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政策委員の意見の相違が浮き彫りになり、先行きの金融政策の不確実性は強まる

日本銀行は6月16日の金融政策決定会合で、政策金利を0.25%引き上げて1.0%とする利上げ策を決定した。利上げは昨年12月以来となる。政策金利は31年ぶりの水準となった。

日本銀行は事前に利上げの意向を伝える情報発信を行っていたため、この決定に驚きは全くない。今後については、声明文で「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」として、追加利上げを進める方針に変わりがないことも改めて示された。

長期国債買い入れ計画について、年度内の計画を維持し、2027年4月以降は買い入れ額の減額を停止する方針を新たに決めたが、これについても事前予想通りであった。

声明文では、中東情勢の影響で「経済が大きく下振れるリスクは一頃よりも低下している」としており、これが利上げ決定の背景の一つであることを示した。

直前に米国とイランが戦闘終結に向けた覚書で合意するとの報道が出たが、利上げ実施は6月3日の総裁の講演会のなかで既に強く示唆されており、その決定には直接影響はなかった。イラン情勢の改善は、サプライチェーンの混乱が経済に与える悪影響を警戒している執行部の利上げ方針を後押しする方向に働く一方、原油価格上昇によるインフレリスクを警戒する非執行部の利上げ方針をやや緩和させる方向に働くとみられる。

利上げについては、リフレ派とされる浅田委員が反対した。物価見通しについて高田委員と田村委員、国債買い入れ計画については田村委員が反対した。利上げは7人の賛成多数で決まったが、決定全体については委員の意見の相違が浮き彫りになり、今後の金融政策の不確実性は高まった印象だ。

総裁不在の異例の決定会合

植田総裁は入院のために欠席した。在任中の日銀総裁が定例の決定会合を欠席するのは1998年の新日銀法施行以降で初めてのことだ。植田総裁は決定会⁠合に書面で意見を提出したものの議決には参加せず、8人の政策委員の投票により金融政策が決定される異例の事態となった(コラム「日本銀行・植田総裁の入院と金融政策決定会合」、2026年6月11日)。

総裁が金融政策の決定に直接関与しないことは、日本銀行の政策運営に対する信認を損ねるものだ。しかし、総裁の入院は2週間程度とされており、短期間の不在であれば大きな信認の問題に発展することはないだろう。

他方、通常は先行きの金融政策運営に多くの示唆を与える総裁の記者会見が開かれず、内田副総裁が代行することは、日本銀行と金融市場とのコミュニケーションに一定程度支障をもたらす可能性があるだろう。

欧州中央銀行(ECB)が11日に約3年ぶりの利上げを決め、日本銀行も今回追加利上げを決めたことで、世界の金融政策は利上げモードを強めている。

植田総裁発言の急変に違和感

ECBと日本銀行の利上げの決定に際しては、中東情勢の緊迫化の影響についての評価が大きな論点となった。中東情勢の緊迫化が経済に与える影響は、欧米と日本とでは異なる。原油価格が高騰し、経済と物価に打撃を与える点は共通しているが、ホルムズ海峡を通じた原油調達への依存度が高い日本などアジア諸国では、海峡の事実上の封鎖が長期化すれば、先行き、深刻な原油不足に陥るリスクがある。そうしたサプライチェーンの大規模な混乱が生じれば、景気の下振れリスクは甚大なものとなる。日本銀行の金融政策では、この点への配慮が必要となる。

また、原油価格高騰への日本銀行の対応を考える際に、1970年代の第1次オイルショック時の経験がしばしば注目される。当時の対応については、日本銀行の利上げが遅れ、賃金と物価のスパイラル的上昇を許してしまった、との指摘もある。

しかし植田総裁は、5月27日の国際コンファランスで、賃金・物価のスパイラルは第1次オイルショックが発生する前に既に生じており、その段階で日本銀行の利上げが遅れていたことが問題だった、との認識を示した(コラム「日銀の執行部はなお6月利上げに慎重な姿勢か(植田総裁の挨拶):非執行部主導で利上げが決まる歴史的な決定会合となる可能性も」、2026年5月27日)。

ところが植田総裁は、この国際コンファランスから1週間後の6月3日の講演会で、原油価格上昇による物価上昇は一時的なものにとどまらず、基調的な物価上昇率が上振れていくリスクも意識せざるを得ない、として、6月の金融政策決定会合については、利上げの見送りから一転して利上げの実施を強く示唆するメッセージを送った(コラム「植田日銀総裁の講演は6月利上げを示唆したものか」、2026年6月4日)。

植田総裁の発言が、このようにわずか1週間で大幅に変わったことには強い違和感があり、政策の信認を損ねるものとなった。

非執行部の主導で政策変更が行われた歴史的ケースか

利上げの見送りを決めた前回4月の金融政策決定会合では、3人の審議委員が利上げを主張して、利上げ見送りの議長案に反対票を投じた。さらにその後の講演では、別の2人の審議委員も早期の利上げに前向きな発言をした。

現時点で採決を行えば、議長である総裁が引き続き利上げ見送りの議長案を提出しても、9人の政策委員のうち5人の審議委員が利上げに賛成し、多数決で利上げが決まってしまう可能性が十分に考えられる状況となったのである。

そこで総裁は、決定会合の直前に議長案を利上げ見送りから利上げへと差し替え、議長案が否決されるといった不名誉な事態を回避しようとしたのではないか。総裁の発言が短期間で大きく修正された背景には、こうした事情があるのではないかと推察される。

仮にそうであれば、非執行部が主導する形で政策変更が決まる、新日本銀行法のもとでは初めての歴史的ケースとなる。6月に利上げを実施することの是非は別にして、多数決で政策が決まることは、合議制という民主主義的な日本銀行の政策決定制度が機能したことの表れと評価できる。

こうした事態は、日本銀行内部が金融政策決定で割れていると金融市場でネガティブに受けとめられる可能性がある一方、自由な議論を通じて金融政策が決定されるようになった、とポジティブに受け止められる可能性もあるのではないか。

国債買い入れ減額の見直しは既定路線か

今回の決定会合では、四半期ごとに2,000億円ずつ国債買い入れを減額するという今年度中の国債買い入れ計画は維持する一方、2027年4月以降は国債買い入れの減額を停止し、保有国債残高の減少ペースを緩める措置が新たに決定された。これについては、足もとの長期金利上昇を受けて、国債の需給に配慮した措置との受け止めもあるが、実際には当初からの既定路線に近いものではないか。

日本銀行は、国債保有残高の縮小により、国債市場の機能が回復してきたと判断している。そのため、残高削減を急ぐ必要性は低下しているのである(コラム「日本銀行・植田総裁の入院と金融政策決定会合」、2026年6月11日)。

他方、足もとの長期金利上昇は国債市場の機能の低下によるものではなく、原油価格高騰によるインフレ懸念の上昇や、財政悪化懸念によるものと日本銀行は判断しているとみられる。

こうしたもとで、国債買い入れ減額の方針を大きく見直せば、それはバランスシート政策を緩和方向に修正することになり、政策金利の引き上げ策と矛盾してしまう。市場のインフレ懸念を高め、むしろ長期金利を上昇させてしまう恐れがある。

さらに、日本銀行は国債買い入れ減額の方針を大きく見直さないことで、長期金利の上昇が政府の財政規律を促す効果を期待しているのではないか。

バランスシート政策の正常化が将来的には大きな課題に

将来的には、日本銀行は国債買い入れ額を保有国債の償還額に見合う水準まで再び増加させて、国債保有残高を一定に維持するとみられる。

2008年のリーマンショックをきっかけに異例の非伝統的政策として主要国で開始されたバランスシート政策は、経済が改善しても解消されることなく、通常の政策の一翼を担うようになっている。

一方で、日本銀行が相当規模の国債を経常的に保有し続け、高水準の超過準備を維持することは、銀行の資金繰りを助ける一方、銀行自らが財務環境を改善させる意欲を削いでしまい、モラルハザードの問題を生むだろう。また、そうした政策は、円安の修正を妨げ、物価の安定回復の障害になるなどの弊害もある。

