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防衛費増額の財源に建設国債も選択肢に

2022/12/14

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決算剰余金、「防衛力強化資金(仮称)」は安定した財源とは言えない

防衛費増額の財源を巡る議論では、岸田首相が打ち出した一部増税による財源確保の方針を巡り、与党内あるいは野党から強い反発が生じている。増税議論は15日にも予定される2023年度与党税制改正大綱で決着させる方向だが、その直前になっても議論が紛糾し収束しない異例の事態となっている(コラム「防衛財源問題は税制改正大綱でも実質先送りか」、2022年12月9日、「増税への強い反対で迷走する防衛費増額の財源議論」、2022年12月12日)。

岸田首相は、2027年度までの防衛予算の規模を43兆円程度とする方針を示している。さらに、2027年度に必要な財源は4兆円程度であり、そのうち1兆円強を増税で賄う方針としてきた。

2023年度から27年度までの5年間の累計額でみると、防衛費の増加分は17兆円程度となる。そのうち11.1兆円を決算剰余金など増税以外で賄い、残り約6兆円を増税で賄う方向だ。そして、11.1兆円の内訳は、歳出改革で3兆円、決算剰余金の活用で3.5兆円、「防衛力強化資金(仮称)」で4.6兆円である。

財政法では各年度の決算剰余金の2分の1は国債の償還費に充てることが義務づけられている。2021年度までの10年間の決算剰余金の平均が1.4兆円であることから、その半分の7,000億円程度を利用する。しかし各年の決算剰余金の額は不確実なものであり、安定した財源とは言えない。

「防衛力強化資金(仮称)」は、税外収入をためておくものであり、外国為替資金特別会計から3.1兆円程度、財政投融資特別会計から0.6兆円程度をそれぞれ繰り入れるほか、新型コロナウイルス対策費の不用分0.4兆円程度を国庫返納し、さらに東京・大手町の大型複合ビル「大手町プレイス」の政府保有分売却で0.4兆円程度の収入が見込まれている。しかしいずれも一時的な財源であり、2027年度以降も防衛費を安定的に賄っていくことができる恒久財源ではない。

政府は、5年間で約6兆円を恒久財源となる増税で賄う方針であるが、決算剰余金の活用や「防衛力強化資金(仮称)」は、その額が不確実であり、あるいは一時的財源という性格のものであることから、最終的には必要な増税額が予想以上に大きく膨らんでしまう可能性があるだろう。

「復興特別所得税」の活用に強い反発

岸田首相は、法人税を増税の柱とする一方、所得税の増税は選択肢としない考えを示していたが、実際には税制調査会では、「復興特別所得税」を防衛費増額の財源に活用する案が検討されている。2027年度で1兆円強の増税のうち、7,000億~8,000億円を法人税、2,000億~3,000億円をたばこ税、そして2,000億円程度を「復興特別所得税」の一部でまかなう案が検討されている。

法人税の増税では、企業ごとに決まる法人税額に5%程度を上乗せする案が検討されている。そして、「復興特別所得税」は震災の復興費用を賄うため、所得税額に2.1%を上乗せし徴収されているものだ。復興財源が減らないように「復興特別税」の期限を2037年から20年ほど延長し、2.1%の上乗せ率を変えずに、2,000億円分を防衛費増額の財源に利用することが検討されている。ただし、「復興特別所得税」の利用については、当初の目的と違うなどとして、野党から強い反発が生じている。

岸田首相が否定していた所得増税と国債発行が選択肢に

さらに、財源として自衛隊の施設整備に「建設国債」をあてる案も検討され始めた。建設国債は、将来世代にも利益が及ぶインフラ投資の負担は、将来世代も担うのが妥当、との考えに基づいている。

ただし、自衛隊施設は有事には損壊してしまう「消耗品」であり、将来世代がそこから利益を得られるかどうか不確実であることから、財務省はそれを建設国債で賄うことを今まで認めてこなかった。今回、自衛隊の施設整備の財源に「建設国債」が充てられれば、財政方針の大きな転換となる。それは、財政規律を緩めることにもなり、またなし崩し的に防衛費増額の財源を将来世代に転嫁する無責任な決定とも言えるのではないか。

このように、防衛費増額の財源を巡る議論は、2023年度与党税制改正大綱の決定期限が迫ってきてもなお紛糾した状態であり、最終的な着地点は未だ見えていない。

防衛3文書の改定、来年度予算編成などを踏まえれば、防衛費増額は年末までに決着をつける必要がある。その期限ぎりぎりになって岸田首相は、増税の方針を打ち出したのである。それはあたかも瀬戸際戦略のようでもあったが、そうした強硬な手法が、与野党から強い反発を受け、議論を紛糾させてしまった、ひいては政治混乱を引き起こしてしまった感はある。

そして打開策を探る中で、岸田首相が強く否定していたはずの、実質的な所得増税、国債発行も選択肢の中に入ってきたのである。その結果、岸田首相の政治的な威信、リーダーシップは大きく傷ついてしまったのではないか。

(参考資料)
「防衛財源は剰余金など5年11.1兆円 財務省、建設国債も」、2022年12月13日、日本経済新聞電子版
「防衛費増5年分の財源、11.1兆円を税外収入や決算剰余金で確保-資料」、2022年12月13日、ブルームバーグ

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