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野村総合研究所と
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物流関連二法の改正により、商品や貨物の輸送が不可欠な産業分野は、物流、とりわけトラック輸送の生産性向上に資するKPIの改善が求められる。これまで、トラック輸送の責任を持つ発荷主が、着荷主と輸送効率やリードタイム、在庫水準といったサプライチェーン全体の最適化について調整をする機会は非常に限られていたが、今後は必然的にやりとりが増える。これは、単にトラック輸送のKPI改善に留まらず、商流も含めたサプライチェーン全体の最適化を進める好機であり、その責任を担う物流統括管理者(CLO)には調達・生産・販売・物流・開発を俯瞰する経営者の視座が求められる。

1.迫る法改正対応と現場改善の限界

改正物流2法により、トラック輸送の生産性向上が求められる。具体的には「積載効率の向上」「荷待ち時間の短縮」「荷役等時間の短縮」というKPIの改善である。これらは、改正物流関連法への対応というコンプライアンスの観点からも達成が前提となる。一方で、KPI改善は発荷主の現場努力だけでは完結しない場合がある。発荷主はトラック輸送に責任を持つ主体であり、現場の工夫に加えて、着荷主との調整や経営レベルでの判断が不可欠となる。

日本の物流は1990年からの30年間、高い品質とサービスを維持しながらコストを徹底的に削減してきた。これから人口減少が進み、人手不足による人件費の高騰は避けられない状況にある。このような環境下では、従来型の改善を積み上げるだけでは持続性に課題が残る。今後ロボット技術の進展とも相まって、物流拠点の省人化・自動化を段階的に進める流れが想定される。したがって、ここから先は現場改善というより、投資判断の領域である。

2.物流をコストからバリューでとらえる

経営が適切な投資判断を行うためには、物流を単なる「コスト」ではなく「バリュー」で捉え直す必要がある。ここでの「バリュー」とは、単なるモノの移動ではなく、必要な時に必要な場所に確実に届けることによる顧客体験の向上や、欠品による売上機会損失の回避など、事業の稼ぐ力に直結する競争優位性そのものを指す。
これまで物流への投資といえば、過去30年間にわたり行われてきた設備の老朽化に伴う維持更新のための投資など、コストを現状維持するためのものが主であった。しかし、今後の物流のバリューを高めるための投資とは、例えば「高度なWMS(倉庫管理システム)導入による在庫精度の向上とリードタイム短縮」や「自動化設備による処理能力の抜本的な増強」など、売上拡大を牽引し、同時に資金の滞留(キャッシュ・コンバージョン・サイクル:CCC)を短縮して資本効率(ROIC)の向上につながる前向きな投資である。
先日、参加したとあるセミナーで、食品卸のCLOが次のように語っていた。物流部長とCLOの違いを問われ「物流部長は品質などのサービスが維持される中、コスト削減のみを追求しがちであるが、CLOは企業価値の観点でみており、企業価値が向上するのであれば投資も厭わない」と答えていた。この発言は、物流をバリューとして捉えた投資判断の要諦を示している。
物流は輸送と保管に大別され、在庫は流動資産であるため、商品によっては時間経過とともに価値が下がる一方で、過度な在庫削減は欠品リスクを高めるというジレンマを抱えている。したがって、在庫とそれを支える物流オペレーションは、ともにキャッシュ・フローに直結する重要な経営テーマである。重要なのは、「企業価値向上のために、投資やコストをどの程度かけられるのか」を判断することであり、こうした観点から物流をバリューとして捉えることが、CLOに求められる視座である。
単純に物流をコストとみなし、物流部長がコスト削減にまい進する時代は終わりつつある。物流・ロジスティクス、さらにサプライチェーンのマネジメントを価値として正当に評価する必要がある。
さらに、期初計画を守るだけでは不十分である。計画変更が必要な状況を早期に把握し、期中に軌道修正することが重要である。場合によっては新たな施策や投資に踏み切る経営判断が必要となる。
この投資判断を成立させるには、CLOがCEO・CFOに対して、物流のバリューを定量的に示しながら対話できることが不可欠である。従来は「物流コストが〇円下がるため投資回収できる」という説明が中心であったが、今後は「物流の業務プロセス改善や効率性向上のための設備に〇円投資することで、企業価値が〇円上がる」という説明が求められる。
言い換えると、施策と投資がPL(損益計算書)・BS(貸借対照表)・CF(キャッシュ・フロー計算書)をどう改善するかを、CLOが明確に伝えられるようにする必要がある。例えば、平均在庫日数を1日削減した場合のキャッシュ・フロー改善や、在庫不足による売上機会損失が経営指標に与える影響を、定量的に示すことが求められる。さらに、改正物流2法におけるKPIの改善が、最終的にROA・ROE・ROIC等の経営指標(KGI)の向上につなげることができるかまで説明することが重要である。

