フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 家計調査に見る消費行動の構造変化:低迷する消費にも二番底・第2波か

家計調査に見る消費行動の構造変化:低迷する消費にも二番底・第2波か

2020/06/05

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

実質消費は2桁の落ち込み

総務省が6月5日に公表した4月分家計調査報告は、新型コロナウイルス問題を受けた個人の消費行動の変化、いわゆる「巣ごもり消費」傾向を明確に裏付ける重要な資料となった。

二人以上世帯の実質消費は、前年同月比-11.1%、勤労者世帯でも同-10.0%と2桁の大幅下落となった。他方、実質可処分所得は前年同月比-0.6%とほぼ横ばいである。消費の急激な悪化は、今のところは、所得の悪化によるものではない。潜在的な需要はある中で、飲食店、遊興施設などの休業などによる、いわば供給側の制約によるものだ。

4月の実質消費(二人以上の世帯)をまず大きな分類で見ると、住居、光熱・水道といった、生活に欠かせない消費、あるいは家に留まっていても支払い続ける支出は、それぞれ前年同月比+9.0%、+7.4%と大幅に増加している。他方、不要不急の支出の代表格である教養娯楽費は、前年同月比-33.9%と驚異的な落ち込みを見せた。

消失する不要不急の消費

不要不急の消費の中で、ほぼ消失したといえるのが、旅行関係だ。宿泊料(実質値、以下同様)は前年同月比-94.7%、パック旅行費は同-97.1%、映画・演劇など入場料が同-92.7%、文化施設入場料が同-95.6%、遊園地入場・乗物代が同-97.8%である。

これとも関連するが、交通費も大幅に減少している。鉄道運賃は前年同月比-89.9%、航空運賃は同-94.5%だ。外食も同-65.7%と大幅減少だ。そのうち食事代は同-63.3%、飲酒代は-90.3%である。また、理美容サービスの同-41.9%、交際費の同-26.4%にも、外出自粛や店舗休業の影響が色濃く見られる。

一方、サービスではなく財の消費にも、外出自粛などの影響は見られる。被服及び履物は同-55.4%となった。特に背広服は同-79.9%と大きな落ち込みとなった。衣料品は生活必需品の一つではあるが、買い替えなどが控えられたのである。家具や寝具もそれぞれ同-38.4%、同-40.2%と買い控えられた。

「巣ごもり消費」傾向が明確に

他方で、4月の家計調査報告は、個人が巣ごもり消費の傾向を一気に強めたことを裏付けている。例えば、外食が内食に切り替えられたことで、パスタは前年同月比+70.5%、即席麺は同+43.3%と大幅に増加している。既に見たように外での飲酒代は同-90.3%となったが、チューハイ・カクテルは同+42.1%と増加した。いわゆる内飲へのシフトである。

ウエットティッシュを含むその他家事用消耗品は同+68.7%、マスク・ガーゼを含む保健用消耗品は同+123.9%と急増している。

また、巣ごもり消費を象徴するのが、インターネット・サービスの利用拡大だ。インターネット接続料は同+17.7%増加した。さらに、パソコンは同+72.3%、ゲーム機は同+68.2%、ゲームソフト等は同+102.8%と大幅に増加した。任天堂スイッチの「あつ森」が代表格だ。

個人消費は5月に底打ちもリベンジ消費はない

4月7日から続けられていた緊急事態宣言は、5月25日に全地域で解除された。その後は休業要請の解除なども進められている。これを受けて、個人消費は5月にひとまず底を打った可能性が高い。

しかし、個人消費が急速に回復する展望は依然開けていない。中国で見られたような、自粛の反動で消費活動を一気に積極化させる、いわゆる「リベンジ消費」は、日本では生じないだろう。

また、東京都では緊急事態宣言から間もない6月2日に、感染拡大の警戒を都民に呼びかける「東京アラート」が発動されたことで、外出自粛を含む慎重な消費行動は、むしろ人々の間で定着した感がある。

筆者は、消失した不要不急の消費が元の水準の半分しか戻らないとの前提で、消費自粛が6月の個人消費を7.2兆円減少させ、GDPを1.3%低下させると試算している(コラム「緊急事態宣言解除で個人消費の戻りは半分か」、2020年5月25日)。

4月の個人消費自粛の影響10.7兆円、5月の11.2兆円(ともに筆者の推計)と比べてやや小さくはなるものの、それでも消費自粛の傾向は強く残ることになる。さらに、これらを前提に、4月から9月までの半年間で、個人消費は47兆円程度減少すると試算している。

消費低迷の「二番底」、「第2波」に注意

このように、新型コロナウイルス問題による最悪期を脱しつつある個人消費も、その後に急速な回復は見込めず、いわゆる「L字型」となりやすい。

今後注視しておきたいのは、雇用情勢、所得環境の急速な悪化である。4月の労働力調査では就業者は大幅に削減され、また休業者は急増した。雇用情勢は一気に悪化し、失業予備軍が急増しているのである(コラム「雇用情勢は急激に悪化:実質的な失業率は4月に4%近くまで上昇か」、2020年5月29日、「失業者265万人増で失業率は戦後最悪の6%台:隠れ失業を含め11%台に」、2020年5月11日)。

この先は、雇用・所得環境の急速な悪化が、消費の抑制につながる新たな局面に入っていこう。その場合には、巣ごもり消費関連の支出も抑制されるだろう。

その結果、休業対象ではない業種も含め、幅広い消費関連業種で売り上げが落ち込み、それが雇用・賃金の削減をもたらすことになる。このように、今後は、需要と供給が相乗的に悪化する形で、消費が低迷する局面に入っていくだろう。そのため、感染拡大が抑えられても、個人消費は容易には持ち直さないのである。むしろ、秋口にかけては個人消費の「二番底」、あるいは消費悪化の「第2波」に留意すべきである。

また、外出自粛など消費行動の構造変化に加えて、こうした需要と供給が相乗的に悪化することが、実質GDPが元の水準を取り戻すまでに5年程度の長い時間を要すると筆者が考える背景にある(コラム「経済の後遺症を長期化させる3つの要因と再び失われた5年か」、2020年5月8日)。経済全体のスランプも、長期化しやすいのである。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn