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脱炭素と地方創生を同時に実現する「再エネ導入」への挑戦

2024/01/05

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脱炭素と地方創生を同時に実現する「脱炭素ビジネス」への挑戦』の記事では、地域との共生を図りながら地域で脱炭素ビジネスを推進していくためにどのような取組みが有用なのか、環境省が公募する「脱炭素先行地域」で求められる取組みと選定事例を参考に概観しました。
脱炭素と地方創生を同時に実現する脱炭素先行地域では、民生部門(家庭や第三次産業の事業所など)の電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにするために、省エネにとどまらず、再生可能エネルギー(再エネ)などによって電力を供給する割合を可能な限り高くすることが期待されています。

本稿では、そのために脱炭素先行地域でどのような取組みが選定されているか、省エネや再エネ導入を促進する「エネルギー診断」、再エネ導入を促進する「初期費用の負担軽減」、脱炭素と地方創生を同時に実現する「地域の未利用資源の活用」の3つを題材に、地域事例を確認していきます。

  • 実際の取組みが企業によって行われる場合も、地域の事例として記載します。

出所)NRI作成

執筆者プロフィール

エキスパートコンサルタント 佐野 則子:
民間シンクタンクを経て、1998年野村総合研究所に入社。システムエンジニアを経験した後、事業変革や業務改革などのコンサルティング業務に従事。現在は、デジタルで社会課題を解決することを目的として、社会提言、社会課題解決の実行支援、海外における革新的なデジタル活用調査、事業創出の人財育成などを行っている。少子高齢化に関するヘルスケア分野の日米特許所有。

省エネや再エネ導入を促進する「エネルギー診断」

企業や住宅に対して省エネや再エネ導入に向けてどういう対策が取れるのかを把握するために、エネルギー診断を行うことが企業や生活者の行動のきっかけになる可能性があります。エネルギー診断では、企業や住宅の現在のエネルギー使用状況を確認し、現地調査やヒアリングなどを通じて省エネ対策の計画を立てたり、太陽光発電設備・蓄電池などの導入を例として再エネなどによって電力をつくることができそうかを確認して、改善計画を立てていきます。

南海トラフ地震による津波高推計で日本一高い津波が想定された高知県黒潮町は、一人ひとりに合わせた「戸別津波避難カルテ」を作成した経験があります。その経験を基に、全世帯(5380戸)に住宅ごとの「脱炭素カルテ」を作成し、エネルギー診断によって、省エネ設備の導入・購入以外にも、再生可能エネルギー由来電力の導入・購入に向けた町民の行動変容を促す計画を立てています。住宅はどのような世帯なのかで状況が異なります。例えば若い年代の世帯なら太陽光発電設備や蓄電池の導入を、高齢者世帯なら再エネ電気プランの利用などという風に、住宅ごとの脱炭素に向けた行動に結び付けようとしています。
自宅の太陽光発電設備の設置には約3割の住民が興味を示しており、「興味を示している層」には事業説明や支援案内を行い、「興味を示していない層」には周知啓発や事業説明を重ねることで、検討状況のステージを上げるコミュニケーションを継続して全世帯を行動変容へと促す予定です。また、発電設備の導入後は、効果測定とアフターフォローも視野に入れ、総合的な対策を取組みとする計画です。(※1)

栃木県日光市では、住宅・民間施設・公共施設に対して詳細な創エネ(エネルギー創出)と省エネを行うためのエネルギー診断を行い、創エネと省エネ設備導入コストやメリットの提案書を作成する計画です(設備導入の詳細設計の中で実施)。特に地域の大規模施設を優先して診断を行うことで、着実な脱炭素ソリューションの導入を進めようとしています。(※2)

