日本株急落:従来と異なる円安下での株価下落
円安下での株価急落
19日の東京市場では、日経平均株価が一時1,300円を超える大幅下落となった。株式市場は「危機モード」に入った感がある。年初から3月までは世界の株式市場で日本株が一人勝ちの状況だったが、4月に入ってからは一転して、日本株の弱さが際立っている。
19日にはイラン、シリア、イラクでの爆発の報道や、イスラエルによるイランへの報復行動への懸念が高まり、原油価格が上昇したことが株価急落の引き金の一つとなった。
先週に、ドル円レートは1ドル152円の節目を超え、その後、円安傾向が強まっている。そうした中、日本株の下落傾向は強まったのである。従来は、円安は株高をもたらしてきたが、足もとの動きは明らかにそれとは異なっている。
足もとでは、円安が株安をもたらしている理由は、日本銀行の追加利上げ観測の高まりにあるだろう。円安が進めば物価上昇率が高められることから、追加利上げが前倒しで実施されるとの観測が高まる。
日本銀行の植田総裁は19日に、G20(主要20か国)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、円安による輸入物価の上昇が基調的な物価上昇率に影響を与える可能性に言及し、「無視できない大きさの影響が発生した場合には金融政策の変更もあり得る」と語っている。これは円安けん制のための「口先介入」と考えられる。しかし、円安が進めば、口先介入にとどまらず、日本銀行が追加利上げという「実弾」に踏み切る可能性が出てくる。早期の追加利上げは、株式市場には逆風である。
高まる為替介入への警戒
また、当局の防衛ラインと考えられてきた1ドル152円を超えて円安が進めば、当局が為替介入に踏み切るリスクが高まる。実際に介入が行われれば、少なくとも一時的には為替は円高方向に大きく振れ、株価を大きく押し下げる。株式市場はそうした可能性も警戒しているため、円安が株価の下落を促す展開となっている面があるのではないか。
さらに、円安が一段と進み、物価上昇率が再び高まれば、日本の個人消費に打撃となる。この水準まで円安が進むと、円安進行がもたらす経済へのマイナスの影響がより強まる、と考えられるようになったことも、円安が株価下落をもたらしている理由の一つではないか。
株式市場は本格的な調整局面入りか
さらに、足もとでの日本株の急落は、一時的な現象ではなく、昨年来の日本株の過度の上昇分が剥落し始めたことを示唆している可能性もあるのではないか。
消費者物価上昇率が40年ぶりの歴史的水準まで上振れる中で、日本銀行は異例の低金利を維持してきた。その結果、名目金利からインフレ期待を引いた実質金利は大きく低下し、金融緩和の効果は増幅されたのである。
こうした実質金利の低下は、既に金利感応度を失った日本経済には目立った影響を与えてこなかった一方、株価上昇、不動産価格上昇、円安進行という形で、資産市場、金融市場には大きな影響を与えた可能性があるだろう。
日本銀行がマイナス金利政策を解除し、さらに円安によって追加利上げの観測が当初よりも強まっている。その結果、金融緩和効果の縮小観測が強まってきた。増幅された金融緩和の効果によって過度に押し上げられた株価が、いよいよ本格的な調整局面を迎えた可能性もあり得るのではないか。
円安は日銀の追加利上げを後押しするが株価下落は追加利上げの制約要因に
株価が本格的な下落局面に入れば、日本銀行は、今度は金融・経済の安定をより重視する観点から、追加利上げに慎重にならざるを得なくなる。日本銀行の政策は、円安による物価上昇リスクの高まりと、株価下落による経済・金融不安定化リスクの高まりへの両睨みとなり、判断が非常に難しくなる。マイナス金利政策を円滑に解除したと評価される植田総裁にとっては、これは最初の大きな試練となるのではないか。先行きの日本銀行の金融政策は、依然不透明だ。
他方米国では、インフレ率の低下ペースが鈍る中で、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが後ずれするとの観測が強まっている。近い将来、再利上げ観測が本格的に浮上する可能性もあるだろう。その場合、株価を支えてきた米国経済のソフトランディング期待が大きく後退し、それに長期金利の上昇の影響が加わることで、米国株、そして世界の株価に大きな打撃を与える可能性があるだろう。
実際に米国でも株価が大きく調整すれば、インフレ懸念は再び後退し、FRBの利下げ観測は再度強まるだろう。それによって、ドル高円安の流れにようやく歯止めがかかる、といった劇的な展開も先行きあり得るのではないか。
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