「2024年問題」に端を発する物流危機を受け、2024年5月に「物流関連二法」が改正された。特に注目すべきは、2026年4月に改正法が全面施行され、一定規模以上の「特定荷主」に対し、CLO(物流統括管理者)の選任と中長期計画の作成・提出が義務化された点である。本連載では、これを単なる法対応という「守り」の義務と捉えるのではなく、CLOがいかに全社的なサプライチェーン改革を牽引し、企業価値向上に寄与するかという「経営レベルでの対応」の在り方を紐解いていく。
1. 物流「2024年問題」と2026年4月施行の法改正
日本の物流インフラは今、歴史的な転換点を迎えている。その最大の契機となったのが、トラックドライバーの時間外労働の上限規制(年960時間)が適用された、いわゆる物流「2024年問題」である。
労働環境の改善という社会的要請の一方で、これまで運送事業者の長時間労働に依存してきた輸送力は大幅に削がれることとなった。このまま何も対策を講じなければ、2030年度には国内の輸送能力が約30%以上不足するという深刻な試算(NX総合研究所より)もされている。つまり、「モノが運べなくなる」事態が荷主・物流会社双方の経営リスクとして現実味を帯びてきたのである。
この危機を乗り越えるため、政府は異例のスピードで法整備を進めた。2024年5月に成立・公布された「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」および「貨物自動車運送事業法」の改正法、通称「物流関連二法」である。
今回の法改正の最も大きな特徴は、これまで運送事業者の自助努力に委ねられがちだった物流の効率化について、荷主の「責務」を法律で明確に規定した点にある。これまでは荷主側の商慣習や要請(長時間の荷待ち、細かな時間指定、多頻度小口配送など)が非効率の根本原因であっても、法的な強制力をもって是正を迫ることは難しかった。しかし物流総合効率化法の下では、荷待ち・荷役時間の削減や積載率の向上に向けた措置が、すべての荷主に対する努力義務として課される。さらに、段階的な施行を経て、2026年4月には改正法が全面施行され、大企業を中心とした荷主企業に対して極めて強力な規制が発動されたのである。
2. 特定荷主に義務化されるCLO選任の意味
2026年4月の全面施行に伴う規制強化において中心となるのが、「特定荷主」に対する義務化である。改正法では、取扱貨物重量が年間9万トン以上といった一定規模を超える企業を特定荷主(および特定連鎖化事業者)として指定する。法が施行された初年度である2026年は、5月末を期限とする特定荷主の届出を皮切りに、指定後速やかな「CLO(物流統括管理者)」の選任、そして10月末を初回提出期限とする「中長期計画の作成・報告」が求められる。
特に重要なのが、計画の策定および実行の最高責任者として新たに設置される「CLO(Chief Logistics Officer:物流統括管理者)」である。
法令がCLOに求めているのは、単なる物流部門の責任者の延長線上の役割ではない。役員クラスなど、経営的視点から物流業務を統括し、自社の事業活動全般にわたって改革を推し進める「権限」と「責任」を持つ存在でなければならない。
【図表1 一定規模以上の事業者(特定荷主)への規制的措置】

出典:荷主向け!物流効率化法の概要(経済産業省)
(https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/logistics_efficiency/bukkouhougaiyou.html)より抜粋
国は、計画の未提出や、取り組み状況が著しく不十分な企業に対しては、勧告や命令を行い、従わない場合は企業名の公表や罰金(100万円以下等)を科すという厳しいペナルティを用意している。この厳格な措置の背景には、「物流の非効率は現場の問題ではなく、経営の問題である」という国からの強いメッセージが込められている。
3. 国が求める「経営レベルでの対応」とは
では、なぜ物流部門の責任者ではなく、経営層であるCLOの選任が法令で明記されるまでに至ったのか。それは、物流の非効率を生み出す原因が、物流部門の管轄外に存在することが圧倒的に多いためである。
多くの企業において、物流部門はコストセンターとして扱われ、決められた予算内で日々のオペレーションを回すことに奔走している。しかし現実には、物流の非効率を生み出す根本原因は、各事業部門が自部署の目標を優先する「部分最適」の連鎖にある。例えば、営業部門が売上確保のために過剰な在庫を要求し、製造部門が原価低減のために大ロット生産を続ければ、そのしわ寄せはすべて物流現場の逼迫や無駄な輸送コストとなって表れる。これまで物流部門の責任者が、より強い権限を持った営業本部長や工場長に対して、「既存のサービスレベルや取引条件を緩和してほしい」と交渉し合意を取り付けることは、立場上困難なケースが多かった。
だからこそ、全社を俯瞰し、部門間の利害の対立を調整できる強い権限を持ったCLOが必要となる。国が求める「経営レベルでの対応」とは、まさにこの全体最適の推進である。CLOは、売上至上主義と物流の持続可能性の間に生じるトレードオフを解消し、時には自社の事業モデルや長年の商慣習そのものにメスを入れる覚悟を持たなければならない。取引先との契約条件を見直し、適正な運賃を負担する判断を下すことも、経営レベルの権限がなければ不可能である。
4. 多くの企業が抱える戸惑いと本連載の狙い
2026年4月の全面施行以降、2026年5月末の特定荷主届出から始まる一連の法対応を前に、対象となる多くの企業が戸惑いを見せているのが実情だ。「誰をCLOに任命すればよいのか」「中長期計画には何を書けば国から指摘されずに済むのか」「罰則を受けないための最低ラインはどこか」。法令遵守を主目的とした、いわば「守り」の議論に終始しているケースが散見される。
しかし、ここで強く認識すべきは、「制度に適応すること」と、「制度が突きつける課題を解決すること」は、決して同じではないということだ。単に罰則を逃れるための名ばかりのCLOを置き、実態の伴わない計画を提出したところで、加速するトラックドライバー不足の根本解決には至らない。いずれ運送事業者から見放され、事業の継続そのものが危ぶまれる事態に直面するだろう。
今回の法改正は、物流を「コストセンター」から「経営機能」へと引き上げるための、これまでにないチャンスである。制度対応を目的として据えた後ろ向きな対応では、このまたとない機を逃すことになる。
本連載では、この法改正を単なる「規制」として捉えるのではなく、企業が一段上のステージへ飛躍するための「サプライチェーン改革の起点」と位置づける。第2回以降では、CLOがいかにして物流部門の枠を超えた経営者としての視座を持つべきか、そして現場のコスト削減から企業価値向上へとパラダイムシフトを起こすための具体的なアプローチを紐解いていく。
さらに、CLOに求められるスキルセットとガバナンス、コンプライアンスと利益創出を両立させるKPIマネジメント、サプライチェーンに潜む病巣を特定する診断手法、デジタル(DX)を活用した可視化・最適化、そして持続的な改革を支える組織づくりまで、実践的なノウハウを体系的にお伝えしていく。
本連載が、経営イシューである物流危機に立ち向かい、次世代のロジスティクス経営を牽引するすべてのリーダーや企業にとっての羅針盤となれば幸いである。
プロフィール
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倉掛 祐樹のポートレート 倉掛 祐樹
アーバンイノベーションコンサルティング部
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