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日本の企業文化における仲間と実践知の重要性

執行役員 流通ソリューション事業本部副本部長 清水 雅史

#働き方改革

#経営

2024/02/20

日本特有の終身雇用文化の中で、私たちは「上司の背中を見て学ぶ」や「石の上にも3年」などの言葉を通じて育ってきた。このような風土の中で、同じ目標を目指す「仲間」とともに時間を過ごし、数多くの失敗や苦難を乗り越え、風雪に耐え抜く強靭さを身につけてきた。この経験から得た「実践知」は価値あるものであり、これらを次世代に伝えることが重要である。

歴史から学ぶ、相互利益と協力の精神

2022年に英国に本部のある慈善団体CharitiesAid Foundationが発表した「World Giving Index」の「世界人助け指数」において、日本は118位となり、世界で2番目に低いランキングを記録している。この調査結果から、日本人が仲間には親切である一方で、他人に対しては無関心で距離を置く傾向があることが示されている。
日本の歴史を振り返ると、仲間とともに苦難を乗り越え、実践知を築いてきた事例は数多くある。たとえば江戸時代の商人や職人たちによる同業組合は、相互利益のために仲間を助けることを目的とした組織であり、明治維新では日本が近代国家としての基盤を築く過程で、異なる背景や立場の人々が協力し、道を切り開いてきた。これらの事例は、相互利益と協力の精神を反映しており、現代の企業文化の基礎を築いている。

実践知の3つのポイント

しかし、近年の働き方の変革やコロナ禍によるライフスタイルの変化により、私たちは、仲間と実践知の伝承方法の再考を余儀なくされ、企業文化や強みの伝承にも新しいアプローチが求められている。
とりわけ実践知は、企業の成長を支える原動力であり、各企業は自社の特性を活かしてその継承を進めている。ここでは、考え方・能力・熱意の3つの観点から実践知の伝承の要諦を述べたい。

①考え方

企業の方向性を示す要素としては、企業理念やパーパスが重要である。近年、パーパス経営を掲げる企業が増えているが、これは共通の危機感や明確な方向性の必要性から来ていると考えられる。伊藤邦雄一橋大学名誉教授によれば、「人材は、資金とは違い心や意思がある資本であり、ただ業務を命じたり、人材戦略の内容を通知したりするだけでは動かない。従業員に対し、会社の存在意義や、どのような社会課題の解決を目指すのか等について、積極的に発信し、対話すべきである」(人材版伊藤レポート)という。これは、モチベーションやエンゲージメントの重要性を示唆している。
野村総合研究所(NRI)も、設立趣旨に基づいて、企業理念や行動原則・MVV(Mission、Vision、Values)はもちろん、先達からの実践知を組織全体に浸透させ、持続的に伝承する取り組みを進めている。

②能力

新しい人材の受け入れと育成は企業の発展のために不可欠であり、企業は能力開発を図っている。テクノロジーの進化はこれらの努力を支え、企業の競争力を向上させる。さらに、実践知の継承に関しては、先人の経験や知識をストーリー仕立ての動画で伝えるなどの多様な方法が注目されている。
今後は、過去からの振り返りだけではなく、リアルタイムでどう判断し、どう行動をしたのか、節目節目での判断や行動履歴の蓄積が可能となり、新たなテクノロジーや生成AIなどの技術の活用により、実践知の継承の質が格段に上がる可能性を秘めている。

③熱意

今日の働き方では、主に視覚と聴覚の二感を使う仕事へのシフトが必要とされている。そのような状況では、観察学習の機会が減るため、人材を育て強化する実践知の習得と伝承は決して容易ではない。とりわけ二感へのシフトでは、熱意の伝達方法の再考を必要としている。

仲間と実践知の力が、未来を拓く

日々の業務の中で築いてきた仲間との絆や数多くの経験から得た実践知は、これからの時代を生き抜くうえでの貴重な財産である。仲間との協力関係は日本の企業文化に深く根ざしており、実践知の伝承は企業の競争力を高め、持続可能な成長を促進するカギとなる。しかし現代では、これらの価値をいかにして維持し、発展させていくかが問われている。
経営者は、過去の成功体験や失敗から学び、それを次世代に伝える責任を持つ。それには、企業文化の見直しや働き方の変革が必要であり、継続的な努力と創造的なアプローチが求められる。その中で、仲間とともに切磋琢磨し、実践知を深める過程は、一人ひとりの成長にもつながり、企業全体を強化する原動力となる。
過去から学び、現在をしっかりと生きることで、まだ見ぬ未来をともに描き切り拓くことができる。この「仲間」と「実践知」の力を最大限に活用し、ともに成長し続けることが、企業、そして社会全体を強靭で持続可能なものにするカギであると確信している。

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