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米国経済・物価指標の下振れで1ドル153円台まで円高が進む

2024/05/16

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米国経済指標を受けて1ドル153円台まで円高が進む

5月16日の東京市場で、ドル円レートは1ドル153円台まで円高が進んだ。前日の東京市場の午前には1ドル156円台で推移していたことから、1日のうちに2円以上円高が進んだことになる。

そのきっかけとなったのは、米国時間の15日に発表された米国4月消費者物価、米国4月小売売上高がそれぞれ下振れ、金融緩和観測が強まったことがある。

先週来、日本銀行は円安をけん制する発言を繰り返してきた。また、円安抑制を狙ってオペで長期国債の買い入れ額の減額を突如発表し、市場で早期の量的引き締め(QT)観測を浮上させた。それにもかかわらず、ドル円レートは目立った反応をしなかったのである。

ところが、米国経済指標が下振れ、米国での金融緩和観測が強まると、為替市場は大きく反応した。ドル円レートに与える米国金融緩和観測の変化の大きさに、改めて思い知らされた。

米国景気減速は今回は本物か?

米国4月消費者物価(CPI)で、コアCPI(除く食料・エネルギー)は前月比+0.3%となった。2月、3月は同+0.4%と上振れたが、上昇率は再び低下している。前年同月比は+3.6%と3月の同+3.8%から低下しており、年明け以降滞っていた物価上昇率の低下傾向が、再び明らかになった形だ。

コア財(除く食料・エネルギー)は、前月比-0.1%と下落が続いている。新車、中古車の価格下落が顕著だ。コアサービス(除くエネルギー)は前月比+0.4%と、前月の同+0.5%から下落率は縮小した。1月の同+0.7%をピークに下落傾向が続いている。

一方、4月小売売上高は前月比横ばいと、予想を下回った。3月は同+0.6%だった。変動の激しい自動車とガソリンを除くコア小売売上高は、前月比-0.1%と下振れた。

米国では、4月分雇用統計、最新の新規失業保険申請件数は、雇用情勢の軟化を示唆するものとなった。またミシガン大学の5月分消費者信頼感指数(速報値)も、6か月ぶりの低水準に落ち込んだ。

これらの一連の経済指標は、企業の雇用抑制姿勢によって個人の雇用環境が悪化し、それが個人消費の慎重化につながっていること、さらに個人消費の慎重化が物価上昇率の低下につながっていることを示唆するものと解釈できる。

多くの米国経済指標がこのように整合的となることは、最近では珍しいように感じられる。昨年以来、米国経済の減速観測は、何度も短期間で修正を迫られてきたが、今回こそは減速傾向が始まった蓋然性はやや高いのではないか。それでもなお不確実性が高いことは確かだ。

日本経済の先行きを左右する為替と米国経済動向

一方日本では、16日に発表された2024年1-3月期GDP統計で、実質個人消費がリーマンショック時以来の4四半期連続の減少となるなど、個人消費の異例の弱さが見られている。その背景には、円安進行による物価高の長期化懸念があるだろう。

政策面での対応で、個人消費の安定回復を助けることができるとすれば、それは個人の物価高懸念を煽る円安進行に歯止めをかけることだ。既に為替介入を実施していると考えられる政府と日本銀行とが、為替の安定回復に向けて強く連携する姿勢を見せることが、実際に円安に歯止めをかけ、歴史的な弱さを見せる個人消費の回復の第一歩となることが期待されるところだ。

他方、米国経済・物価の下振れ傾向がこの先より鮮明となり、米国での金融緩和期待が強まれば、円安の流れに歯止めがかかり、物価高懸念が緩和されることで国内個人消費の安定回復を助けるだろう。

しかし、米国経済が顕著に悪化してしまう場合には、今度は、輸出環境の悪化によって、日本経済は年後半に失速するリスクが生じてしまう。国内個人消費の回復を助ける円安修正を生じさせる一方、日本の輸出環境を損なわない程度の適度な景気減速が米国で今後生じるかどうかについては、不確実だ(コラム「円安・物価高で個人消費は未曽有の弱さに(1-3月期GDP):強まる円安の弊害」、2024年5月16日)。

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