再エネ導入を促進する「初期費用の負担軽減」

自ら発電設備を購入せずに、初期費用の負担がない再エネ導入の手法の1つとして、PPAモデル(Power Purchase Agreement、電力購入契約)がよく利用されています。PPAモデルとは、PPA事業者が設置する再エネ発電設備で発電した電力を需要家が初期費用0円で調達・消費する契約形態で、PPA事業者は発電した電気を需要家に売電することで投資費用を回収します。

発電設備の設置場所が需要家の敷地内にある場合はオンサイトPPA、敷地外ならオフサイトPPAと呼びます。オンサイトPPAは、需要家が屋根など敷地をPPA事業者に貸して、PPA事業者が太陽光発電設備を設置し、その初期費用や保守費用をPPA事業者が負担する仕組みです。オフサイトPPAは、需要家の敷地外でPPA事業者が発電した電気を小売電気事業者を通して購入する方法です。

多くの脱炭素先行地域では、PPA事業者が小規模な河川や農業用水などに小水力発電設備を、地域や企業が所有する未利用地や駐車場に太陽光発電設備を設置し、そこでつくられ送電された電力を初期費用の負担なく消費するオフサイトPPAが利用されています。同様に、公共施設・企業・住宅の屋根でPPA事業者が太陽光発電設備を設置し、つくられた電力を初期費用の負担なく消費するオンサイトPPAを活用する例が多く見られます。

このように発電設備を所有せずに利用することで、発電設備や設置工事などの初期費用の負担がなくなり、初期費用の負担を減らしたい需要家にとっては再エネ導入のハードルが下がる可能性があります。

脱炭素と地方創生を同時に実現する「地域の未利用資源の活用」

再エネによる電力供給は、太陽光などの自然を利用する以外に、地域の未利用資源を利用して発電することができます。どのような未利用資源があるかは地域によって異なりますが、それらを有効活用することは地域を活性化させ、脱炭素と地方創生を同時に実現させる可能性があります。
未利用資源にはバイオマスと言われる動植物などに由来する、資源が枯渇しない有機物があります。例えば稲わら・剪定枝などや、廃材・家畜の糞・食品などの廃棄物、資源として利用するために栽培された資源作物などがあります。

岩手県紫波町では、バイオマスを活用したメタン発酵バイオガス発電を行う計画です。家庭から出る生ごみを中心に利用するほか、可能な範囲で鳥獣被害を誘発する廃棄リンゴ、日本酒の醸造により発生する酒粕(廃棄分)、家畜排せつ物の利用も検討しています。この取組みを通じて、地域資源を活用した再エネ導入と地域課題の解決に貢献しようとしています。(※3)

日光市では、災害に強いまちづくりのため地域唯一の指定避難所である公共施設(学校)に木質バイオマス発電を設置し、避難所の電熱レジリエンスを強化する計画です。日光市は森林資源が豊かで市内にチップ化工場が複数あることから、間伐材を活用した木質チップの必要量の調達が実現可能であると見込んでいます。また、木質バイオマス発電の設置場所の所管である学校教育課とは“安全が担保されれば設置が可能“と合意済みであり、チップ化事業者とも供給量や調達価格について一定の合意形成ができています。(※2)

おわりに

脱炭素先行地域では、省エネより再エネなどによる電力供給の割合を可能な限り高くする上でも、企業や家庭などの需要家が再エネでつくった電力を自分たちで消費する「自家消費の割合」を可能な限り高くすることが期待されています。今までエネルギーを消費する側であった需要家が、エネルギーを供給することが求められることになります。
前述の記事の通り、日本はまだ再エネ導入が第二段階です。多くの企業や家庭に再エネを導入し、それによって自家消費につなげていくビジネスへの挑戦が期待されています。

  • (※1)  

    高知県黒潮町 住民課 環境保全係(2023年8月14日ヒアリング)

  • (※2)  

    栃木県日光市 観光経済部 環境森林課(2023年8月21日ヒアリング)

  • (※3)  

    岩手県紫波町 産業部地球温暖化対策課地球温暖化対策係(2023年8月16日ヒアリング)

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