短観は予想通りの結果
日本銀行は4月1日に3月短観を発表した。大企業製造業の現状判断DIは+17と、前回2025年12月調査から1ポイント改善し、4四半期連続の改善となった。これはほぼ事前予想通りの結果だ。大企業非製造業の現状判断DIは前回比横ばいとなった。他方、先行き判断DIについては、大企業製造業が-3、大企業非製造業が-7とともに悪化した。
今回の短観の最大の注目点は、2月末に始まったイラン情勢緊迫化の影響が、企業の景況感や活動にどのような影響を与えているかを確認することだった。ただし、3月の短観の回収基準日は3月12日であり、イラン情勢の影響を十分に反映しているとは言えない。
大企業製造業の現状判断DIで、石油・石炭製品のDIが前回比-18と大幅に悪化しているのは、原油価格高騰の影響を石油製品に転嫁できずに収益が悪化していることを反映しているだろう。化学のDIが同-5と悪化したのは、ナフサ調達の難しさから、エチレンの減産の動きが広がっていることなどを反映しているのではないか。
しかし両業種ともに先行き判断DIは改善しており、事態が短期間で改善されることを想定しているように見える。
非製造業については、飲食サービスの現状判断DIが大きく改善、小売も改善しており、中国からの渡航者減少の悪影響がやや和らいでいることを反映している可能性もある。
その他では、大企業の国内需給判断DIは1ポイント改善、雇用判断DIは横ばい、2026年度全規模全産業の設備投資計画(含む土地投資)は、2025年度同時期、過去の同時期平均値をともに上回っている。金融環境については、資金繰り判断DI、貸出態度判断DIはともに前回比1ポイントの悪化にとどまった。全規模全産業の5年後の物価見通しは前回比0.1%ポイント引き上げられ+2.5%となった。
今回の短観の最大の注目点は、2月末に始まったイラン情勢緊迫化の影響が、企業の景況感や活動にどのような影響を与えているかを確認することだった。ただし、3月の短観の回収基準日は3月12日であり、イラン情勢の影響を十分に反映しているとは言えない。
大企業製造業の現状判断DIで、石油・石炭製品のDIが前回比-18と大幅に悪化しているのは、原油価格高騰の影響を石油製品に転嫁できずに収益が悪化していることを反映しているだろう。化学のDIが同-5と悪化したのは、ナフサ調達の難しさから、エチレンの減産の動きが広がっていることなどを反映しているのではないか。
しかし両業種ともに先行き判断DIは改善しており、事態が短期間で改善されることを想定しているように見える。
非製造業については、飲食サービスの現状判断DIが大きく改善、小売も改善しており、中国からの渡航者減少の悪影響がやや和らいでいることを反映している可能性もある。
その他では、大企業の国内需給判断DIは1ポイント改善、雇用判断DIは横ばい、2026年度全規模全産業の設備投資計画(含む土地投資)は、2025年度同時期、過去の同時期平均値をともに上回っている。金融環境については、資金繰り判断DI、貸出態度判断DIはともに前回比1ポイントの悪化にとどまった。全規模全産業の5年後の物価見通しは前回比0.1%ポイント引き上げられ+2.5%となった。
イラン情勢の影響は短観にはまだ十分に表れていない
このように、今回の短観は、イラン情勢悪化の前の日本経済の状況が、比較的良好であったことを裏付けた。しかし一方で、今回の短観は、イラン情勢悪化の影響を十分に反映しているとは言い難い。
イラン情勢の悪化が日本経済に与える影響は、現時点でもなお測りがたい。イラン情勢の悪化は、原油供給の減少や原油価格の高騰を通じて、日本経済、そして世界経済の大きなリスクとなっている。中東に原油の調達を依存する傾向が強い、日本を含むアジアの国々にとっては、特に深刻な経済リスクとなっている。
WTI原油先物価格が半年以上の平均で1バレル87ドルの標準ケースでは、日本の実質GDPは1年間で0.18%低下すると見込まれる(図表1)。また、1バレル140ドルの悲観ケースでは、日本の実質GDPは1年間で0.65%低下して、スタグフレーションの傾向が強まる。日本経済が景気後退に陥る可能性も相応に高まるだろう(コラム「イラン攻撃で高まる原油価格上昇リスクと日本経済への影響試算」、2026年3月2日)。
イラン情勢の悪化が日本経済に与える影響は、現時点でもなお測りがたい。イラン情勢の悪化は、原油供給の減少や原油価格の高騰を通じて、日本経済、そして世界経済の大きなリスクとなっている。中東に原油の調達を依存する傾向が強い、日本を含むアジアの国々にとっては、特に深刻な経済リスクとなっている。
WTI原油先物価格が半年以上の平均で1バレル87ドルの標準ケースでは、日本の実質GDPは1年間で0.18%低下すると見込まれる(図表1)。また、1バレル140ドルの悲観ケースでは、日本の実質GDPは1年間で0.65%低下して、スタグフレーションの傾向が強まる。日本経済が景気後退に陥る可能性も相応に高まるだろう(コラム「イラン攻撃で高まる原油価格上昇リスクと日本経済への影響試算」、2026年3月2日)。
図表1 イラン情勢の緊迫化と原油価格上昇の日本経済への影響のシナリオ別試算


原油価格高騰よりも怖い原油の供給不足と電力使用規制
しかし、本当に怖いのは、こうした原油価格の上昇の影響よりも原油の供給不足が深刻化する事態だ。事実上封鎖されているホルムズ海峡の代替ルートを通じた原油の調達を急いで進める必要があるが、ホルムズ海峡からの原油輸入の減少分を補うことは実際にはかなり難しい。政府の石油備蓄も146日程度しかなく、そのうち30日分は既に放出を決めている。
ホルムズ海峡の船舶の運航が正常化しなければ、いずれ日本は深刻な原油不足に直面する。そうしたリスクが高まれば、政府は1970年代のオイルショック時と同様に、ガソリンや電力の消費抑制を個人や企業に呼びかけることになるだろう。
1973年の第1次オイルショック後には、個人に、日曜の自動車利用の自粛、高速道路での低速運転、空調の温度設定調整などが求められた。
経済に特に深刻な影響を与えたのは、電力の大口需要者である大手企業に対して、3か月半程度の間、電力利用の15%削減を求めたことだ。これは、企業の生産活動に甚大な悪影響を与えた。仮に同様の措置が講じられる場合には、以下の計算により、日本の1年間の実質GDPは0.94%も押し下げられることが見込まれる(コラム「第1次オイルショック時と同様の電力使用規制が行われた場合の影響を試算:実質GDPを0.94%押し下げ」、2026年3月27日)。日本は深刻な景気後退、そしてスタグフレーションに陥る可能性が高まるだろう。
1年間の実質GDPへの影響=(企業の生産に占める契約電力 500kW 以上の大口需要者の割合【37.5%】)×(電力供給の削減率【15%】)×(電力供給制限の期間【3.5か月÷12か月】)×(電力供給が1%減少する場合の生産の減少率(弾性値)【0.57】) = 0.94%
ホルムズ海峡の船舶の運航が正常化しなければ、いずれ日本は深刻な原油不足に直面する。そうしたリスクが高まれば、政府は1970年代のオイルショック時と同様に、ガソリンや電力の消費抑制を個人や企業に呼びかけることになるだろう。
1973年の第1次オイルショック後には、個人に、日曜の自動車利用の自粛、高速道路での低速運転、空調の温度設定調整などが求められた。
経済に特に深刻な影響を与えたのは、電力の大口需要者である大手企業に対して、3か月半程度の間、電力利用の15%削減を求めたことだ。これは、企業の生産活動に甚大な悪影響を与えた。仮に同様の措置が講じられる場合には、以下の計算により、日本の1年間の実質GDPは0.94%も押し下げられることが見込まれる(コラム「第1次オイルショック時と同様の電力使用規制が行われた場合の影響を試算:実質GDPを0.94%押し下げ」、2026年3月27日)。日本は深刻な景気後退、そしてスタグフレーションに陥る可能性が高まるだろう。
1年間の実質GDPへの影響=(企業の生産に占める契約電力 500kW 以上の大口需要者の割合【37.5%】)×(電力供給の削減率【15%】)×(電力供給制限の期間【3.5か月÷12か月】)×(電力供給が1%減少する場合の生産の減少率(弾性値)【0.57】) = 0.94%
品不足による価格高騰はけた違いに大きい
原油価格の上昇は、日用品や食料品の価格に幅広く転嫁されていく(コラム「生活に忍び寄る原油価格上昇による物価高:個別の日用品、食料品の価格上昇を推定」、2026年3月6日)。過去の例では、数か月から半年程度の時間をかけて、緩やかに価格の上昇が広がる(図表2)。
しかし足元では、不足するナフサを原料に作られるエチレンの減産の動きが生じている。これは、エチレンから作られるレジ袋・ゴミ袋、食品ラップ・包装フィルム、洗剤・シャンプーボトル、ペットボトル、化学繊維、ポリ容器、接着剤、塗料、医療用品など様々な製品に深刻な品不足をもたらしつつあり、その結果、価格の高騰も生じている。
例えばゴミ袋は4月から30%程度の値上げが予想されており、(図表2)で示した原油価格上昇の影響とはけた違いの価格高騰を生じさせている(コラム「日用品の価格上昇はもう始まっている:家計負担の試算値は年間1.8万円~2.6万円程度」、2026年3月31日)。
しかし足元では、不足するナフサを原料に作られるエチレンの減産の動きが生じている。これは、エチレンから作られるレジ袋・ゴミ袋、食品ラップ・包装フィルム、洗剤・シャンプーボトル、ペットボトル、化学繊維、ポリ容器、接着剤、塗料、医療用品など様々な製品に深刻な品不足をもたらしつつあり、その結果、価格の高騰も生じている。
例えばゴミ袋は4月から30%程度の値上げが予想されており、(図表2)で示した原油価格上昇の影響とはけた違いの価格高騰を生じさせている(コラム「日用品の価格上昇はもう始まっている:家計負担の試算値は年間1.8万円~2.6万円程度」、2026年3月31日)。
図表2 原油価格上昇が日用品・食料品の価格に与える影響(原油価格30%上昇時の1年後の価格の試算値)


図表3は、3月末時点で確認されているエチレン由来の日用品の価格上昇とそれが家計に与える負担を試算したものだ。平均的な家計(4人家族)には、年間1.8万円~2.6万円程度の負担増加になる見通しだ。しかし、値上げの動きは今後さらに広がるだろう。
これに、原油価格上昇による食料品の価格上昇の影響なども上乗せされていくことから、個人消費には大きな逆風となるだろう。
これに、原油価格上昇による食料品の価格上昇の影響なども上乗せされていくことから、個人消費には大きな逆風となるだろう。
図表3 エチレン由来製品の価格上昇と家計負担(4人家族)の試算

日本銀行が利上げを一定期間停止することを余儀なくされるリスクも
イランの紛争状態などに大きな変化はなくても、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続くなど膠着状態が維持されれば、日本の原油不足は着実に深刻さを増していく。それは企業や個人の景況感を悪化させ、経済活動を損ねることになるだろう。さらに、上記のような電力利用規制などの措置が講じられる事態となれば、経済の悪化はかなり深刻になるはずだ。
そうした極めて大きな潜在的リスクがあるなか、日本銀行は、今回の3月分短観の調査結果や支店長会議での企業のヒアリングの報告から、イラン情勢の企業への影響を判断し、4月に利上げを行うことは実際には難しいのではないか。特に、脆弱な零細企業の活動や賃上げの動向などを見極めるには、こうした情報では明らかに十分ではない。
仮にホルムズ海峡の事実上の封鎖が4月中あるいは5月中に解除されることがあるとしても、日本銀行が企業や個人の活動へのイラン情勢の影響を見極めるためには、その後もしばらく時間を要することになり、年前半の利上げは難しいのではないかと思われる。
原油不足の深刻化と原油価格の高騰がそれ以上続き、日本経済への打撃が深刻になる場合には、昨年のトランプ関税と同様に、日本銀行は半年程度などの一定期間、利上げの一時停止に追い込まれる可能性もあるだろう。
金融市場は引き続き、4月の金融政策決定会合での利上げを比較的高い確率で予想している。そうした金融市場の期待を裏切ることで生じる金融市場の混乱、例えば円安の進行などを警戒して、日本銀行が最終的に4月の利上げを決める可能性も全く考えられないわけではない。ただしその場合には、日本銀行は事前に4月の利上げの意思を市場に明確に伝えるはずだ。
そうした極めて大きな潜在的リスクがあるなか、日本銀行は、今回の3月分短観の調査結果や支店長会議での企業のヒアリングの報告から、イラン情勢の企業への影響を判断し、4月に利上げを行うことは実際には難しいのではないか。特に、脆弱な零細企業の活動や賃上げの動向などを見極めるには、こうした情報では明らかに十分ではない。
仮にホルムズ海峡の事実上の封鎖が4月中あるいは5月中に解除されることがあるとしても、日本銀行が企業や個人の活動へのイラン情勢の影響を見極めるためには、その後もしばらく時間を要することになり、年前半の利上げは難しいのではないかと思われる。
原油不足の深刻化と原油価格の高騰がそれ以上続き、日本経済への打撃が深刻になる場合には、昨年のトランプ関税と同様に、日本銀行は半年程度などの一定期間、利上げの一時停止に追い込まれる可能性もあるだろう。
金融市場は引き続き、4月の金融政策決定会合での利上げを比較的高い確率で予想している。そうした金融市場の期待を裏切ることで生じる金融市場の混乱、例えば円安の進行などを警戒して、日本銀行が最終的に4月の利上げを決める可能性も全く考えられないわけではない。ただしその場合には、日本銀行は事前に4月の利上げの意思を市場に明確に伝えるはずだ。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。