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4年半ぶりの日中韓首脳会談では『未来志向』の経済協力で合意:米大統領選挙後の国際情勢を睨む面も

2024/05/28

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4年半ぶりの日中韓首脳会談開催に3か国それぞれの思惑

5月27日にソウルで、岸田文雄首相、中国の李強首相、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による日中韓首脳会談(サミット)が開催された。3首脳はいずれも日中韓プロセスの「再スタート」を強調し、関係改善に向けた意気込みを前面に打ち出した。

経済から安全保障まで幅広い議題を扱うこの会談は、2008年から原則として年一回の持ち回りで開催されていた。しかし、2019年12月の中国・成都を最後に、しばらく開催されてこなかった。新型コロナウイルスの感染拡大や、日中間での東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出の問題、日韓間での元徴用工問題など、2国間の政治問題がその開催を阻んできたのである。

今回、4年半ぶりに日中韓首脳会談が開催されることになった背景には、各国それぞれの思惑があると考えられる。半導体など重要分野においては、日韓は米国などとともに、サプライチェーンの再構築に動いている。さらに米国からは、半導体関連で中国への輸出規制を要請されている。しかしながら、安全保障に関わる一部の重要物資を除けば、両国ともに中国との貿易拡大に期待しているのである。

バイデン米政権は5月14日に、中国製電気自動車(EV)への制裁関税を、現在の25%から100%にまで一気に引き上げるなどの措置を打ち出した。これに対して、中国は事実上の報復の動きを見せている。中国商務省は19日に、日本、米国、欧州連合(EU)、台湾から輸入する一部化学製品に対する反ダンピング(不当廉売)調査に着手した、と発表した。調査対象は、自動車部品などに使われるポリアセタール樹脂と呼ばれるプラスチック製品だ。

日本がその対象となったのは、昨年、先端半導体、半導体製造装置の対中輸出規制で米国と足並みを揃えたことの報復だろう(コラム「米中対立が追加関税の報復合戦に発展する可能性」、2024年5月21日)。

こうした点も踏まえ、日本には対中政策においては米国と完全に足並みを揃えている訳ではないことを説明し、中国からの制裁回避と関係改善を狙う意図も、今回の会談にはあるのではないか。

中国は11月の米国大統領選挙後も視野に

中国にとっては、経済分野で日韓との連携を強化すれば、貿易面などでの中国囲い込みを志向する米国と両国との関係にくさびを打ち込むこともできる、という計算があるのではないか。実際、首脳会談で中国の李強首相は、日韓首脳に対して、(米国が求める)保護主義や貿易規制を拒み、自由貿易を堅持するよう促した、と伝えられている。

さらに、11月の大統領選挙でトランプ前大統領が再選されれば、米国はより「米国第一主義」の傾向を強め、バイデン政権の下で強化された先進諸国が連携して中国・ロシアなどに対抗する現在の構図に変化が生じる可能性が高い。この点を見越して、中国は前もって日韓との関係改善に動いている面もあるのではないか。

そして、不動産不況などを受けて国内経済が悪化していることが、日韓との経済関係を強化して、自国経済の安定を図りたいという中国側の思惑を生じさせていることもあるだろう。

北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を本格化し、2023年11月には、軍事偵察衛星を打ち上げた。韓国は中国に働きかけ、核・ミサイル開発の自制を促すよう求めたい考えだ。ただし、この日中韓首脳会談は従来、安全保障の問題には深く踏み込まない傾向があり、北朝鮮問題も大きな議題とならなかったのではないか。また、日韓は中国の海洋進出への懸念を表明し、中国は台湾問題への関与をけん制する可能性があるが、これも主要議題とはならなかったのではないか。

6つの重要議題と「未来志向」

日中韓首脳会談は、各国間で意見の隔たりが大きく合意点が見出しにくい安全保障問題よりも、より協調が容易な経済面での協力強化を強く打ち出した。

首脳会談では1)人的交流、2)科学技術、3)持続可能な開発、4)公衆衛生、5)経済協力・貿易、6)平和・安保――の6分野を重点議題に据えられた。さらに、こうした分野で、3か国の「未来志向」の協力が前面に打ち出された。「未来志向」という言葉は、2019年12月の前回の日中韓首脳会談でも使われたものだ。

特に重視されているのが、3か国間での投資促進だ。中国では、海外からの直接投資が急減している。中国国家外貨管理局によると、2023年の外国企業からの直接投資が前年比で8割減少した。米中間での対立など、地政学リスクの拡大と不動産不況による経済の悪化の影響から、中国では海外からの直接投資が大幅に減少し、それが経済のさらなる悪化をもたらしている。こうしたもと、中国は日韓からの投資拡大に期待しているだろう。

また、日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2023年の日本から韓国への直接投資額は1兆4,500万ドルのマイナスとなった。これは、電機、機械、小売りなどの分野で、日本企業が韓国から撤退する大型の案件があったためだ。

首脳会談に合わせて、3か国の経済団体による「日中韓ビジネスサミット」も開かれる。互いに投資を呼びかけ、経済成長に結び付ける考えが示される。

2019年から交渉が中断している日中韓の自由貿易協定(FTA)について、「交渉を加速していくための議論を続ける」と共同声明に明記された。岸田首相も、「率直な意見交換を行っていきたい」と述べている。

しかし現実的には、このFTAには中国に対する貿易規制を進め、日本、韓国にも協力を求める米国が反対すると見られ、実現は難しいのではないか。

米大統領選挙後の国際情勢を占う上で重要

このように、連携が容易な経済分野を首脳会談の主な議題とすることで、3か国は「未来志向」の協力強化を対外的に打ち出すことに、一定程度成功したと言えるだろう。その実質的な意味合いは必ずしも大きくないとしても、11月の米国大統領選挙後の国際情勢を占う上では、重要な意味を持つ会談となったのではないか。

(参考資料)
「日中韓サミットへ連携=日韓外相が電話会談」、2024年5月22日、時事通信ニュース
「日中韓、相互投資を拡大 首脳会談、経済界に呼びかけへ 「未来志向」の協力確認」、2024年5月21日、日本経済新聞
「日中韓、自由貿易の重要性を議論 4年半ぶりの首脳会談」、2024年5月19日、日本経済新聞電子版
「中韓外相、日中韓サミットを詰め 北朝鮮・経済も協議」、2024年5月13日、日本経済新聞電子版

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