戦闘が、中東全体へと本格的な広がりを見せることになる。

米ニュースサイト「アクシオス」は13日に、イランによるイスラエルへの攻撃を受けて、バイデン米大統領がイスラエルのネタニヤフ首相に対し、イスラエルによるイランへの反撃について反対の意向を伝えたと報じた。大統領は、壊滅的な結果をもたらす地域紛争に発展することを懸念しているという。

ホルムズ海峡の封鎖が意識されるか

イラン革命防衛隊の海軍司令官は、「敵がわれわれを妨害するならば、ホルムズ海峡を封鎖することも可能だ」と主張している。ホルムズ海峡の封鎖が意識されると、中東地域からの原油の供給に甚大な打撃が及ぶとの観測から原油価格の急騰を招きかねない。それは、世界の物価の安定回復を妨げるとともに、景気の下方リスクを高め、スタグフレーション的な経済環境を作り出すだろう。

イスラエルとガザ地区の紛争開始から半年が経過したこのタイミングで、中東の地政学リスクが世界経済と金融市場を大きく揺るがすリスクが大きく顕在化してきた。

そして、原油価格の上昇は、物価高に対する米国民の不満を一層高めることになり、11月の大統領選挙ではバイデン大統領に不利に働くだろう。

こうした環境は、追加利上げの時期を探る日本銀行にとっても、悩ましいものとなるだろう。原油価格上昇は先行きの物価見通しを引き上げ、追加利上げを後押しすることになる一方、内外経済の下振れリスクの高まりや金融市場の動揺は、追加利上げを慎重にさせる要因となるためだ(コラム「円安・原油高の物価シミュレーション:輸入インフレ・ショックからの経済の正常化を遅らせる要因に」、2024年4月9日)。

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