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温暖化ガス46%削減に向けた電源構成の見直し

2021/05/17

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G7サミットに向け46%削減目標の根拠後付け

バイデン米大統領が4月に開催した気候変動サミットに合わせて、菅政権は、2030年度までの地球温暖化ガス削減量の目標(2013年度比)を、従来の26%削減から46%削減へと一気に大幅に引き上げた。これは一種の国際公約であるが、その時点ではまだ数字の根拠は示されず、目標数字先にありき、の決定であった(コラム「気候変動サミットで浮き彫りになる先進国と新興国・途上国との軋轢」、2021年4月23日)。

しかし、6月11日に英国で開かれるG7(主要7か国)サミット(首脳会談)では、この目標達成を可能にする具体的な見通し、政策を説明することが求められるだろう(コラム「さらなる引き上げが求められる温室効果ガス削減目標」、2021年5月10日)。そこで政府内では、いわば「後付け」の根拠づくりの作業が急ピッチで進められている。

2019年度の温室効果ガス排出量は12億1千万トンで、従来の目標達成の前提は、2030年度に10億4千万トンにまで削減する想定だった。新たな目標のもとでは、7億6千万トンにまで排出量を削減する必要がある。やや技術的であるが、排出量削減目標引き上げの一部は、成長率見通しの引き下げによって実現される可能性があるだろう。

資源エネルギー庁は、2013年度以降の成長率の実績を反映し、2013年度~2030年度の平均成長率を従来の1.7%から1.4%へと暫定的に引き下げることを検討している。それによって、2030年度のエネルギー需要を1割程度削減することができるという。

しかし、この中期成長率見通しの引き下げが、政府の経済政策の方針と整合的かどうかは明らかではない。中期の成長率見通しを引き下げれば、それによって財政見通しが一段と悪化する、などの問題が生じてしまうだろう。そもそも、成長率を下げることで排出量削減を進める縮小均衡的な考えは、企業や国民から強い反発を受けるだろう。

再生可能エネルギーの比率を30%台後半に

そこで、排出量削減目標引き上げの最大の鍵となるのは、排出量の約4割を占める、電力部門(発電所を中心とするエネルギー部門)での排出量削減となる。そして、そのためには、電源構成(エネルギー・ミックス)の大幅な見直しが必要となる。政府は今年夏に、国のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の改定を行う予定であり、電源構成の見直しはその柱になる。

2018年度時点で、温暖化ガスを排出しない太陽光、風力、水素やアンモニア、バイオマスを燃料にする火力発電、といった再生可能エネルギーと原子力による発電の比率は、それぞれ17%、6%、合計で23%程度だ(図表)。従来の目標では、2030年度に再生可能エネルギーによる発電比率を22~24%、原子力による発電比率を20~22%、合計で44%程度とすることが目標であった。

2030年度の新たな温暖化ガス削減目標達成のため、経済産業省は、再生可能エネルギーによる発電比率を新たに全体の30%台後半とする方向で検討している。他方で、原子力による発電比率は20~22%で維持する考えだ。その結果、温暖化ガスを排出しない脱炭素電源の比率は6割近くとなる。これは現状の23%の2.5倍程度であり、それをわずか9年で達成することは簡単なことではない。

原子力による発電については、30年度の目標を達成するためには、30基弱の再稼働が必要となる。建設中の3基を含めて原発は36基あるが、震災後の10年間のうちに再稼働されたのは、わずか9基にとどまっている。安全基準が厳格されたことに加えて、再稼働に慎重な世論の下で、今後どの程度再稼働を進めることができるか不確実だ。

(図表)総電力発電量の電源構成

再生エネルギーの活用は家計・企業の負担を高める

他方、再生エネルギーの活用では、高いコストが大きな制約になる。再生エネルギーによる発電を促すために導入されている固定価格買取制度(FIT)のもとでは、割高な発電コストは利用者の負担となる。現時点で、標準的な家庭でその負担は年間1万円程度と、電力料金全体の1割超に達している。

一方、地球環境産業技術研究機構(RITE)は、再生可能エネルギーの比率を54%に引き上げた場合には、電力コストが現状の2倍以上に上昇する可能性を指摘している。これは、利用者の理解を得るのは難しいかもしれない。

そこで、再生可能エネルギーの比率を高めるのと同時に、技術革新を通じてその発電コストをかなり引き下げることが重要となる。しかし、それを2030年度までの9年間で実現するのはやはり容易ではない。

革新的な技術を生み出す努力が必要に

原子力・再生エネルギーによる発電比率の引き上げを通じて、2030年度の排出量削減を実現する、との日本政府の説明がG7の場で仮に受け入れられるとしても、なお多くの国から注目を浴びてしまうのが、石炭火力発電比率の高さだろう。石炭火力発電の比率は、2018年度で32%と3分の1を占めている。従来の目標では、その比率を2030年度までに26%まで低下させる方針だった。新たな電源構成のもとでも、石炭火力発電比率は10%台となるのではないか。

経済産業省は、「石炭火力発電はエネルギーの安定供給や変動が大きい再生可能エネルギーの調整力として一定の役割を果たす」、との考えである。海外の先進国を中心に石炭全廃の動きが加速する中、石炭火力発電を続ける方針の日本は、国際社会で強い批判を浴び、孤立してしまう可能性があるだろう。

温室効果ガスの削減目標の達成は容易でなく、その達成を目指す試みは、日本企業や国民に強いストレスをかけるものとなることは避けられない。しかし、それは、世界の持続的な成長のためにはどうしても必要な取り組みでもある。目標達成に向けた強い意志が、現時点では予想できないような革新的な技術を生み出し、事態の打開につながることを期待したい。

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