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トランプ大統領は自動車関税を「恒久措置」と説明

米トランプ政権は3月26日に、日本を含むすべての国からの輸入自動車に25%の関税を課すことを命じる大統領令に署名した。トランプ大統領は24日に、「数日中に自動車や自動車に関連するものを、将来的には木材や半導体関連の追加関税を発表する予定だ」と語っていた(コラム「自動車関税は数日中に発表されるか」、2025年3月25日)。

自動車関税は4月2日に発効し、3日から関税が徴収される。4月2日には、米国製品に対して高い関税を課す国、あるいは非関税障壁があると認められる国からの輸入品に高い関税を課す、報復措置的な「相互関税」も発表される予定だ。

ホワイトハウスによれば、自動車関税は既に実施されている関税に上乗せされるという。日本の対米自動車輸出には一部を除き2.5%の関税がかかっているが、これが27.5%へと引き上げられることになる。トランプ政権は、この関税で米国に年間1,000億ドル(約15兆550億円)の新たな歳入がもたらされると試算している。

注目されるのは、トランプ大統領はこの自動車関税について「恒久的」なものだと説明している点だ。また、「例外措置について交渉することに興味はない」とも発言している。この自動車関税は、相手国からの譲歩を引き出す「ディール(取引材料)」として打ち出しているのではなく、米国の貿易赤字を削減し、米国国内の生産、雇用を拡大させるという実効性に期待した措置となる。そのため、相手国が交渉を通じて撤回させることは簡単ではない。

対米自動車輸出への25%の関税は日本のGDPを0.2%低下させる

日本政府は、2019年のトランプ大統領と安倍首相との間で交わされた、「米国通商拡大法第232条に基づく(自動車への)追加関税は課されることはない」という合意を根拠に、トランプ政権に自動車関税の対象から日本を外すことを働きかけてきたとみられるが、それは果たされなかった(コラム「自動車関税回避で2019年トランプ・安倍合意に望みをつなぐ自動車業界」、2025年2月27日)。

日本の対米輸出の中で自動車輸出は全体の28.3%(2024年)を占める最大の輸出品だ。その規模は6兆261億円(2024年)と名目GDP(2024年)のちょうど1%である。日本にとっては最も関税を掛けて欲しくない自動車が関税の対象となってしまったのである。まさに本丸に攻め込まれた状況だ。

さらに、自動車はすそ野の広い産業であり、自動車生産が1単位減少すると、その影響は部品・素材産業を中心に広がり、全体では3単位、つまり3倍の生産減少をもたらす。こうした波及効果も含めると、対米自動車輸出に対する25%の関税は、日本の名目及び実質GDPを0.2%程度押し下げる計算となる(自動車部品が25%の関税の対象になる場合でも同様)。

これは日本経済にはかなりの打撃となり、国内での生産、雇用の縮小を促し、空洞化を後押しすることになるだろう。

次の注目は相互関税:一律25%関税で日本のGDPは0.9%低下も

4月2日には相互関税が発表されるが、米国に対して巨額の貿易黒字を抱える日本(国別で2024年に第7位)もその対象となる可能性が高い。

経済協力開発機構(OECD)の試算に基づくと、米国が貿易相手国に一律10%の関税を掛け、相手国が同率の報復関税を導入する場合、日本の実質GDPは3年間で0.35%程度、一律25%の関税の場合では0.87%程度、それぞれ押し下げられる計算である(コラム「トランプ関税の米国経済への悪影響に注目が集まる:25%の関税の応酬で米国のGDPは1.8%、日本のGDPは0.9%低下」、2025年3月19日)。相互関税も、自動車関税の影響に加わってくる。

対米自動車輸出の自主規制は引き続き検討か

日本政府は、25%の自動車関税発動後も、引き続き関税の除外を求めて、トランプ政権と粘り強く交渉を続けていくことになるだろう。その際に、日本政府は、1980年代初めと同様に、自動車メーカーによる対米自動車輸出の自主規制導入も含め、関税回避の交渉を水面下で進めている可能性があるのではないか(コラム「歴史に学ぶ日米自動車貿易摩擦:対米自動車輸出の自主規制は再び検討されるか?」、2025年3月24日)。

日本の対米自動車輸出に25%の関税がかけられた場合、自動車輸出台数は15%~20%程度減少すると見込まれる(コラム「日本の対米貿易黒字解消手段を検証:輸出品全体に60%の関税で黒字解消:GDPは1.4%低下」、2025年3月17日)。他方、1981年に対米自動車輸出の自主規制を行った際には、3年間の輸出台数を年間182万台から168万台へと約8%減らすものだった。

25%の関税による輸出台数の減少率見込みと比べて、2分の1から3分の1程度にとどまることから、日本としては、25%の関税を対米自動車輸出の自主規制に置き換えることのメリットは大きいと考える可能性があるのではないか。

しかし、トランプ政権は公平性の観点からすべての国からの輸入自動車に対して同じ条件の関税を課すのが適切、との考えであり、日本だけ特別な条件を受け入れる余地は小さいだろう。

日本の対米貿易黒字解消まで措置が拡大すると、日本のGDPは1.4%低下も

また、米国の貿易赤字の削減を目指すトランプ政権が、日本の対米貿易黒字が解消されるまで、鉄鋼・アルミニウム関税、自動車関税、相互関税にとどまらず、追加的な措置を段階的に講じていく可能性もあるのではないか。その場合、2024年に8.6兆円に及んだ対米貿易黒字が解消されるとすると、日本の名目及び実質GDPは1.4%も押し下げられる計算だ。甚大な悪影響が日本経済に生じることになる(コラム「日本の対米貿易黒字解消手段を検証:輸出品全体に60%の関税で黒字解消:GDPは1.4%低下」、2025年3月17日)。

米国内での世論の変化に期待

日本を含めて海外からの働きかけによって、トランプ政権が強硬な関税政策の姿勢を後退させる可能性は当面、高くないだろう。トランプ関税の拡大に歯止めをかけ、また関税を縮小させる軌道修正のきっかけとなるのは、関税がもたらす物価高、景気悪化効果などの問題点を受けて、米国内で関税政策への反対の世論が強まることではないか。

また、関税がもたらす経済の悪影響から株価が大きく下落すれば、それも米国民にとって痛みとなり、関税政策への反対の世論を強めることになるだろう。

日本政府や業界は、他国とも連携して、関税政策の見直しをトランプ政権に粘り強く働きかけていくべきであるが、その際には、米国内での世論の変化を敏感に捉え、それを交渉の戦略の中に反映していく必要がある。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。