&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

メドテックコラムは、コンサルタントが企業に共通する課題をとらえ、考察したことを読者のみなさまと共有することを目的に執筆し、連載でお届けする。今回は、Vol.2(医療機器メーカーの視点で考える「医療機器CDMO」ビジネスの意義と課題)に引き続き、『医療機器CDMO』(CDMOはContract Development and Manufacturing Organizationの略、以下CDMO)について述べる。本コラムでは、医療機器CDMO市場の概観や、医療機器CDMOとしての成長戦略、そして異業種企業による業界参入の可能性について述べる。

医療機器CDMO市場の概観

医療機器CDMOの市場規模はグローバルで890億ドル程度(2024年)と見込まれており、年平均約12%(2020~2024年)で拡大を続けている。[1]

出所) Alira Health「Global Medical Devices Outlook」2025, 2022よりNRI作成

医療機器CDMOの市場の特徴は、大手企業による寡占が進んでおらず、細分化した市場となっていることである。最大市場である米国では、売上高5億ドル以下の企業が全体の約7割を占める。背景として、製品のバリエーションが豊富であること、顧客に合わせたきめ細やかな対応が求められること、安定した顧客基盤を持つ高収益企業が多いことが挙げられる。一方で、近年は業界内における再編の動きが活発化しており、医療機器CDMOの成長戦略としては大きく2つの方向性が明確になりつつある。

医療機器CDMOの成長戦略

医療機器CDMOは、各社コアとなる強みを基に、研究開発・製造拠点への投資や他社との協業、M&A等により事業拡大を進めている。主な成長戦略として、①製造キャパシティ及び専門領域の拡大によるフルサービス化、②専門性の強化によるニッチトップ化の2つの方向性がある。

  • 製造キャパシティ及び専門領域の拡大によるフルサービス化
    フルサービス化をめざす医療機器CDMOは、大手メーカーからの受注を可能とする製造キャパシティを確保し、顧客ニーズに合わせて専門性を拡大し続けている。代表的な企業として、米国のViant社が挙げられる。Viant社は心血管や整形外科、ドラッグデリバリーなど成長性のある技術領域に注力し、M&Aを通じて素材の専門性や高精度な微細加工技術を獲得してきた。加えて、コスタリカなどオフショア製造拠点を整備しキャパシティを確保することで、10億ドル以上の売上高を実現している。[2]
  • 専門性の強化によるニッチトップ化
    ニッチトップ化をめざす医療機器CDMOは特定の技術領域に強みを持ち、他のCDMOが対応しきれない、あるいは追随出来ないニッチな専門性を競争優位の源泉とする。例として素材に強みを持つ米国のBiomerics社が挙げられる。Biomerics社はポリマーと金属の専門知識を持ち、素材そのものの開発に強みを持つ米国企業である。特に医療グレードのポリウレタン材料のカスタマイズを得意とし、カテーテルやガイドワイヤーなどの医療機器に特化した研究開発機能を内製化している。素材の加工に強みを持つCDMOは多いが、Biomerics社は素材の開発から対応できる点が特徴である。このような専門性によって、Biomerics社は世界の上位30社の医療機器メーカーのうち20社への製品供給に成功している。[3]

医療機器開発・製造プロセスの変化に見る、異業種参入の好機

従来、異業種企業が医療機器業界に関与する場合、製造工程の一部受託や部材供給といった限定的な役割が大半であった。開発や製造のプロセスにより深く関わるには、自ら医療機器メーカーとなる必要があった。しかし近年では、医療機器開発のプロセスはメーカーがすべての機能を内製化するのではなく、積極的にアウトソーシングする方向に変化しつつあり、異業種企業による参画の余地が広がっている。異業種による医療機器CDMO参入の好機を以下に整理する。

