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緊急事態宣言延長後の追加財政支援必要額の推計:半年間で32兆円

2020/05/07

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宣言の1か月延長で消費は27.8兆円減少しGDPは5.0%低下

政府は5月4日に、1か月続いた緊急事態宣言を更に5月末まで延長することを決定した。それによって不要不急の消費が控えられることで個人消費は11.2兆円減少し、2020年のGDPは2.0%低下する計算となる。4月以降の合計では、個人消費は25.1兆円減少し、2020年のGDPは4.5%低下する計算だ。

更に、6月から9月にかけて、規制措置が段階的に緩和されていくとの前提で試算すると、4月から9月までの半年間で消費は47.0兆円減少し、GDPは8.5%低下する(コラム、「緊急事態宣言は延長:半年間で50兆円規模の個人消費が消失か」、2020年4月30日)。

補正予算での企業・個人の支援は実質10.6兆円

先日成立した2020年度補正予算では、企業と雇用の支援である「雇用の維持と事業の継続」に、19.5兆円が計上された。ただしこのうち、一人当たり一律10万円を支給する給付金制度には、新型コロナウイルスで打撃を受けなかった個人にも多く支給され、貯蓄に多く回される、という問題がある。

そこで、打撃を受けた世帯に当初支給されることが検討されていた1世帯当たり最大30万円の給付金の分だけが、打撃を受けた個人の手に届くものと仮定すると、実質的な企業、個人への支援金額は10.6兆円となる。

上記の試算のように、仮に半年間で消費が47.0兆円減少する場合、それを補正予算で計上された企業、個人への実質的な支援総額である10.6兆円と単純に比較すると、かなり小さいことが分かる。

企業の売上高は半年間で70.6兆円減少

ところで、半年間で個人消費が47.0兆円減少する場合、消費関連を中心とする企業の売上高の減少額は、その規模では収まらない。

例えば最終消費の段階である小売店での商品の売り上げが減少すると、小売業の売上高が減少するだけでなく、商品の仕入れ先の卸売業の売り上げも減少する。また、飲食業の売り上げが減少すると、食材や飲料の仕入れも減少し、仕入れ先の企業の売り上げも減少する。こうした、いわゆる「中間投入」も考慮に入れないと、企業の売上高全体に対する影響は分からない。

内閣府の2017年産業連関表によると、個人消費が1単位減少すると、企業の生産額(売上高)は1.503(生産誘発係数)単位減少する。従って、個人消費が半年間で47.0兆円減少すると、企業の売上高は70.6兆円減少する計算となる。

仮に、新型コロナウイルスで減少した売上高を政府がすべて補填し、雇用・給与も完全に維持する場合には、半年間で70.6兆円の給付金が必要となる。

政府は企業の持続性を支援

しかし実際には、企業に対する政府の給付金制度は、売上高の減少分を補填する、という考えに基づくものではなく、企業が廃業することがないよう、その持続性を支援することを目指すもの、と言えるだろう。

例えば、新型コロナウイルスの打撃を受けている飲食店のコスト構造は、一般に売上高の約6割が原材料費と人件費、約1割が家賃であり、それ以外に水道光熱費などがある(「中小飲食店、背水の資金繰り 臨時休業で重い家賃負担」、日本経済新聞電子版、2020年4月26日)。

このうち、人件費の支払い負担については、事業者支援というよりも雇用維持の観点に基づくものではあるが、雇用調整助成金制度という公的支援制度によって支援されている。

また、売り上げが落ち込んだ事業者は、それに合わせて原材料の調達を削減する。それは原材料の仕入れ先業者の売り上げ減少となるが、仕入れ先業者への打撃は給付金制度で別途カバーされることになる。

残された固定費(売上高が減少しても減らせない)である家賃の負担が大きいことが、家賃支払いに焦点をあてた政策論争を、現在もたらしているのである。

追加で必要な企業・個人支援額は半年間で32.3兆円

従って、固定費部分の支払いを助けることで企業の持続性を支援する、という考え方に基づけば、企業の売上高のうち変動費となる仕入れ部分の費用は、支援の対象としては考慮しなくてよいことになる。そのため、中間投入を除く部分、つまり当初に示した個人消費(付加価値額)の減少規模である半年間で47.0兆円規模が、必要支援額を計算する際の起点の数字となる。更に、ここから企業の利益を控除する。政府は企業の利益の減少分を補填しないのである。

財務省の法人企業統計によると、2019年の企業の売上高経常利益率の平均は5.75%であった。既に計算した、半年間での企業売上高の減少分70.6兆円という数字を用いて計算すると、半年間での経常利益の減少額は4.06兆円となる。そこで、企業の経常利益を除く個人消費の減少額は42.9兆円となる。

これが、企業の経営や個人の生活を支えていくために必要な財政規模の試算値だ。既に10.6兆円の実質的な企業・家計支援がなされていることを考慮すると、追加で必要となる企業・家計に対する給付金は、半年間で32.3兆円となる。

追加の財政支出は不可避も財源確保は重要

緊急事態宣言の延長が決まると、間髪を入れずに、第2次補正予算の議論が活発となる可能性が高い。その際、大きな焦点となるのは、雇用調整助成金の上限引き上げと共に、家賃の支援となる。それについての筆者の考えは、コラム「与野党間で議論が高まる事業者の家賃支援は地方主導の枠組みで」(2020年4月27日)を参照されたい。

新型コロナウイルスで打撃を受ける企業の売上高に占める家賃支払いの比率が、飲食店の平均である約10%と仮定し、また売上高の減少分のうち1割の家賃支払いが滞る、と仮定してみよう。この場合、半年間で企業の売上高が70.6兆円減少すると、7.1兆円の家賃支援が必要となる。政府は、補正予算で計上した企業向けの持続化給付金2.3兆円は、家賃支援を念頭に置いたもの、と説明している。その場合、家賃支援部分だけでも半年間で4.8兆円の追加の財政支出が必要となる計算だ。

いずれにしても、補正予算だけでは、企業の経営や個人の生活を支えるためには明らかに十分ではない。なお複数回にわたる補正予算編成は不可避だろう。

ただし、将来の世代への負担を高め、日本経済の将来展望をより悪化させないことも重要だ。そのためには、政府は、今回の補正予算のように安易に赤字国債の発行に頼るのではなく、今後は、将来の増収策といった財源をしっかりと確保した上で、必要な財政支援策を講じて欲しい。

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