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YCC運用柔軟化後の債券市場:日本銀行は臨時の国債買い入れオペで利回り上昇をけん制

2023/07/31

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10年国債利回り0.6%台乗せで日本銀行は臨時の国債買い入れオペを実施

日本銀行は先週金曜日に、イールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅の上限である+0.5%を超えて10年国債利回りが上昇することを容認する、運用の柔軟化策を決めた。同日の10年国債利回りは0.58%まで上昇した。週明けの7月31日午前にはさらに上昇し、0.605%と0.6%台に乗せた。これは、2014年6月以来、約9年ぶりの高水準だ。

これを受けて日本銀行は、臨時の国債買い入れオペを通知した。対象は残存期間5年超10年以下で、買い入れ額は3,000億円である。臨時の国債買い入れオペの実施は、今年2月22日以来だ。

植田総裁は先週の金融政策決定会合で、毎営業日指値オペの水準を変動幅の上限である0.5%から1.0%まで引き上げたが、この水準は「念のための上限キャップ」であり、当面、1%の水準までの10年国債利回りが上昇することを想定していない、と述べた。

昨年12月に日本銀行がYCCの変動幅に上限を+0.25%から+0.5%に引き上げた際には、10年国債利回りは+0.5%まで一気に上昇した。今回、YCCの運用柔軟化措置を受けても、10年国債利回りが1%まで一気に上昇しなかったのは、日本銀行は1%までの上昇を現時点で容認する訳ではないことが、金融市場に伝わったことがその理由として考えられる。

10年国債利回りの市場実勢は1%以下か

さらに、10年国債利回りの市場実勢が1%よりも低いことが、もう一つの理由だろう。筆者の計算では、潜在成長率と中長期インフレ期待から算出した10年国債利回りの均衡値は+0.8%程度である。仮に日本銀行がYCCを撤廃し、1年国債利回りの決定を完全に市場に任せても、その水準は1%に達しない可能性が考えられる。

それでも、金融市場は10年国債利回りの上昇を日本銀行がどこまで認めるか、新たな上限を探る動きをしばらく続けるだろう。本日10年国債利回りが0.6%を超えた時点で日本銀行が臨時の国債買い入れオペを実施したからといって、日本銀行が設定する新たな上限が0.6%というわけではないだろう。当面のところは、日本銀行は0.7~0.75%までの利回り上昇を認める可能性があると考えられる。

YCCの形骸化と市場機能の改善が進むもYCC撤廃はマイナス金利解除後か

しかし、経済・物価環境が改善し、市場の中長期のインフレ期待が上昇すれば、日本銀行は10年国債利回りの上昇をより認めるようになる。厳格な上限はもはやないに等しいのである。そのため、日本銀行は金融市場に事実上の上限を明示し、認識されるようなことはもはやしないのではないか。上限が強く意識されている限り市場の歪みは消えないが、上限が意識されなくなっていけば、国債市場はより機能を回復していく。

これはYCCの形骸化が進む過程であり、また、正常化の過程でもある。それでも日本銀行はYCCをすぐには撤廃しないだろう。政策見直しの過程で最も金融市場を動揺させるリスクが高いのが、マイナス金利の解除だ。その際に、不測の事態から長期国債利回りが急騰することに備え、指値オペなどの利回りけん制手段を日本銀行は保持するだろう。YCCを撤廃してしまえば、指値オペなどを用いて長期国債利回りをコントロールする大義名分を失ってしまうからだ。

2%の物価目標の達成にこだわらず本格的な政策修正につなげよ

現時点で見る限り、YCCの運用柔軟化は、金融市場を大きくかく乱することなく、市場機能の回復への道筋をつけることに成功している。

日本銀行は2%の物価目標達成はなお見通せないとして、今回の柔軟措置が本格的な政策の修正、正常化策につながるものではないことを強く主張している。それゆえに、金融市場の動揺は、昨年12月のYCC変動幅拡大時よりも限定的だ。長期国債利回りの変動を容認することで、内外長期金利差の変動が小さくなり、その分、為替のボラティリティが低下するという効果も期待できるのではないか。日本銀行がYCC変動幅の上限を厳格に守ろうとした結果、1ドル151円まで円安が進んだ、昨年10月のような事態は再びは起きにくくなっている。

ただし、日本銀行が強い政治的な圧力のもとで10年前に導入した2%の物価目標は、妥当性を欠き高すぎることは現時点でも変わらない。日本銀行が指摘するように、2%の物価目標の達成は依然として難しい。

しかし、日本経済の実力を踏まえれば、足元の物価上昇率、中長期のインフレ期待が大きく上振れており、これは経済の安定を損ねる恐れがある。この点から、日本銀行は、2%の物価目標にこだわらず、そして、政策の見直しを、YCCの運用柔軟化に留めずに、マイナス金利の解除などの本格的な正常化を早期に実施して欲しい。それは、中長期の物価の安定を維持するという日本銀行の強いメッセージともなる。

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