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グローバル連携によるモンゴル新空港の運営支援

野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社 取締役兼コンサルティング部長 益田 勝也(前任:野村総合研究所 グローバルインフラコンサルティング部 プリンシパル)
野村総合研究所 社会システムコンサルティング部兼未来創発センター シニア研究員 片桐 悠貫

#イノベーション

#運輸・物流・倉庫

#政策提言

2024/02/05

モンゴルの首都ウランバートルに、2021年7月、新しい国際空港が開港しました。これは官民連携のオールジャパン体制で開業支援~運営まで行ったODA(政府開発援助)案件でしたが、NRIも2014~16年にモンゴル政府を支援する形で関わりました。コンサルティングを行った益田勝也と片桐悠貫に、当時の活動について聞きました。

経営や金融を含めた総合的な運営支援

モンゴルの広大な平原に突如として現われる都市、ウランバートル。全人口の約半分の150万人が集まり、急速に経済成長を遂げてきました。内陸国の同国では、外国との窓口となる空港が経済発展において重要な役割を果たします。国営の旧国際空港は地形や安全面の制約により拡張が難しかったため、広い郊外に移転するプランが浮上。空港を民営化して新しい産業振興の拠点にしたいと考えるモンゴル政府の要請に基づき、日本政府による開発協力プロジェクトが始まりました。

「近年のODA事業は、ハードの建設だけでなく、その後の運営や経営などソフトも含めた総合的なパッケージで取り組む必要があります。これはイギリスのサッチャー政権が公共サービスを民営化した1980年前後より登場したやり方ですが、2000年代になると、空港プロジェクトでも収支計画を立案し、人材教育や体制づくりも含めて運営まで支援する流れが本格化しました。NRIは国際空港の需要予測などに長年空港・航空分野に携わり、内外の事例や民営化関連の情報を蓄積してきました。それが評価されて国際協力機構(JICA)に声をかけていただき、モンゴルのプロジェクトに参加しました」と、NRIでプロジェクトリーダーを務めた益田勝也は経緯を説明します。

NRIが担当したのは、民間を含めた事業スキーム、入札条件、法的な枠組みなどの企画検討、マーケット分析や事業収支のシミュレーションなどの情報提供であり、モンゴル政府が適切に意思決定できるように努めました。モンゴル政府が特に注視したのは債務返済の確実性だったと、益田は振り返ります。「同国は経済規模が小さく、財政がデフォルト(債務不履行)に陥れば経済危機に直結します。空港運営によるコンセッションフィーや出資配当、税収などの政府収入が増えることによって、円借款を返済できることが重視されました。首都の国際空港とはいえ、黒字化が約束されているわけではなく、海外免税店を誘致して商業収益を増やすなどでモンゴル政府も出資する空港運営会社の収益力を高める、同国にとって新しい試みが必要でした」

信頼関係を構築し、妥協できる道を探る

「このようなモンゴル政府にとって新しい取組にあたり、テクニカルな話も大切ですが、その前に力を入れたのが信頼構築です」と、官民連携事業(PFI/PPP)を専門とする片桐悠貫は語ります。「民営化に不慣れな部分を補い、モンゴルの国益にかなう提言だと信じてもらう必要がありました。時には相手の意に沿わない内容でも率直に伝えて、公正でかつ客観的な情報提供に徹しました。また、単に資料を送付するのではなく、現地に何度も足を運んでフェイス・トゥ・フェイスで説明し、アフターファイブには一緒に食事をしました。それを繰り返すうちに、少しずつ信頼関係ができました」

「国による文化の違いはあっても、政府と民間とで考え方が違うところは万国共通です。相手の主張の背後にある前提や理由を理解した上で説明の仕方を工夫し、100%納得に至らなくても妥協可能な選択肢を提示し、前向きに意思決定ができるようにする。そうした部分は、これまで官民両方で仕事してきた経験が役立ちました」 それに加えて、モンゴルには日本への留学経験者が多く、政府関係者とコネクションを持ち、民間ビジネスにも精通している知日家の力を借りたことも成功要因だと、片桐は分析します。

グローバル・コンサルティングで国内外に貢献したい

今回のプロジェクトでは日本の知見やノウハウを提供する形をとりましたが、現地で経験してみると、IT化、スピード感、意思決定の明確さ、柔軟な切り替え、人材の流動性などの面で、モンゴルの方が進んでいると思った部分もあったと、片桐は指摘します。「私は現在も国内外のインフラ開発案件に携わっていますが、日本と海外の良い所を採り入れながら提言し、行政改革なども支援できればと考えています。また、インフラ事業を通じて経済や社会を開発することで、貧困対策など社会課題の解決にも貢献したいと思います」

航空分野や民営化での専門性、官民でのリサーチベースト・コンサルティングなど自社の特徴をうまく発揮できたと、益田はNRIの活動を総括します。「コロナ禍やウクライナ危機で、サプライチェーンの断絶、富の偏在化などが起こり、グローバル化を危ぶむ声もあります。しかし、人は行動して初めて価値が出るものであり、グローバルで日本の強みを発揮する機会がなくなることはありません。今後も日本発のグローバル・コンサルティングを広げていきたいと思っています」

※本記事内における所属、役職はインタビュー当時のものです

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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