政策金利の正常化が一巡すると、バランスシート政策の正常化が日本銀行の大きな課題となってくるだろう。

執行部と非執行部の軋轢はなお続く

執行部と非執行部の金融政策スタンスの差は、利上げに慎重な政府から受ける圧力の違いに起因する部分もあるかもしれない。政府との接点を持つのは執行部であり、非執行部はほとんどないと考えられるからだ。
 
それだけでなく、物価動向を受けた金融政策姿勢が「短期視点」か「中長期視点」かという違いに根差している部分が大きいのではないか。非執行部は、実際の物価上昇率が上振れ、その傾向が原油価格の上昇によってさらに助長されることを懸念する。物価上昇率の上振れや、物価上昇見通し(インフレ期待)の上振れは、実質金利を低下させ金融緩和を強化する。その結果、先行きの物価上昇率の上振れに対して金融政策が後れをとってしまう、いわゆるビハインド・ザ・カーブのリスクを警戒して、早期利上げを志向するのである。

他方、執行部は、長らく異例の低水準に維持してきた政策金利を引き上げ、中長期の中立水準でぴたりと止めるという、難度が高いことを目指しているように見える。そして、原油価格上昇による物価上昇は一時的であり、基調的な物価上昇率に与える影響は不確実であることから、利上げを急がないという姿勢となる。非執行部の政策姿勢の方が、通常の中央銀行の姿勢に近いと言えるだろう。

政策金利の中長期の中立水準は1%程度か

過去数年は、円安による輸入物価上昇が食料品などの値上げを通じて、物価上昇率を大きく押し上げてきた。しかし、食料・エネルギーを除くコアコアCPI(消費者物価上昇率)は足もとで下振れており、円安に起因する値上げの動きが弱まってきたことを示唆している(コラム「事前予想を下回った5月東京都区部CPI:円安に促された食料品の値上げの動きは弱まり、基調的な物価上昇率は下振れ」、2026年5月29日)。その水準は前年比で1%程度まで低下してきた。

今後、年末にかけては、原油価格上昇の影響からナフサ由来製品の価格が上昇し、コアコアCPIの上昇率も再び上振れるが、それは一時的なものとなろう。足もとで1%程度まで低下してきたコアコアCPIの上昇率を中長期の物価上昇率のトレンドとみなした場合、実質政策金利(自然利子率)をゼロと仮定すれば、政策金利の中長期の中立水準は1%程度となる。

日本銀行が16日に、政策金利を0.75%から1.0%に引き上げたことで、政策金利は中長期の中立水準、均衡水準近傍にまで達する可能性があるのではないか。

12月に追加利上げ:ターミナルレート(政策金利の到達点)は1.75%と予想

他方、生鮮食品を除いたコアCPIの上昇率が、今後3%近くにまで再び一時的に上昇する可能性があることから、実際の物価上昇率や物価上昇率見通しをより重視する非執行部は、今後も追加利上げを強く志向するとみられる。
 
その結果、6月の決定会合での利上げの後、今年の12月の決定会合でも追加利上げが行われると見ておきたい。米国とイランの覚書合意や原油価格下落によって、非執行部の利上げの前傾姿勢はやや緩和される可能性がある一方、政府による水面下での利上げけん制はやや弱まる可能性がある。そのため、次回利上げまでには一定の間隔があるだろう。

さらに再来年にかけて政策金利は1.75%まで引き上げられる、つまり、ターミナルレート(政策金利の到達点)は1.75%と予想する。仮に政策金利の中長期の中立水準が1%程度であるとすると、政策金利はその水準を大きく超えて引き上げられるものと見ておきたい(コラム「中立政策金利とターミナルレートの乖離が広がる可能性」、2026年6月12日)。
 
その結果、将来的には、物価上昇率が低下していく過程で日本銀行に利下げ実施の余地が生じるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。