図 物流改善KPIと企業KGIの関連性

出所)各種資料より野村総合研究所作成

ここで留意すべきは、発荷主企業がトラック事業者の配送オペレーションに直接介入するわけではないという点である。発荷主企業の責任は、自社拠点での「荷待ち時間の削減」や「荷役作業の効率化」など、自社側のオペレーションを改善することである。こうした発荷主側の取り組みは、トラック事業者の稼働効率を高め、「選ばれる荷主」として安定的な輸送力の確保や運賃高騰の抑制につながることが期待される。ひいては、物流の停滞による売上機会の損失を防ぎ、最終的に自社の売上・利益(KGI)への貢献につながる。この波及メカニズムを定量的に説明できることが、CLOには求められている。

3.持続化可能性が求められる今後のロジスティクス管理

ロジスティクスの管理指標として、QCD+ES(Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)、Environment(環境)、Service/Safety(サービス・安全性))の5要素で管理する手法が一般化してきた。1990年代から2000年初頭にかけては、QとDを維持する中でCを削減する方策が主流だった。その後、2011年の東日本大震災を受けてサプライチェーン寸断のリスクが顕在化したことで安全性(S)が注目され、また2015年のCOP21(パリ協定)を契機に地球環境問題(E)が重要視されるようになった。さらに近年の深刻な人手不足(物流「2024年問題」)と運賃高騰が決定打となり、旧来のQCD維持とコスト(C)削減の両立は物理的な限界を迎えている。また、昨今は地球温暖化などにより激甚災害が頻発していることも懸念の一つである。これまでEとSは理念として尊重されていたが、今後は必然的に管理の優先度が高くなってくる。

表 ロジスティクスの管理指標

出所)各種資料より野村総合研究所作成

ここで重要な観点は、QCDESが物流やロジスティクスの分野だけでなく、調達・生産・販売といったすべての企業活動に共通する重要なKPIである点である。例えば、営業部門は「売上拡大(欠品回避)」のために在庫を積み増そうとし、生産部門は「製造原価低減」のために大ロットで生産しようとする一方、物流部門は「物流費削減」のために在庫を絞ろうとする。このように、部門間が自部門の最適化(部分最適)を追求する結果としてコンフリクトが生じており、物流現場の努力だけでQCDESを維持・改善することは、もはや不可能になりつつある。特にEやSは自社内だけで完結するものではなく、上流の原材料供給パートナーから、下流の卸・小売などの販売先に至るまで、サプライチェーン全体でのQCDES管理が求められる。
これまで物流部門は、自社の物流現場を主としてコストの観点から管理してきたが、今後CLOには、新たな法令遵守のゲートキーパーとしての役割に加え、ESの観点も含めた物流を中心とした全社最適の司令塔としての役割が求められる。
上流の原材料供給パートナーから、下流の卸・小売といった販売先まで、サプライチェーン全体を俯瞰するためには、第一に各種KPIの可視化と、その定義・粒度の統一が必要がある。つまり、サプライチェーン全体の外部企業を含めて経営判断を行うには、同じ定義の同じデータを同じ観点でみることができるようにし、この経営指標の一致・統制が物流改革の第一歩となる。そのうえで、サプライチェーン全体で向上を目指すKPI(コストに加え、欠品率の最小化、在庫日数やキャッシュ・ツー・キャッシュサイクルの短縮、リードタイムの適正化など)を合意し、具体的な施策を検討していく必要がある。
CLOの役割は、社内外のステークホルダーを巻き込み、サプライチェーン全体のKPIを共通言語として統合し、部門間が部分最適を追求することで生じるコンフリクトを解消しながら、物流を中心とした企業価値の最大化に向けた投資判断と事業構造の全体最適を主導することである。

プロフィール

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    矢崎 圭

    アーバンイノベーションコンサルティング部

    慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、2011年にNRI入社。
    航空・空港、鉄道、物流などモビリティ・ロジスティクス業界に対するコンサルティングを専門とし、経営戦略・事業戦略の策定、構造改革の推進、および新規事業開発などに数多く従事。
    近年は、持続可能な交通・物流インフラ検討や、国際事業拡大に向けた戦略策定・施策立案に加え、企業の物流改革・サプライチェーン最適化の取り組みにも注力。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。