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2次補正予算案:雇用支援はまだ道半ば

2020/05/27

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事業規模は1次補正と同額の117.1兆円

政府は27日に、2020年度第2次補正予算案を閣議決定する。25日の記者会見で安倍首相は、2次補正予算案の事業規模が1次補正予算117兆円と合計して約200兆円、GDP比40%程度と空前絶後の規模になると説明していた。2次補正予算案の事業規模は、最終的には1次補正と同額の117.1兆円となった。

ただし、この事業規模には民間融資の増加なども含まれている。それらを除く政府(国と地方公共団体)による財政支出額は、1次補正予算案では48兆円だった。2次補正の財政支出額は72.7兆円と1次補正を大幅に上回る。

しかしこの財政支出額には財政投融資なども含まれている。経済活動に直接影響を与える政府の一般会計での歳出増加額をいわゆる「真水」と考えれば、それは1次補正予算では25.6兆円だったが、2次補正ではそれを上回る31.9兆円となった。

「真水」以外で事業規模を大きく膨らませているのは、政府系金融機関による融資や資本注入などの枠組みだ。事前に報じられていたところでは、日本政策金融公庫や民間の実質無利子・無担保融資の拡充などで60兆円超、政府系金融機関による劣後ローンや出資枠拡大などで約12兆円、公的資金注入を認める金融機能強化法の枠組みで約15兆円とされた。これだけで90兆円近くに達する。

歳出規模(真水)は31.9兆円と1次補正を上回る

2次補正で「真水」部分と言える歳出規模は31.9兆円に達したが、これは事前予想を大きく上回る規模である。

1次補正予算に含まれた経済対策はかなり包括的なものであり、また、感染収束後の消費刺激策や産業構造転換の支援など、長期的な視点に基づく支出項目も多く含まれていた。

この点を踏まえると、概ね目先の対応となる2次補正の歳出規模が、1次補正の歳出規模を上回るのは意外であり、政府の積極姿勢をうかがわせるものだ。

他方で、この歳出規模は同額の国債の新規発行で賄われる。建設国債9.3兆円、赤字国債22.6兆円の新規発行がなされる。新型コロナウイルス対策の財源について議論がなされないまま、1次補正に続いて安易に国債発行で賄われたことは問題ではないか。これについては、後述したい。

GDP押し上げ効果は1.4%と推定

現在報道されているところでは、2次補正予算の概要は以下の通りである。

1)企業や個人事業主の家賃支援給付金:2兆242億円
2)雇用調整助成金の拡充など:4,519億円
3)持続化給付金の対応強化:1.9兆円
4)自治体向け臨時交付金:2兆円増額
5)医療体制の強化:約3兆円(うち交付金2.2兆円)
6)ワクチン・治療薬の開発など:2,055億円
7)資金繰り対応の強化:11.6兆円
8)予備費:10兆円上乗せ

以下では、経済対策の景気浮揚効果を概算してみよう。上記項目のうち、7)は直接景気を刺激しないため控除する。また、8)の予備費については、使途が現時点では決まっていないため、控除して考える。その場合、残りの財政支出は約10兆円となる。

他方、建設国債発行の9.3兆円を、建設投資関連の支出とみなす。建設投資関連については、土地収用分などを除いて、その7割がGDP押し上げに寄与すると仮定すれば、その額は6.5兆円となる。

また、家賃支払いを中心に企業向け支援に直接充てられるのは、1)、3)の3兆9,242億円、雇用支援に充てられるのが2)の4,519億円である。企業向け支援では、投資に回る比率を2割とすれば、GDP押し上げ分は0.78兆円、雇用支援では消費に回る比率を5割と考えれば、GDP押し上げ効果は0.23兆円となる。

以上3つを合計すれば、7.51兆円となり、これはGDPを1.35%押し上げる効果となる。1次補正のGDP押し上げ効果は1.3%程度と推定される(筆者による)ことから、それとほぼ同等の効果になる見通しだ。

景気浮揚効果はまだ重要ではない

このように、事業総額117.1兆円という規模と比較すると、実際の経済対策の景気浮揚効果は決して大きくはない。緊急事態宣言解除後もなお続く、消費自粛などによる経済の悪化を、経済対策の効果で打ち消すことはできない。

しかし、1次補正に続いて2次補正においてもなお、新型コロナウイルス問題で大きな打撃を受けた企業や家計を救済し、問題収束後には元の経済活動に復するようにするための、いわばセーフティネットの拡充が最も重要な局面である。そうした観点からの役割は、相応に果たしていると言えるのではないか。

支援の必要額は約43兆円と推定

2次補正予算案での経済対策の柱は、企業への家賃支援給付金と雇用者支援策の2つである。家賃の支払いが困難になった中小企業などの負担を軽減するため、最大600万円を支給する前者の家賃支援については、総額2兆242億円となった。

後者の雇用者支援策については、雇用調整助成金の1日当たりの上限を8,330円から2倍程度に引き上げることと、休業者に失業手当を支払う「みなし失業」制度の適用だ。共に、本来は雇用保険基金から賄われるものだが、基金が底をつく可能性があることから、一般会計に計上された。

