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物流関連二法の本格施行により、特定荷主企業には「中長期計画の策定と定期的な報告」が義務付けられ、KPIとして「荷待ち時間等の短縮や積載率向上」が管理対象となった。しかし、これらをドライバー保護のための「コンプライアンス指標」としてのみ捉え、CLO(物流統括管理者)がその対応に終始すると、物流部門は「コストをかけて法律を守るだけのコストセンター」に留まる罠に陥ってしまう。
目指すべきは、物流部門を「プロフィットセンター」へと転換することである。これは単なる物流コストの削減に留まらず、売上に影響する納期や、在庫コストとの全体バランスを最適化し、全社の利益創出に貢献する存在に転換することを意味する。その実現のためには、「在庫回転率」や「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」などP/LやB/Sに直結する指標を可視化し、あちらを立てればこちらが立たずとなる「トレードオフ」にあるKPI同士のバランスを経営視点で捉えることこそが、CLOの真のミッションである。本稿では、そのためのKPIマネジメントについて解説する。

1.コンプライアンス対応のためのKPI

まず、法改正によってCLOが管理責任を負う「コンプライアンスKPI」として、荷待ち時間(待機時間)、荷役時間、積載率の3点が存在する。これらは「物流2024年問題」に対応し、輸送能力を確保するために不可欠な指標となる。
これらのコンプライアンスKPIはこれまでは「現場レベルの作業指標」と捉えられてきたが、CLOにとって真に重要なのは、これら現場指標が最終的に企業のP/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)にどのようなインパクトを与えるか、その因果関係を可視化し、サプライチェーン全体での改革の機運を高めていくことである。
例えば「荷待ち時間の短縮」は、ドライバーの稼働効率を高め、協力運送会社の実質的な収益改善に寄与する。その結果、自社が深刻化するトラック不足の中で運送会社から「選ばれる荷主」となることになり、安定的な車両確保を実現できる。これは物流の停滞による売上機会の損失を防ぎ、中長期的には急激な輸送コスト高騰の緩和にも貢献する。加えて「積載率の向上」は、輸送回数の削減による配送単価の低減および、CO2排出量の削減にも直結する。
このように、「荷待ち時間の短縮」などの現場レベルの活動指標(先行指標)と、売上・利益やROICといった経営レベルの財務指標(遅行指標)をロジックツリーで結びつけることが重要である。「今、待機時間を減らすことが、将来の利益確保にどうつながるか」を経営陣や他部門に説明できる状態にすることが、KPIマネジメントの第一歩となる。

2.トレードオフ(コスト増vs安定供給)の解消

もしCLOが「コンプライアンスKPIへの対応」や自部門の「部分最適」だけを優先事項として掲げると、現場や全社に深刻な副作用をもたらすこととなる。法令遵守という大義名分のもと、事業の「稼ぐ力」を削いでしまうトレードオフが生じるためである。
例えば、トラックの待機時間をゼロにするために、いつでも即座に荷降ろしができるよう倉庫の作業員を大幅に増員したとする。待機時間は確実に減るが、今度は倉庫の人件費(庫内作業費)が高騰してしまう。

図1 部門間KPIのコンフリクト構造

図1 部門間KPIのコンフリクト構造

出所:NRI作成

図1に示すように、こうした問題の根幹には各部門が追うKPIの矛盾が存在する。営業部門は「売上拡大」を目的とし、欠品による機会損失を避けるために在庫を厚く持つインセンティブが強く働く。工場も「稼働率向上(製造原価低減)」のために大ロットで生産しようとする。一方で物流部門は「物流費削減」を目的とする。たとえば輸配送費を抑えるためにトラックの「積載効率」向上を優先し、荷物が満載になるまで出荷を待てば、今度はリードタイムが延び、「OTIF(納期遵守率)」が悪化して顧客からの信頼低下や売上減少を招く恐れがある。
各部門がそれぞれのKPIで自部門の「部分最適」を追求した結果、いずれのケースもサービスレベルとコストのトレードオフを適切に制御できていない状態に陥り、全社的には過剰在庫による倉庫の大型化(固定費増大)やキャッシュフローの悪化を招くことになる。CLOはこうした部門間のコンフリクトを察知し、コスト増と安定供給のバランスを調整する役割を担わなければならない。

3.P/LとB/Sを統合したトレードオフの制御

図2 ROICを頂点とした経営視点のKPIツリー

図2 ROICを頂点とした経営視点のKPIツリー

出所:NRI作成

前項で述べたような部門間コンフリクトによる過剰在庫は、企業の財務に深刻な影響を及ぼす。これまで多くの企業では、営業責任を持つ事業部門が在庫責任も負うケースが一般的であり、売上確保のために在庫を積み増す傾向にあった。しかし、金利上昇局面を迎えた現在、過剰在庫の代償はこれまで以上に大きくなっている。
売上貢献という正の側面だけではなく、「金利負担の増加、フリーキャッシュフローの低下に加え、P/L側での保管費や廃棄ロスコストなどの在庫管理コストの増加という負の側面」を正しく捉えなければならない。部門ごとのインセンティブに任せて安全在庫を積み増せば、B/S側の「在庫(DIO)」が膨張して運転資本が悪化し、結果的に全社の資金効率を大きく圧迫する。

CLOにとって最も重要な役割は、図2に示すようなP/L(収益性)とB/S(資本効率)の視点を統合した「KPIツリー」全体を俯瞰し、指標間のコンフリクトを制御することである。あるKPIの改善が、相反する別のKPIの悪化を招く可能性があるため、CLOはそのトレードオフをモニタリングし、全体最適となる施策を講じる必要がある。
ただし、CLOが営業の「売上」や現場の「生産効率」に直接責任を負うという議論は役割の曖昧化を招く。営業や生産が持つ一次責任を尊重した上で、CLOは部門間のトレードオフを可視化し、経営の意思決定を補佐する横串機能こそがその本質である。

つまり、CLOに求められる本質的な役割は「バランサー」としての機能にある。具体的には、販売・生産・調達・物流の各計画に対し、実績との乖離を常時モニタリングし、あらかじめ定めた閾値を逸脱した「異常時」に介入する仕組みを構築することだ。欠品リスクや過剰在庫が顕在化した局面では、S&OP(販売・操業計画)のプロセスを主導し、関係部門を招集して計画の組み替えを指揮する。例えば、売上計画未達で在庫が膨らむ場合には、調達抑制や販促見直し等をキャッシュフロー観点で議論できる形に整え、迅速な意思決定を促す。こうした「異常検知」と「計画の動的調整」を回せるか否かが、CLOが担う経営視点のKPIマネジメントの真価である。

次回の第5回では、こうした全体最適に向けた改革を進めるにあたり、具体的にどこに「ガン(阻害要因)」が潜んでいるのかを発見する診断術について解説する。

プロフィール

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    倉掛 祐樹

    アーバンイノベーションコンサルティング部

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。