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FRBの新たな政策方針はいつ示されるか

2020/08/21

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新たなフォワードガイダンスの提示時期に不確実性

米連邦準備制度理事会(FRB)は、物価目標政策の方針を修正するとともに、それと結びつける形で、新たな政策金利のフォワードガイダンス(政策方針)を、追加緩和策として近いうちに打ち出す可能性が高いと考えられる(コラム「FRBの政策枠組み修正は物価目標の達成を本当に助けるのか」2020年8月11日、「FRB物価目標政策修正の陥穽」2020年8月13日)。

しかしその時期が、9月15・16日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)となるかについてはまだ不確実であることが、7月28・29日に開かれたFOMCの議事録(議事要旨)で19日に示唆された点が注目される。

議事録によると、政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標レンジについて、「今後たどる可能性の高い道筋をより明確にすることが、ある時点では適切になる」と、幾人かの参加者が指摘している。ただし、導入時期を「ある時点(at some point)」と特定しないなど、それ以前までのFOMC議事録での議論の流れと比べて、幾分前向き姿勢が弱まった感もある。

その背景にあるのは、新型コロナウイルス感染の再拡大と、経済持ち直しの鈍化への警戒だろう。議事録では、「参加者はここ数カ月で企業活動の改善が弱まったとの認識を示した」、「ここ数週間の家計の支出行動について、参加者は、(中略)コロナの感染拡大を受けて個人消費支出の増加が鈍化したようだ、と指摘した」といった記述が見られた。

経済の下振れがフォワードガイダンスの提示を遅らせる

FRBは、政策金利のフォワードガイダンスを、金融緩和策の一環と位置付けている。新型コロナウイルス問題によって先行きの経済の下振れリスクが高まるのであれば、そうした金融緩和策が実施される時期がむしろ早まるようにも思える。

しかし、実際はそうではないだろう。FRBは、コロナショックを受けて、通常の金融政策運営を一時的に棚上げして、危機対応の実施を迫られたのである。政策金利のフォワードガイダンスを示すということは、FRBが危機対応モードを後退させ、通常の金融政策運営を取り戻すことを意味するとみられる。

従って、コロナショックの影響で深刻な打撃を受けた経済環境が正常化に向かう目途が立たない間は、危機対応を続ける必要があり、その結果、フォワードガイダンスの提示は先送りされやすいのである。

フォワードガイダンスの具体的な設計の議論はまだ煮詰まっていない

また、今回の議事録では、フォワードガイダンスの具体的な設計について、FOMC内で未だ結論が出ていないことが確認できた。この面からも、9月の次回FOMCでフォワードガイダンスが示されない可能性も相応にあるといえそうだ。

政策金利のフォワードガイダンスは、物価上昇率が一定水準に高まるまで政策金利を据え置くといった経済条件ベース、あるいはアウトカム(結果)ベースのガイダンスと、少なくとも1年間は政策金利を引き上げないといった、カレンダー(日付)ベースのフォワードガイダンスの2つに分類できる。

議事録では、両論併記、あるいは両方を組み合わせるといった議論がされている。具体策について議論は未だ十分に煮詰まっていないのである。最終的には、物価上昇率と結びついたアウトカム(結果)ベースのフォワードガイダンスとなることが予想される。

物価目標政策の新たな方針はほぼ意見が一致

他方、FRBは金融政策の枠組みの見直しとして、物価目標政策の新たな方針(あるいは方針の明確化)を近いうちに示す。フォワードガイダンスとは異なり、こちらの議論は順調に進み、既に意見の一致を見つつあると見られる。

具体的には、中長期の平均値で物価上昇率が2%程度になる形で、2%の物価目標の達成を目指すものとなろう。それはまた、景気回復局面では2%を上回る物価上昇率を容認することを明確にするものだ。この物価目標政策の新たな方針に基づいて、政策金利のフォワードガイダンスが示される可能性が高い。

しかし両者が同時に示されるとは限らないことから、9月のFOMCでは物価目標政策の新たな方針のみが示され、フォワードガイダンスについては、それ以降のFOMCで示される可能性も十分に出てきた。

イールド・ターゲット政策導入の可能性は後退

いずれにせよ、FRBが追加緩和措置と位置付けるフォワードガイダンスは、そう遠くない将来に示されることになる。しかし、当面は政策金利を引き上げないことをアピールすることを狙ったこのフォワードガイダンスが出されても、それは既に市場の先行きの政策金利見通しに織り込まれており、イールドカーブに大きな影響を与えないだろう。このことは、追加の緩和効果が出にくいということも意味するのである。

市場がFRBに期待しているのは、政策金利をマイナスの水準にまで引き下げるマイナス金利政策、あるいは、長期金利に上限(yield caps)や目標値(yield targets)を設けるイールド・ターゲット政策、日本的に言えばイールドカーブ・コントロール政策といった、新しい政策の導入なのである。

しかし、FRBはマイナス金利政策の導入の可能性を以前から強く否定しており、さらに今回の議事録では、イールド・ターゲット政策についても、「議論に参加した人の大半は、FF金利の道筋に関する委員会のフォワードガイダンスが非常に信頼できるようにみえる状況下、そして長期金利が既に低い状況下では、イールド・キャップ政策やイールド・ターゲット政策はほんのわずかな効果しかもたらさない、と判断した」と否定的な見解が記述されている。イールド・ターゲット政策が近い将来に導入される可能性は、かなり後退したと言えるだろう(コラム、「日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)を値踏みするFRB」2020年6月24日)。

危機対応を脱した後に再構築されるFRBの金融政策運営は、市場が期待しているような、大きな市場インパクトを持つ大胆かつダイナミックなものにはならないのである。

(参考資料)
“Minutes of the Federal Open Market Committee July 28-29,2020“, August 19, 2020
“Fed Minutes Show FOMC Backs Away From Sept Guidance Shift (1)“ ,Bloomberg August 19, 2020
「FOMC議事要旨 国債利回り制限「効果は限定的」 景気は再び減速との見方」、日経速報ニュース、2020年8月20日

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