ところで筆者の試算では、4月から9月までの半年間で消費は約47兆円減少する(コラム「緊急事態宣言は延長:半年間で50兆円規模の個人消費が消失か」、2020年4月30日)。ここから、企業収益などを除いて企業と個人の支援の必要額を計算すると、約43兆円となる。

1次補正予算の中で、新型コロナウイルス問題で打撃を受けた企業・個人の支援は約11兆円に達したと試算される。2次補正の中で、企業・個人の支援は4.4兆円程度と推定される。合計額は15.3兆円程度だ。この点から、支援の必要推定額の約43兆円と比べると依然半分以下である。企業・個人の支援は未だ道半ば、と言えるだろう。

家賃支援は進んだ感がある

他方、半年間で個人消費が47兆円程度失われ、企業の売上高が70.6兆円減少することを前提にすると、総額7.1兆円の家賃支援が必要となる計算だ(コラム「緊急事態宣言延長後の追加財政支援必要額の推計:半年間で32兆円」、2020年5月7日)。1次補正予算で計上した企業向けの持続化給付金2.3兆円が、主に家賃支援を念頭においたものであり、これに2次補正の家賃支援給付金の2.0兆円と持続化給付金の対応強化の1.9兆円を足すと、6.2兆円となる。

この計算に基づくと、企業の家賃支援についてはかなり手を打った感がある。

雇用支援はまだ不足

それでも、企業・個人の支援額の合計は、支援必要額の半分以下にとどまっているのは、雇用の支援がまだ不足しているからではないか。

自宅待機などの休業や時間短縮による雇用者の所得減少については、雇用調整助成金で補助された企業の休業手当で賄われている部分はあるが、それは、未だ一部ではないか。雇用調整助成金の申請がまだ2万数千件にとどまっていることから、雇用者の所得減少は休業手当の形で企業の負担、あるいは事実上休業状態であっても休業者に認定されない結果、所得がゼロになっている雇用者の負担、となっている可能性が高い。そうした雇用者は、失業していないため、失業手当も受け取れない厳しい状況なのである。

雇用調整助成金制度の問題は深刻

こうした点を踏まえると、企業に雇用調整助成金の申請を一層促し、企業に対して事実上休業状態にある雇用者に休業手当を支給するように仕向けることが必要である。そのためには、記入書類や提出書類の多さや長い審査時間などが障害となって、雇用調整助成金の申請、支給が進まない状況を改善させることが最も重要だ。

2次補正では、雇用調整助成金の上限が引き上げられたが、それよりもまず、雇用調整助成金の申請、支給を増加させる方を優先すべきではなかったか。

2次補正では、事実上の休業者が自ら申請して失業手当を受け取ることができる「みなし失業」制度が適用された。これは、雇用調整助成金制度が上手く機能していないための措置と言える。両制度に重複感があるものの、「みなし失業」制度によって雇用者の所得支援が進むことを期待したい。

「予備費」と「地方創生臨時交付金」の大幅積み増しは評価

当座の使途が必ずしも明確ではない「予備費」と地方自治体向けの「地方創生臨時交付金」を大幅に積み増す点に、第2次補正予算案の最大の特徴があるのではないか。

第1次補正予算では、新型コロナウイルス対策の予備費に1兆5,000億円が計上された。政府は、新型コロナウイルスの影響で困窮する大学生らに1人あたり最大20万円、総額約530億円を給付する支援策を19日に閣議決定している。これには、第1次補正予算及び本予算の予備費が活用される。

他方、日々情勢が変わる新型コロナウイルス問題に迅速かつ柔軟に対応できるよう、より大きな額の「予備費」を確保すべきという意見が与党内で広まっていた。最終的には10兆円と極めて異例な規模の予算が予備費に計上された。

他方、「地方創生臨時交付金」については、第1次補正予算では1兆円が計上された。2次補正ではさらに2兆円が上積みされた。まもなく通常国会が閉会となり、秋まで補正予算の編成が難しいため、不測の事態に備える観点から、巨額の予備費が計上されたのだろう。

使途が明確ではない予算を多額に計上することは、本来は望ましいことではない。しかし、日々情勢が変わる新型コロナウイルス問題に迅速かつ柔軟に対応する、あるいは対策において地方公共団体の裁量の余地を広げることで、より精緻な支援策にしていく、との観点からは正当化できるだろう。

双方が活用されていくことで、上記のGDP押し上げ効果は少し高まる可能性があるだろう。また、企業と個人の支援の不足も緩和される可能性はある。

財源確保が議論されない中での国債発行増は問題

1次補正に続いて、2次補正を赤字国債の発行で安易に賄ったことは問題ではないか。経済対策の財源は、必ず誰かの負担になるのであって、資金が天から降ってきたり、地から湧いて出てくる訳ではない。

赤字国債の発行で賄うということは、我々が直面している新型コロナ問題への対応で、将来世代に負担を転嫁することを意味する。それは、世代間公正の観点のみならず、日本経済の将来の潜在力を一段と低下させるという観点からも大いに問題ではないか。

2次補正予算の編成の議論が高まる中で、財源確保の議論が全く聞こえてこなかったのは残念だ。現時点での増税実施は現実的ではないとしても、東日本大震災後の復興特別税などを参考にして、将来の増収策はしっかりと議論すべきだろう。

政府には、経済対策の支出面と財源の両面でバランスをとって、責任ある政策運営を推進して欲しい。

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