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東京都が休業要請の具体策を公表へ

2020/04/10

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国民を困惑させる政府と東京都の対立

東京都は10日に、新型コロナウイルスの感染拡大抑止に向けた事業者への休業要請の具体策を公表する。都による具体的措置は、7日に政府が発令した新型インフルエンザ特措法に規定された緊急事態宣言の発令に基づくものだ。

ところが、緊急事態宣言の発令後に、都の措置の具体的内容を巡って、政府と東京都との間で意見の相違が表面化した。最終的にはお互いに一定の譲歩をしたことでなんとか折り合いはついたが、それでも両者の方針の違いは解消されていない(当コラム、「緊急事態宣言後に浮上した休業要請と補償の問題」、2020年4月9日)。

東京都は、感染者拡大の抑制を最優先するため、幅広い業種に対して即座に休業要請を出すスタンスだ。これに対して、経済や社会への影響により配慮する政府は、休業要請の範囲をできるだけ狭め、さらに外出自粛要請の効果を見極めながら、慎重に要請を出していくべき、とするスタンスだ。

また、小池都知事は、緊急事態宣言の発令とともに具体的措置を実施する権限は対象区域の都道府県知事に移るため、都道府県知事がそれぞれ独自の措置を講じるべき、と考える。これに対して政府は、政府が示す方針(基本的対処方針)の下で、対象区域の都道府県知事が足並みを揃えた対策を講じるべき、と考える。

このように、政府と東京都の激しい対立の背景には、新型コロナウイルス対策を巡る方針の違いに加えて、権限争いの様相もある。しかし、こうした両者の対立は、国民の間で大きな困惑と不安を生じさせている。政府と東京都は、緊急事態宣言の発令前から十分な協議を行い、調整を進めておくべきだった。

百貨店、理髪店、ホームセンターは休業要請から除外へ

休業要請の範囲を巡って、政府と東京都は最後まで激しく対立していたが、最大の争点となったのは、百貨店、理髪店、ホームセンターである。都は6日に示した案で、この3業種には休業を要請するとしていた。

他方で政府は、この3業種は国民生活に欠かせないとして、休業要請から外すことを主張していた。最終的には東京都が譲歩し、この3業種は休業要請から除外されることになった。 また、東京都が同じく休業要請の対象とする方針であった居酒屋も、その定義が明確でないなどとする政府の反対を受けて、飲食店と同様の扱いとし、営業時間短縮の要請にとどめる(飲食店は営業を午前5時~午後8時、居酒屋などでの酒類の提供は午後7時までとする方向で調整)。

他方で、ネットカフェやパチンコ店については、政府の反対を押し切って、東京都は休業を要請する。キャバレーやナイトクラブも、休業要請の対象となる。

都は休業の協力要請か

東京都は、感染拡大抑止の効果を高めるため、11日(土)からの週末の前に休業要請の対象業種を特定し、即座に発効させたい考えだ。これに対して政府は、緊急事態宣の発令に伴う外出自粛要請の効果を2週間程度見極めたうえで、必要であれば措置を強化して休業要請を出すべき、との考えだ。政府は「外出自粛要請の効果見極め→事業者への休業要請」の「2段階論」に強くこだわったとされる。

休業要請を出すタイミングを巡って政府の支持を得られない東京都は、新型インフルエンザ特措法に基づく「休業要請」ではなく、都独自の「休業の協力要請」にする、との報道もある。

どちらの場合でも実効性に大きな違いはないが、後者の場合には東京都の責任がより高まることで、特定業種への休業の要請に伴う補償を求められるリスクが、政府としてはやや低下するという面があるのではないか。

他方、東京都は休業要請に応じた事業者に対する協力金制度の具体化を急いでおり、一部の報道によれば、休業に協力した事業者に対して1施設につき10万円以上、1事業者当り50万円~100万円の「感染拡大防止協力金」を支払う方向で調整しているという。

緊急事態宣言の対象区域はさらに拡大も

7日に発令された緊急事態宣言では、その対象区域は東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫、福岡の7つの都府県とされた。

しかし、感染者が増加する愛知県は、10日に県独自の緊急事態宣言を出すとともに、政府に対して緊急事態宣言の対象区域に愛知県を加えることを強く求めている。愛知県が対象区域から外れたことに、不満を持ったのだ。政府も愛知県の要請を受け入れる方向、と報じられている。さらに京都府も、緊急事態宣言の対象区域に加えることを政府に求めているという。

対象区域の7都府県の経済規模はGDPの47.5%であるが、これに2府県が加わると、その比率は56.7%まで高まる。また、緊急事態宣言のもと、7都府県で厳しい外出自粛制限が打ち出され、個人消費の約56%が減少するとの仮定で計算すると、個人消費は全体で6.8兆円減少することになる。これは1年間のGDPの1.2%に相当する規模だ(当コラム、「首都東京ロックダウン(都市封鎖)が経済に与える打撃」、2020年3月26日、「緊急事態宣言による当面の経済悪化は経済対策では打ち消せない」、2020年4月7日)。

さらに、対象区域に2府県が加わる場合には、個人消費は8.0兆円減少し、それは1年間のGDPの1.4%に相当する。

対象区域の拡大と共に、経済に与える打撃は一段と大きくなる。都道府県知事の求めのままに、政府が緊急事態宣言の対象区域を広げていくのでは、科学的(疫学的)根拠に基づいて対象区域を判断したとする、当初の専門家の説明の信頼性も失われてしまうのではないか。

このように、緊急事態宣言の対象区域の特定を巡っても、新型コロナウイルス対策を巡る中央政府と地方政府との意思疎通は十分ではなく、ぎくしゃくした関係が続いている。

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