  • 医療機器の低侵襲化やIT・デジタル技術による個別化がもたらす技術ニーズの多様化
    患者負担の少ない医療機器の普及やデジタル技術に基づく医療機器の個別化が進む中、電子機器、IT、精密加工、センサー技術など分野で高度な技術力を有する異業種企業にとって、医療機器の受託開発・製造分野への参入機会が広がっている。特に近年は、治療効果の向上や患者のQOL(生活の質)改善に資する高機能材料や微細加工技術への関心が高まっている。低侵襲化の文脈においては、インターベンション治療の進展やインプラント需要の増加に伴い、柔軟性・耐久性の高い形状記憶合金であるニチノールが注目されている。医療機器を含む幅広い産業に向け金属のレーザー加工サービスを提供していた米国のResonetics社は、事業ポートフォリオを医療機器向けのニチノール加工サービスに集中し、ニチノール素材のサプライヤーや加工事業者を複数買収することで、医療グレードのニチノールのトップ・プレイヤーとして存在感を示しつつある。[4] デジタル技術を活用し個別化医療を支える医療機器として、持続血糖測定器(CGM)などのモニタリング用医療機器のニーズが高まっている。CGMは患者のQOL向上のために小型化・軽量化が求められており、低消費電力の電子回路設計や小型・高性能なセンサー技術が鍵となっている。例えば、例えば、バイオセンサーの設計開発技術に強みを持つ米国のPhillips Medisize社は、従来とは異なり針を使わないCGMの開発を支援することで新たな価値を生み出そうとしている。[5]
    このような開発・製造トレンドは、技術ニーズに応えられる専門性、例えば生体適合性・耐久性の高い高機能素材の開発・加工、あるいは医療機器の小型化を実現する微細加工技術やセンサー技術に強みを持つ日本企業にとっての参入機会であると言える。
  • 医療機器の開発・製造プロセスにおける連携・分業体制の進展
    医療機器の高度化・多機能化に伴い、開発・製造に必要となる技術領域や専門人材の幅は拡大している。医療機器メーカーが全工程を内製化しようとすると、設備投資や人件費の増加による固定費の肥大化は避けられない。こうした背景から、当該技術を所有し、かつ費用の変動化やコスト抑制が可能な外部パートナーとの連携・分業体制の構築が、メーカーにとって現実的かつ戦略的な選択肢となっている。外部の専門性を活用することで、自社の中核技術に経営資源を集中できるなど、競争力の強化にもつながる。医療機器の開発・製造には、規制対応や認証支援、製品設計、試作、製造などの多岐にわたる工程が存在する。近年、各工程における業務の標準化や設計データ・文書管理のデジタル化が進んだことで、社外との情報共有や役割分担のハードルが下がりつつあり、業界全体として連携・分業の傾向が強まっている。したがって、「部品サプライヤー」にとどまらず「構成部品やモジュールの開発パートナー」として、異業種企業が医療機器分野に参入しやすい土壌が整いつつあると言える。分業化の進展は、異業種企業にとって、部材の納入などモノ売りを主としたビジネスモデルをコト売りへと変化させる機会であるとも言える。特に化学・素材メーカーであれば、生体適合性素材、抗菌コーティング、医療用樹脂など、素材自体の研究開発や規制対応に取り組むことで、開発パートナーとしての価値を提供することが可能であると考えられる。

終わりに

ここまで述べてきたように、医療機器に求められる技術は多岐にわたり、化学・素材、機械、金属加工など幅広い専門性が不可欠である。加えて、これまで医療機器であまり活用されてこなかった技術や素材に対する需要も増加しており、医療機器メーカーによる受託開発・製造へのニーズが高まっている。したがって、最終製品メーカーを目指さずとも、医療機器分野へ参入する機会は拡大していると言える。
化学・素材、機械、金属加工などに強みを持つメーカーは、これまで多様な顧客ニーズに応じて素材特性や形状、加工精度を調整し、高い付加価値を提供してきた。単なる部材供給にとどまらず、製品設計や試作段階からの共同開発にも柔軟に対応できる素地がある点は大きな強みである。また、医療機器CDMOという業態は、単なる製造受託にとどまらず設計・開発段階から顧客と協働し、サービスとしての価値を提供する新たなビジネスモデルに繋がる可能性がある。異業種企業にとって医療機器CDMOは、これまで培ってきた技術力や顧客対応力を活かしたサービス化戦略、あるいは新規事業戦略の1つとして捉えられるのではないだろうか。

  1. [1]Alira Health 「The 2025 Global Medtech Contract Development and Manufacturing Report」(2025/3)
  2. [2]Viant「Integer Announces Plans to Divest Advanced Surgical and Orthopedics Product Lines to Viant LLC for $600 Million」(2018/3/3)
  3. [3]Biomerics「Biomerics Expands Medical-Grade Polyurethane Offerings With Quadraflex® AREX」(2025/2/4)
  4. [4]Resonetics「Resonetics Completes Acquisition of Memry and SAES Smart Materials」(2023/10/2)
  5. [5]Molex「GlucoModicum、フィリップス・メディサイズと提携し、針で指先を刺さずに済む革新的な継続的血糖値モニターを開発」(2023/10/3)
 

ご関心のある方は、本稿をまとめた資料をダウンロードいただき、ご参照いただければ幸いです。

プロフィール

  • 水谷 汐里のポートレート

    水谷 汐里

    ヘルスケア・サービス産業コンサルティング部

  • 山崎 亮輔のポートレート

    山崎 亮輔

    ヘルスケア・サービス産業コンサルティング部

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。