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FRBの3月利上げとウクライナ情勢を受けた原油価格の一段高

2022/03/03

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パウエル議長は3月の利上げをほぼ明言

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は3月2日(米国時間)に、半期に一度の議会証言を、下院金融委員会で行った。質疑応答の中で議長は、「0.25%の利上げ(政策金利引き上げ)を提案し、支持する方向に傾いている」と述べた。さらに、「インフレ率がさらに高まる、あるいは高い状態がより長引けば、一度の会合、あるいは複数の会合で政策金利を0.25%よりも大きな幅で引き上げる準備を整えるだろう」とも発言した。

ウクライナ情勢に伴う金融市場の不安定化に配慮して、金融市場ではFRBその他中央銀行が、利上げに慎重になるとの見方も足元では浮上していた。それ以前、FRBが3月15・16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の大きな幅での利上げに踏み切る可能性も金融市場は一時織り込んだが、その後は0.25%の利上げとの見方に落ち着いていた(コラム「ウクライナ情勢悪化でFRBの利上げはどうなるか」、2022年3月2日)。

この点から、0.25%の利上げを示唆した今回のパウエル議長の証言は、市場の期待に概ね沿った内容であったと言えるが、2日の米国国債市場では利回りは大きく上昇し、ドル高が進んだ。議長が、0.25%よりも大きな幅での利上げに言及したことがその理由である。

年初からの原油価格5割上昇は日本のGDPを0.15%押し下げる

議長はウクライナ情勢による不確実性を認め、また、それが米国経済に与える影響を確認しつつ政策を慎重に進める必要があると説明したが、利上げに向けた政策姿勢に現時点で変更がないのは、原油価格などエネルギー価格高騰によるところが大きいだろう。

2日の米国市場でWTI原油先物価格は一時112ドル台と10年ぶりの水準に達した。概ねウクライナ情勢の影響を受けた期間と考えられる年初からの原油価格の上昇幅は、ちょうど50%に達した。

先進各国によるSWIFT制裁では、天然ガスなどロシアのエネルギー供給への打撃を抑える配慮がなされたものの(コラム「SWIFT制裁の対象はロシア7行か。エネルギー供給への影響に配慮したがロシアへの打撃は既に大きい」、2022年3月2日)、既にとられてきた先進国による金融制裁措置によって、ロシアのエネルギー輸出は打撃を受けるとの見方が原油価格の一段の上昇をもたらしている。さらに主要産油国でつくる「OPECプラス」は、現在の原油増産ペースを4月も続ける、現状維持を決めた。これも、原油価格の上昇を促したのである。

原油価格の上昇は、総じて世界経済に打撃となる。ウクライナ情勢の影響を受けたと考えられる年初から足元までの約50%の原油価格上昇は、個人消費を中心に日本の実質GDPを1年間で0.15%押し下げる影響を持つと試算できる(コラム「ロシアのウクライナ侵攻本格化で日本経済に『円高・株安・原油高』のトリプルパンチ。GDP1.1%低下も」、2022年2月25日)。米国、そして世界経済にも逆風となることは間違いないだろう。

原油価格高騰は当面FRBの利上げを促す

原油価格の高騰は、物価を押し上げる一方、このように経済には悪影響をもたらす。物価の安定と経済の安定の双方に責任を持つ中央銀行は、そのどちらにより影響が生じるかを見極めて、金融政策を判断することが求められる。

ただし、原油価格の高騰は短期間で確実に物価上昇率を高める一方、経済への悪影響についてはより不確実であり、また悪影響が生じるまでに時間がかかるのが普通である。こうした中、40年ぶりの物価高騰に見舞われ、国民の不満も高まっている米国では、FRBの当面の金融政策は物価高対応に傾きやすい。その姿勢は、米国経済に悪化の兆しが明確に確認されるか、あるいは利上げによる金融市場の大きな混乱が生じるまで続くだろう。この点、本来金融政策に必要とされるフォワードルッキングな政策姿勢は、現状ではとられにくいように思われる。金融市場にとっては、ウクライナ情勢とFRBの利上げという2大懸念が当面続くことになろう(コラム「ウクライナ情勢悪化でFRBの利上げはどうなるか」、2022年3月2日)。

FRBが3月以降利上げを進めていく中で、その影響が原油高の影響と相まっていずれは経済情勢が悪化し、また金融市場が大きく動揺する可能性がある。それが急激に進んだ場合、FRBは一気に金融緩和に転じる可能性さえ出てくるだろう。今年後半からは、そのような劇的な展開となる可能性に留意すべき局面に入ってくるのではないか。

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