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「社会・産業のデジタル化提言」に向けて

未来創発センター グローバル産業・経営研究室 上級研究員 森 健

#DX

2019/09/25

野村総合研究所(NRI)では、2017年から「デジタルが拓く近未来」をテーマに、日本や世界のあるべき姿や企業経営の方向性を考えるフォーラムを3カ年かけて開催してきました。最終年となる2019年は、それらの総集編という位置づけで、NRI代表取締役会長兼社長の此本臣吾が基調講演「社会・産業のデジタル化提言」に登壇します。
「デジタルが拓く近未来」の姿についての研究成果をまとめた『デジタル資本主義』(東洋経済新報社)共著者の一人である森健が、本講演で注目されるキーワードについて紹介します。

デジタル時代の経済社会評価、企業、政策まで幅広い分野への提言を予定

基調講演「社会・産業のデジタル化宣言」は、4つの柱からなっています。「デジタル時代の経済社会指標」、「デジタル化による国・地方の豊かさの実現」、「デジタル社会を支えるデータ資産」、そして「デジタル資本主義時代の企業の対応」です。これらについて森は、次のように話します。

「今回は3カ年の総集編として、デジタル時代の新指標、企業経営から国・地方の施策レベルまで網羅した内容となる予定です。デジタル化によって起こる社会構造や産業構造の変化と、それによって生み出される課題について、解決の方向性を示唆できればと思います」

デジタル時代の新しい価値基準とは――消費者余剰やデジタル資本への評価を

世界のGDP成長率はリーマンショック後に低迷を続けていますが、それにもかかわらず、NRIを含め世界の各種機関が実施した調査結果などから、アメリカを除く世界の多くの国で、消費者の生活満足度が高くなっていることがわかっています。この理由を、森は「デジタル技術の恩恵によって、消費者が生活の質の豊かさを感じるようになっているため」と分析します。

「現在、デジタルサービスが生み出す『消費者余剰』(消費者が最大限支払ってもよいと思う支払意思額と実際の価格の差。金額には表れない消費者の利便性やお得感)が、非常に大きくなっています。無料で利用できるLINE電話などは典型例でしょう。つまり消費者は、無料もしくは信じられないほどの低料金で、質の高いサービスを受けられるようになったのです」

森は、こうした消費者余剰を生み出す源泉として「デジタル資本」の存在をあげます。

「ここでいうデジタル資本には、アルゴリズム(コンピュータに仕事をさせる手順や計算方法)とデータを含みます。グーグルの検索サービスを例にとると、一般の利用者はキーワード検索というアルゴリズムに、広告主(グーグルに広告を出稿している企業)は誰がどのような分野に関心を持っているかというデータに対して、大きな付加価値を感じています」

そして、経済に占める消費者余剰やデジタル資本のウェイトが高まることに伴い、新たな経済指標の必要性を森は訴えます。

「デジタル経済が進展するにつれて、経済指標としてのGDPの限界がはっきりしてきました。人々の生活満足度や幸福度といったものは、物質的充足度だけを計測するGDPでは適切に表現できないからです。現在の日本のGDPは500兆円ぐらいですが、これに加えてこれまで考慮されてこなかった消費者余剰やデジタル資本の価値を新たに評価し、試算すべきだとNRIは考えています」

注目される、ウェルビーイング(well-being)とデジタル社会資本の概念

一方で、2009年に発表された通称「スティグリッツレポート」を契機に、ウェルビーイング(well-being)という概念が経済界でも注目を浴びています。これは「身体的にも、精神的にも、社会的にも満たされた状態」を指します。この考え方の下ではGDP(所得)や消費者余剰などの経済的要素はその一部に過ぎず、他にも健康や、家族や友人との関係性、個人の自由など非経済的な要素も重視されます。

「消費者余剰やデジタル資本の価値評価は重要な一歩ですが、すべてが金額換算できるという考えは危険です。これからの企業経営や、国や地方自治体における政策においては、金額換算できない要素も含めて市民全体のウェルビーイングの最大化が目標になるでしょう。そのためには、『デジタル社会資本』とでも呼べるインフラが必要になります」

ウェルビーイングの最大化を実現するためのデジタル社会資本とは、具体的にどういうものなのでしょうか。

「例えば、北欧に位置するエストニアは、国全体がデジタル化された電子国家として知られています。X-Roadというプラットフォーム上に、個人の収入や支出、医療情報など、個人情報の全てがデータとして安全に管理されています。納税なども、ごく短時間で済ませることができ、国民は利便性の高い生活を送れます。また、自分のデータに誰がアクセスしているかを確認したり、他者のアクセスをシャットアウトすることができるなど、データのコントロール権も保証されています。このような社会も、デジタル社会資本のヒントになると思います」

DXへ向けて日本企業が行う戦略とは

日本の企業経営においては、ビジネスモデルを変えるためのDXを推進する動きが高まってきています。2018年末から19年にかけて、MIT(マサチューセッツ工科大学)とNRIは共同で日本企業においてDXがどの程度進んでいるかという実態調査を行いました。

「今回のフォーラムの特別講演のゲストスピーカーでもあるMITのジョージ・ウェスターマン氏は、企業がDXを推進するためには『デジタル能力』と『リーダーシップ能力』という2軸が必要であるとし、最上位のDXを推進する企業『デジタルマスター』に到達するためには2軸の両方を兼ね備える必要があると言っています」

森はフォーラムの見どころを次のように述べます。「日本企業におけるDXの実態調査結果は、本フォーラムで初めて報告することになります。デジタルマスターであるとNRIが考える日本企業についても、何社か事例を紹介する予定ですので、ご注目ください」

デジタル化は社会や経済のシステム、さらに我々の価値観にまで変革を促します。日本にとってデジタルがどのような意味を持つのか、デジタルでどのような未来を作っていくべきなのか。本基調講演ではその方向性を示唆し、皆さんとともに考えたいと思います。ぜひご期待ください。

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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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