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衆院で政治資金規正法の改正議論が始まる:政治とカネの問題解消には遠く

2024/05/24

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衆院で政治資金規正法改正の与野党案が議論

自民党派閥の政治資金問題を受けた政治資金規正法の改正議論が、5月22日の衆院政治改革特別委員会で始められた。自民党案と立憲民主・国民民主による共同案、日本維新の会の案の計3案が、国会にそれぞれ提出されている。

自民党にとって大きな誤算であったと考えられるのは、公明党との共同案の作成に失敗したことだ。両党は連立与党でありながら、政治資金パーティ券購入者の公開基準などで、意見の隔たりを埋めることができなかった。この問題では、自民党と距離を置きたいとの思いも公明党にはあるのではないか。

自民党は衆院では単独過半数の議席を持っているが、参院では公明党を除くと過半数に満たない。政治資金規正法の改正では、自公の協力関係が崩れてしまったことから、自民党は野党の意見を取り入れ、野党案に妥協しなければ改正案を可決できない状況だ。しかし、与野党間の意見の隔たりは大きいことから、6月23日の今国会会期末までに法案を可決できるかどうかは不確実だ。会期延長も視野に入ってくる。

改正案の審議では、1)収支報告書の議員の責任と罰則(連座制)、2)政治資金パーティ券購入者の開示基準、3)政策活動費の扱い、の3点が大きな争点となるが、現状ではいずれも3案ともに大きく異なっている。

収支報告書の議員の責任と罰則(連座制)

政治資金収支報告書については、3案ともに、会計責任者が不記載などで処罰された場合には、議員本人も処分対象となる、いわゆる「連座制」の要素を取り入れている。

自民党案では、議員に、政治資金収支報告書の内容を確認したことを示す「確認書」の提出を義務づける。会計責任者が不記載などで処罰され、かつ議員が必要な確認を怠った場合には、議員に50万円以下の罰金が科され、公民権も停止となり議員を失職する。

立民・国民民主案は、会計責任者だけでなく議員にも収支報告書の記載と提出を義務づけ、議員により強い当事者責任を負わせる。確かに自民党案では当事者責任は弱く、「確認したが会計責任者の不正を見抜けなかった」と主張すれば、議員は処罰を免れることができる可能性があるのではないか。

パーティ券公開基準:基準の金額で意見に隔たり

パーティ券購入者を政治資金収支報告書に記す公開基準については、現行の「20万円超」から引き下げる方向で、主要政党の意見は一致している。しかし引き下げ幅については、自民党は「10万円超」への引き下げを主張しているのに対して、公明党は寄付金の公開基準と揃えて「5万円超」への引き下げを求め、両党間で折り合いがつかなかった。これが主な引き金となり、自民党と公明党は共同案の作成を断念することとなったのである。

維新、国民民主党は公明党と同様に「5万円超」を支持している。他方で、立憲民主党は議員個人も含め、政治資金パーティの開催自体を禁止する法案を提出した。政治資金パーティの禁止も選択肢に入れて議論を進めていって欲しい。

政策活動費は「ブラックボックス」か

政党から政治家個人にわたる政策活動費の扱いについては、3案ともに異なるものとなっている。政策活動費は、使途を報告する必要がないことから、「ブラックボックス」との批判もある。

岸田首相は国会で、「政党活動や政治活動の自由の観点から、一概に禁止するのではなく透明性を高めていくことが重要だ」と述べている。この考え方に沿って、自民党案では、50万円超の政策活動費を受け取った議員が「選挙関係費」、「調査研究費」、「組織活動費」といった項目別の使用額を党に報告し、党が収支報告書に記載することとしている。

これについても、自民党と公明党とは意見は異なり、公明党は議員に明細書作成を義務付ける案を示した。公明党の斉藤国土交通大臣は国会で、「政策活動費がなくても活動に支障は感じない」と答弁しており、両党間の温度差は大きい。

また立憲民主党は、自民党案は大きな「ブラックボックス」を小さな「ブラックボックス」に分けるだけで、使途は明らかにならないと批判しているが、そうした側面もあるだろう。

立民・国民民主と維新の案は、現行の政策活動費を禁止することを求めている。維新は政策活動費を禁止する代わりに「特定支出制度」の新設を提起している。そのうえで、支出できる総額や使途を限定し、政党が総務相などに提出した報告書と領収書を10年後に公開するとする。政策活動費の使途公開については、外交機密やプライバシーへの配慮が必要との考えでは、両党は一致している面がある。廃止も選択肢に入れて議論を進めて欲しい。

政治とカネの問題からの脱却には遠いか

今後の政治資金規正法改正の審議の過程で、野党は自民党改正案について、踏み込みが足りないと批判を強めていくことになるだろう。それは、「自民党は政治改革に前向きでない」といった認識を有権者の間により広めていくかもしれない。

それがさらなる支持率の低下となることを避ける観点からも、自民党は野党案に盛り込まれた内容を一定程度受け入れ、政治改革に前向きな姿勢をアピールしていかざるを得ないだろう。

ただし、仮に最終的に野党案に近づく形で法案が可決されたとしても、それが「政治とカネの問題」の解決につながるものになるとは思えない。抜本的ではない小粒な改革で終わってしまう可能性が見えてきたのではないか。過去の例に照らしても、小手先の規制強化は、さらなる抜け穴を生み出すことになる。

与野党間での議論は、政治資金規正法改正の具体策に収れんしてきているが、最も重要なのは、長く続いてきた「政治とカネの問題」にここで決着をつけること、国民の間に広がった政治不信を払しょくすることだろう。そのためのグランドデザインをまず十分に議論したうえで、必要な法改正の具体的な議論へと進むべきではなかったか。

この点から、リクルート事件を受けて、1989年5月に自民党が公表した「政治改革大綱」の第2弾を作成すべきだったのではないかと思われる。

さらに、「政治とカネの問題」の温床となっている「政治、選挙には金がかかって当然」という、議員及び国民の間の認識を打ち砕くような強い意識改革を含めた大政治改革が、本来は必要だろう(コラム「国民の信頼回復に向けた政治改革は進むか」、2024年1月9日)。

(参考資料)
「規正法改正、自民の譲歩どこまで 特別委で午後審議入り」、2024年5月22日、日本経済新聞電子版

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