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イエレン米財務長官の訪中直前に中国が打ち出した半導体原材料の輸出規制措置

2023/07/05

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中国は半導体などの原材料の輸出規制を発表

中国政府は7月3日に、半導体などの原材料となる重要鉱物ガリウム、ゲルマニウムの関連品について、8月1日以降は輸出許可の取得が必要になる、と発表した。国家安全保障と国益を守るため、とその目的を説明している。事実上の輸出規制である。

対象となるのは、8種類のガリウム製品と6種類のゲルマニウム製品だ。中国の経済紙「財新」によると、2022年の輸出先で上位は、日本、ドイツ、オランダで、ゲルマニウム製品の輸出最上位は日本、フランス、ドイツ、米国だ。輸出規制の強化の影響は、特に日本で大きくなる可能性がある。

半導体分野をめぐって、アメリカなど先進各国が中国への輸出規制を強めることへの対抗措置とみられる。米国は、昨年10月に半導体製造装置の対中輸出規制を強化している。日本もこれに続き、今年3月に、軍事転用の防止を目的に、半導体製造装置23品目を輸出管理対象に追加すると発表した。7月23日に施行され、中国を含めた一部の国への輸出については、より手続きが厳格化される。

ガリウム、ゲルマニウム関連品の中国依存度が高い日本には打撃

今回の中国の措置が、日本への対抗を意識したものであるかどうかは分からない。ただし日本にとっては、2010年に中国が日本向けのレアアースの輸出を遅延させる措置をとったことを思い起こさせる。その際の背景にあったのは、尖閣諸島を巡る日中間の対立であり、中国人船長が日本海上警察に逮捕される事件がきっかけとなった。当時日本は、豪州などからのレアアースの調達に奔走した。今回も日本は、中国に依存するガリウム、ゲルマニウムの関連品の調達先の分散化を迫られる可能性があるだろう。

松野官房長官は、中国の措置について、「世界貿易機関(WTO)などの国際ルールに照らして不当な措置ならば、ルールに基づき適切に対応する」と語った。

また西村経産相は、今回の中国の輸出規制が、日本政府が公表した半導体製造装置の輸出管理強化に対する対抗措置であるかどうかは承知していないとしたうえで、「日本の措置は安全保障上の理由から講じたもので、特定の国を念頭に置いておらず、WTOの国際ルールにも整合的だ」と説明した。

ただし、中国側の措置も、特定の国を対象にしたものではなく、また、その目的は国家安全保障と国益を守るため、としており、両者に決定的な違いはないように見える。そうであれば、日米など先進国と中国との間で、輸出規制措置の応酬が始まった可能性が考えられる。

欧米と中国を中心に、世界経済に減速感が広がる中、貿易面での摩擦が激化することは、世界経済の大きなリスクとなっている。

イエレン財務長官訪中前のけん制か

ところで、米国のイエレン財務長官は、7月6~9日の日程で、中国・北京を訪問して中国政府高官と会談する。6月にはブリンケン国務長官が訪中した。台湾問題を巡って両国の溝は深く、外交・安全保障の面で目立った成果はなかった。他方、中国は経済の分野においては、米国と協調する柔軟な姿勢を見せていることから、イエレン財務長官の訪米では、経済分野で何らかの成果が得られるかもしれない。

中国の輸出規制は、日本を意識したものというよりも、目先に迫るイエレン財務長官の訪中を意識した措置と考えるのが自然ではないか。米国やその他先進国からの半導体関連の輸出管理強化の措置への対抗をアピールし、その撤回や緩和を求める意図があるのではないか。

仮に、米国側の譲歩を受けて中国が今回の輸出規制措置を見直すことになれば、それは日本にとっては好ましいことだ。しかし、それは楽観的過ぎるだろう。イエレン財務長官の訪中のタイミングを狙って、けん制として中国がこの措置を打ち出したのであれば、中国側の姿勢はかなり強硬でけんか腰であり、イエレン財務長官の訪中は経済分野においても米中間の対立をむしろ煽る結果になってしまう恐れがあるだろう。そうなれば、減速感が広がる世界経済にとっては強い逆風となりかねない。

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