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一時1,000円を超える日本株高騰を支える楽観期待はピークに近づいているか

2024/02/13

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米国経済のソフトランディング期待と日本銀行の金融緩和継続期待

2月13日の日経平均株価は一時1,000円以上高騰し、34年ぶりの高値を更新した。年初の株価高騰は、中国株安、新NISAの影響などにも影響され、世界の株式市場で「日本一人勝ち」の様相が強かった。

しかし足元の日本株高は、ハイテク関連を中心とする米国株高と円安の2つに強く影響される、従来型へと戻っている。円安が進行する分だけ、米国株よりも日本株の上昇幅が大きくなる傾向がみられる。

急騰を続ける日本株の先行きを左右するのは、米国株と円安の動向である。そして、現在それらを後押ししているのは、米国経済のソフトランディング期待と日本銀行の金融緩和継続期待である。そうした市場の楽観期待は相応に根拠のあることではあるが、それでも期待の程度は、現時点で概ね楽観の極にあるように思われる。向こう数カ月の間には、市場の楽観期待は一定程度修正され、株式市場に調整局面をもたらす可能性を見ておきたい。

米国株式市場は現在スウィート・スポットも景気減速、商業用不動産にリスク

米国ではインフレ率の着実な低下が進んでおり、それを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に小幅な利下げに踏み切る、との観測が強い。他方で、米国経済は個人消費、労働市場を中心に堅調さが続いている。そうした中の利下げは、インフレ率の低下に対応した予防的利下げである。

経済が堅調である中、金融緩和が実施されるというのは、株式市場にとっては極めて好環境であり、米国株式市場はスウィート・スポットに入ったと言えるだろう。

しかし、現在の政策金利(FF金利誘導目標)は5.25%~5.5%と、米連邦公開市場委員会(FOMC)が予想する中立水準の2.5%を大幅に上回った状態にある。FRBは、5月あるいは6月に利上げに踏み切ると見ておきたいが、その間にもインフレ期待が低下し、実質政策金利(名目政策金利-期待インフレ率)はさらに上昇していく。FRBが政策金利を据え置く中で、金融引き締めが事実上進むことになるのである。

その影響は、企業部門を中心に、景気減速をもたらすのではないか。景気減速傾向が確認されれば、米国株が調整局面に入る一方、より本格的なFRBの金融緩和観測からドル安円高が進む。その両者ともが日本株の逆風となるだろう。

さらに米国では、商業用不動産の調整がこの先加速する可能性がある。その場合、企業の債務問題を深刻にし、景気減速の引き金となる一方、地方銀行の経営不安につながることが予想される(コラム「資産リストラに乗り出すNYCBと欧州の銀行に飛び火する商業用不動産市場の問題」、2024年2月9日)。

日本銀行の説明に矛盾

日本銀行は、マイナス金利政策解除に向けた金融市場の「地均し」を進めている。先週には、「マイナス金利政策解除後も当面緩和を続け、金利上昇ペースは緩やかになる」との見通しを市場に伝え、これが円安進行と株高を後押しした(コラム「大規模緩和修正に向け金融市場の地均しを進める日銀の説明に矛盾」、2024年2月8日)。日本銀行は、マイナス金利政策解除時に、先行きの利上げ観測から長期金利が大幅に上昇するなどの混乱が生じることを警戒している。そこでこのような情報発信を行い、リスクの軽減を図っているのである。

しかし、日本銀行が、従来から説明しているように、2%の物価目標の達成を宣言した上でマイナス金利政策解除に踏み切る場合には、その後も当面ゼロ近傍に政策金利を据え置くことには、大きな矛盾が生じる。2%の物価目標達成とは、物価上昇率、期待インフレ率が今後も2%程度で安定することが見通せるようになったことを意味する。仮にそのもとで政策金利をゼロ近傍に維持すれば、実質-2%程度の超緩和状態を維持することになる。実際、そうした観測が株式市場の円安、物価高、賃金高期待を強め、株高を促している面もあるだろう。

「物価と賃金の好循環」期待は過大

しかしそうした論理的な矛盾を見逃さない金融市場の一部が、日本銀行が説明するよりも早く利上げが進むとの観測を強めれば、円の急速な巻き戻し、株価下落など、金融市場の混乱を生むのではないか。日本銀行の説明が、円安と株価の上昇を促しているとすれば、それが将来的に逆方向に向かう際の振れ幅を大きくしている面もあるのではないか。

日本銀行が緩和状態を長く続ける中、円安も長期化し、それが物価高、賃金上昇を促すとの期待も、現在の株高の背景にある。株価は名目値であることから、物価の上昇は企業収益の上昇をもたらし、株価押し上げ要因である。

しかし、物価上昇率は既に低下傾向にある。今年の春闘は昨年を上回る賃上げ率となる可能性が見込まれるが、来年の春闘では、物価上昇率の低下の影響から賃上げ率はかなり下振れるだろう。輸入物価上昇の一時的な影響で、「物価と賃金の好循環」は容易には生じないのである。「物価と賃金の好循環」という観測が後退していくことも、株価の逆風となる。

トランプリスクも加わり、向こう数か月で株式市場は転換点を迎えるか

また、今年の春闘の賃上げ率は昨年の水準を上回るとしても、物価上昇率には追い付かず、実質賃金の低下は続く。そうした中、個人は、賃上げ率が期待したほどではなかったとして、春闘後に個人消費をさらに抑制する可能性があるだろう。日本銀行の金融緩和が円安の長期化観測を通じて個人の中長期のインフレ期待を高めてしまった弊害が、こうして今後表面化する可能性がある。

足もとの株式市場の楽観は、しばらく続く可能性はあるが、向こう数か月のうちには、3月の春闘、日本銀行のマイナス金利政策解除、FRBの利下げ観測、米国大統領選挙の見通しなどを受けて、そうした楽観は修正されていく可能性がある。米国でトランプ再選への観測が強まれば、急速な円高、株安をもたらす可能性も考えられるところだ(コラム「トランプ再選を警戒するウォール街:最大の懸念は一段の保護主義拡大」、2024年1月31日)。

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