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トランプ再選を警戒するウォール街:最大の懸念は一段の保護主義拡大

2024/01/31

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トランプ再選を警戒するウォール街:最大の懸念は一段の保護主義拡大

共和党の大統領候補者選びでは、トランプ前大統領に大幅なリードを許しているヘイリー元米国連大使であるが、資金調達額ではトランプ氏を上回っている。

寄付を集める政治資金団体であるスーパーPAC(政治活動委員会)「スタンド・フォー・アメリカ・ファンド」で、ヘイリー氏は2023年の後半6か月間で5,010万ドル(約74億円)を調達した。これは、同時期にトランプ氏のスーパーPAC「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」が集めた資金よりも約500万ドル多かった。トランプ氏の大統領候補指名を阻止したいウォール街(金融業界)や企業の幹部による支援が、ヘイリー氏の資金調達を後押ししている。

ホーム・デポの共同創業者ケン・ランゴーン氏、リンクトインの共同創業者で民主党献金者であるリード・ホフマン氏に加えて、ウォール街で著名な投資家、資産家のスタン・ドラッケンミラー氏、ヘンリー・クラビス氏、ケン・ランゴーン氏、クリフ・アスネス氏などがヘイリー氏を揃って支援している。これは、ウォール街がトランプ氏の再選を強く警戒していることの表れだろう。

第1期トランプ政権では産業界やウォール街には期待も

第1期トランプ政権では、産業界やウォール街は、トランプ氏の産業寄り(pro industry)の政策姿勢に期待も抱いていた。大統領選挙当日の夜に株価指数先物は急落したが、翌日の株価は大幅高で引けたことがそれを表している。トランプ政権の経済政策の中でも特に期待されたのは、大型減税策だった。

トランプ政権は公約通りに、米連邦法人税率を35%から21%に引き下げることを柱とする大型減税策を、2017年12月に成立させた。これは、レーガン政権下での1986年の減税以来の抜本的な税制改革であり、減税の規模は10年間で1兆5千億ドルと過去最大となった。企業の海外子会社からの配当課税も廃止し、多国籍企業などが海外にため込んでいる余剰資金を米国内に引き寄せることも狙った。また個人所得税についても最高税率を39.6%から37%へと引き下げた。この個人所得減税の多くは8年間の時限措置だった。こうした減税策が、現在の米国の財政赤字問題につながっている。

減税の後に保護主義政策で本領発揮

2018年に税制改革が完了すると、トランプ大統領は保護主義な貿易政策に着手していった。まさに本領発揮であり、トランプ氏の経済政策の本質は保護主義だ。

洗濯機と太陽光発電パネルへの追加関税の導入に始まり、アルミニウムと鉄鋼にも対象を広げ、相手国はカナダ、欧州連合(EU)、メキシコ、韓国に及んだ。その後、中国からの輸入品もリストに追加され、中国との間に激しい貿易戦争が繰り広げられていった。

トランプ氏は、今回は減税策を公約に掲げていない。第1期でやり切ったということだろう。8年間の時限措置であった個人所得減税を延長することを主張しているだけだ。

つまり、第2期トランプ政権では、減税というウォール街、産業界の追い風となる経済政策は実施されずに、逆風となる保護主義的な貿易政策だけが推進されるのである。

従って今回は、トランプ氏の再選を米国の金融市場も強く警戒するはずであり、基本的には、ドル安、株安、債券安(金利上昇)の「トリプル安」のリスクが高まる。1期目でも進められた通貨安政策も一段と強化され、ドル安リスクが高まる可能性は高まる(コラム「世界の金融市場が警戒する「トランプノミクス2.0」:日本には深刻な円高リスクも」、2024年1月17日)。

トランプ氏はすべての輸入品に一律10%の関税をかけることを公約に

バイデン大統領はトランプ前政権が導入した関税の多くを維持した。つまり、保護主義的な貿易政策を大きく修正することはなかったのである。米国の平均関税率はトランプ政権下で約2倍の約3%にまで上昇したが、バイデン政権下でもわずかに低下した程度である。高水準に維持された関税率が、さらに高まる可能性が高い。

トランプ氏は選挙公約で、すべての輸入品に一律10%の関税をかけることを提案している。これが実施されると、関税分の輸入品(財)価格上昇が国内製品に完全に転嫁されるとの仮定のもとで、国内需要デフレータを1.2%上昇させる計算となる。そうした政策は、物価の安定回復に水を差してしまう可能性がある。それを通じて、個人消費にも逆風となるだろう。

中国からの輸入品に一律60%の関税を検討も

米紙ワシントン・ポスト電子版は1月27日、トランプ前大統領が再選した場合に、中国からの輸入品に対して一律60%の関税を課すことを検討していると報じた。仮にそれが実施されれば、中国からの報復措置を招き、米中の貿易戦争が大幅に加速する中で、世界経済は大きな混乱に陥るのではないか。

貿易監視機関グローバル・トレード・アラートによると、2018年以降に米国が関税や補助金などの形で中国やEUに対して取った差別的政策は、54~86%の確率で2年以内に報復措置を招いたという。第2期のトランプ政権が、保護主義的な姿勢を一段と強める場合には、それは世界全体に保護主義を広めるきっかけとなり、世界貿易の大幅な縮小を招く恐れがある。

こうした点から、産業界やウォール街は、トランプの再選を前向きに期待する部分は小さく、一方で懸念する部分が大きい。この点で、トラン政権1期目とは明らかに異なる受け止めである。

(参考資料)
"Trumponomics 2.0: Less Tax Tailwind, More Trade Turmoil(トランプノミクス2.0:税制援護なし、貿易混乱へ)", Wall Street Journal, January 26, 2024
「ヘイリー氏の選挙資金集め、トランプ氏上回る-ウォール街が後押し」、2024年1月26日、ブルームバーグ

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