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利上げ競争が高める世界同時不況のリスク(IMF世界経済見通し)

2022/07/27

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IMFは世界同時不況の可能性を示唆

7月26日に国際通貨基金(IMF)は世界経済見通しを発表した。2022年の世界経済見通しは+3.2%、2023年は+2.9%と、前回4月の見通しからそれぞれ-0.4%、-0.7%の下方修正となった。前回4月には1月見通し比でそれぞれ-0.4%ずつの下方修正であったことから、下方修正幅はさらに拡大している。今回の世界経済見通しの副題は、「暗さと見通し不確実性が高まる中で世界経済成長率は減速(Global Economic Growth Slows Amid Gloomy and More Uncertain Outlook)」と、実に暗いものだ。

2022年の成長率見通しでは、主要国の中で最も大きく下方修正されたのが米国であり、前回4月時点から-1.4%下方修正されて+2.3%となった。2番目に大きな下方修正幅となったのが中国で、前回4月時点から-1.1%下方修正され+3.3%となった。世界第1、第2の規模の国の成長率見通しが最も大幅に下方修正されたことは、世界経済の見通しをより厳しくしている。

注目されるのは2023年の世界の成長率見通しが+2.9%と3%を下回ったことだ。過去を振り返ると、IMFの世界経済見通しが+3%を下回る時期は、世界経済がスランプに陥っている局面である。2023年の先進国の成長率見通しは、米国が+1.0%、ユーロ圏が+1.2%、日本が+1.7%と、いずれも1%台となっている。

IMFのチーフエコノミストのグランシャ氏は「世界は近く世界的リセッション(景気後退)の瀬戸際に立たされるかもしれない」と説明している。IMFの世界経済見通しは、その対外的な影響力が大きいため、予測値は比較的穏当なものに留めるのが通例だ。そうしたもとで今回はIMFの成長率見通しが大幅に修正され、またIMFのチーフエコノミストから世界的リセッションの可能性を示唆する発言が出ていることは、IMFの経済認識は公表した予測数字よりももっと悲観的であり、世界同時の景気後退の可能性をすでにかなりの確率で想定しているということなのではないか。

各国・地域ごとに異なる経済リスク

世界経済は新型コロナウイルス問題の影響が続く中、ウクライナ問題が生じ、まさに危機に危機が重なる状況にある。

米国にとっては歴史的な物価高を受けた急速な金融引き締めが、経済の大きな逆風となりつつある。

欧州はロシア産エネルギーの輸入規制・禁止措置に伴うエネルギー不足が経済活動を大きく妨げ、冬場には景気後退の可能性が生じている(コラム「天然ガスを巡るロシアと欧州のもう一つの戦争:欧州分断化と景気後退のリスク」、2022年7月26日)。

中国は、不動産不況が続く中、感染再拡大への対応としてのゼロコロナ政策が経済活動を強く制約し、さらにサプライチェーンの支障が他国の経済にも打撃を与えている。

日本は、物価高に加えて足もとでの感染急拡大が、働き手不足の問題などを通じて経済活動に深刻な悪影響を与える可能性が高まっている(コラム「感染・濃厚接触者数1,000万人超の試算も:働き手不足で経済活動への打撃は避けられず」、2022年7月27日)。

「通貨切り上げ競争」、「利上げ競争」が世界経済に大きな打撃

このように各国ごとに抱える経済問題は異なるが、世界経済にとって最大の下振れリスクとなるのは、米国を中心とする急速な金融引き締めの影響ではないか。

FRBの急速な金融引き締め姿勢は他国にも波及し、足元では深刻なエネルギー不足問題や南欧の財政問題などを抱えるユーロ圏でも、欧州中央銀行(ECB)が事前予想を上回る幅での利上げを決めた。

米国の急速な金融引き締め姿勢が他国に波及していることには、為替動向が関係しているだろう。すべての国は物価高問題に苦しむ中、物価高を助長してしまう自国通貨安を回避したいと思っている。そうした中、米国で急速な金融引き締めが行われると、ドル全面高が進み、他国は対ドルでの自国通貨安に見舞われる。これを回避するために、多くの国が急速な金融引き締めに乗り出し、通貨安を回避しようとしている面がある。

このように世界では、「通貨切り上げ競争」、それを実現するための「利上げ競争」が一気に広まっているのである。これは過去に経験したことがないことであり、世界経済に大きな打撃を与えることになるのではないか。

近づく世界同時不況の足音

中国は今年4-6月期にゼロコロナ政策の下で一時的に景気後退の状態に陥った。ユーロ圏は冬場のエネルギー需要期にあたる今年10-12月期に景気後退に陥る可能性がある。米国は急速な金融引き締めの影響で来年前半に景気後退に陥る可能性がある。その場合、日本も来年前半に景気後退に陥る可能性が出てくるだろう。

このように、各国・地域で景気後退入りのタイミングにずれは生じるが、来年には揃って景気後退に陥る、世界同時不況となる可能性が相応に高まっているのではないか。

そして、景気後退がどれほど深いものになるかは、FRBの利上げのスピードがいつ鈍化してくるかに左右されるだろう。7月27日の利上げ以降、FRBの利上げのスピードが明確に鈍化してくれば、長期金利の安定にも支えられて、深刻な景気後退は回避できるかもしれない。しかし、その後も急速な利上げが続けば、金融市場に大きな調整を引き起こす形で、米国そして世界経済がより深刻な後退局面に陥る可能性が出てくるだろう。

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