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中国がマスク外交を展開:日本はどう応じるか

2020/05/12

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「マスク外交」は「借金漬け外交」の延長か

中国は、新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ各国に、マスクや防護服などの医療物資を提供する活動を展開している。これは、「マスク外交」と呼ばれている。

支援活動自体は評価されるべきだが、この「マスク外交」という言葉は、批判を込めて使われることも多い。それは、中国の支援活動が、純粋に人道的な観点からなされるものではなく、国際的な覇権拡大の手段と捉えられているためだ。この点から「マスク外交」には、一帯一路国を中心に中国がインフラ投資のために融資を拡大させ、それを梃子に軍事的覇権まで広げていくことを狙っているとして、米国などが強く批判している「借金漬け外交(Debt Diplomacy)」の延長線、というニュアンスが込められているように思われる。中国自身は、これを一帯一路になぞらえて、「健康シルクロード」と呼んでいるようだ。

トランプ政権の下で米国が自国第一主義を強化している中、米国で新型コロナウイルスの感染が急拡大した時期を狙って、中国が国際的な覇権の拡大を狙っているという側面も確かにあるのだろう。

しかし、この「マスク外交」は、それほど上手くはいっていないようだ。中国は、相手国の要請を待たずにマスクや防護服などの医療物資を提供する一方、中国の支援を感謝するような外交声明を、相手国に要求していると言われている。

以前からの親中国の国々を除けば、「マスク外交」は警戒心を持って受け止められている面が多いようだ。純粋に人道的な観点に基づく支援でなければ、手放しで感謝はされないだろう。また、新型コロナウイルスの発祥地である中国が、その責任も踏まえて積極的に情報を開示していない、との批判も各国には依然として燻っている。

進むリーダー不在の国際社会

他方で米国は、新型コロナウイルス問題の中で、国際的なプレゼンス、信頼を低下させてしまっている。世界の専門家が手本としてきた米国の米疾病対策センター(CDC)が感染の抑え込みに失敗したことは、いわゆる米国モデルに疑念を生じさせてしまった。それは更に、米国のリーダーシップにも悪影響を与えている。

トランプ政権が、中国寄りであるとして世界保健機関(WHO)への資金拠出を停止したことも、世界の新型コロナウイルス対策に悪影響を与えるものとして、多くの国から批判されている。

更に、トランプ大統領が、新型コロナウイルスの世界への感染拡大の責任は中国にある、と批判していることも、大統領選挙に向けて自らの感染抑制失敗の責任を中国に擦り付けるもの、との見方が多くなされている。

このように、新型コロナウイルス対策という、いわば過去最大の地球上の共通課題に向けて、国際社会では強いリーダーシップと各国の強い結束が今ほど必要な時はない。残念なことに、まさにその時期に、リーダー不在の傾向はむしろ強まってしまっているのである。

新興・途上国への支援が喫緊の課題

喫緊の課題は、新興・途上国での新型コロナウイルス対策支援だ。5月上旬に、新興・途上国での新規感染者数は、ついに先進国を上回った。医療体制が概して脆弱な新興・途上国では、感染の爆発的拡大が生じるリスクが高まっている。それは、当然のことながら、先進国にとっても大きな脅威である。

感染拡大を受けた新興・途上国向け輸出などのビジネスの停滞は、先進国経済の足かせになる。また、新興・途上国で感染が拡大すれば、感染が自国に及ぶことを避けるため、長く渡航者の入国を規制する必要が生じよう。これも先進国経済に逆風となる。

今後、秋から冬を迎える南半球での新興・途上国での感染抑制を進めておかないと、それは、北半球での秋から冬場にかけての感染の再拡大へとつながる惧れもある。

日本は協調支援の触媒になれるか

日本政府は、中国の「マスク外交」に対抗して、感染症予防・対策に関する人材育成などの途上国向けの支援を強化し始めた。途上国に駐在する国際協力機構(JICA)職員らを通じて、アジアやアフリカを中心とした途上国の医療関係者や保健行政の担当者に対して、医療技術向上や保健システム整備に関する研修などを行うという。こうした途上国への支援のため、先般成立した2020年度補正予算に、約840億円が盛り込まれた(2020年5月10日、読売新聞)。

こうした政府の取り組みは評価できるが、本格的な新興国・途上国支援としてはかなり力不足である。自らが支援するだけでなく、日本政府には、新興国・途上国の新型コロナウイルス対策支援を協調して推し進めるよう、一段と対立を強める米国と中国を含む主要各国に強く働きかけて欲しいところだ。

リーダーシップが不在の国際社会なのであれば、そうした協調の触媒を果たす役割が非常に重要となるはずだ。

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