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機能不全が続くG20財務相・中銀総裁会議:途上国債務問題は金融危機の引き金となるか

2023/04/11

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G20財務相・中央銀行総裁会議では銀行不安と世界経済減速がテーマに

4月12・13日にワシントンでG20(主要20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる。9日に就任したばかりの日本銀行の植田新総裁も出席予定であり、国際舞台のデビューとなる。

G20の枠組みにはロシアや中国が参加している。インドで行われた前回2月のG20財務相・中央銀行総裁会議では、ロシアのウクライナ侵攻を巡る表現で各国間の意見の隔たりが埋まらずに、共同声明の採択が見送られた。今回も共同声明の採択は難しいと見られている。G20の機能不全が改めて浮き彫りになるだろう。

ロシアのウクライナ侵攻以外に、経済面で大きな議題となるのが、3月に欧米で生じた銀行不安への対応だ。再発防止や新たな銀行規制が議論されるだろう。

また、銀行不安が一層高めた感がある世界経済の減速リスクも、重要な議題となる。10日からワシントンで開かれる国際通貨基金(IMF)・世銀年次総会で、IMFは最新の世界経済見通しを発表する。IMFのゲオルギエバ専務理事は6日の講演で、「2023年の世界経済の成長率は3%未満で、さらに今後5年間は3%前後で推移する。これは、1990年以降最も低い成長率見通しだ」と述べている。

世界銀行が3月に、向こう10年程世界の成長率は一段と低下するとの見通しを打ち出したが、IMFもこれに続き、中長期の成長率が下振れするとの見通しを示す見込みだ(コラム「銀行不安が高める世界経済の後退確率と世界銀行が指摘する『失われた10年』のリスク」、3月28日)。

中長期の成長率が下振れるきっかけとなったのは、コロナ問題とロシアによるウクライナ侵攻による物価高騰である。これに深刻な銀行不安、金融不安が重なれば、世界の成長率見通しはさらに厳しくなる。

深刻さを増す途上国債務問題

経済・金融の環境悪化に最も脆弱なのは、巨額の債務を抱える途上国だろう。コロナ問題を受けた医療関連、景気対策関連の支出拡大や、エネルギー・食料価格上昇への対応策が政府債務そして対外債務を急増させた。世界銀行によると、2021年末の低・中所得国の対外債務残高は約9兆3,000億ドルと、2010年末の約4兆2,900億ドルから倍増したのである。

さらに、物価高騰への対応として2022年3月に始まった米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げ(政策金利引き上げ)は、ドル建ての対外債務を多く抱える途上国に大きな打撃となった。金利上昇が利払い負担を増加させる一方、FRBの利上げによって進んだドル高は、自国通貨に換算したドル建て対外債務を大きく膨らませたのである。さらに、金利上昇によって資金は米国に引き揚げられ、これが途上の金融市場を不安定にさせている。

こうした点から、途上国債務問題は、G20財務相・中央銀行総裁会議で最大のテーマとなるのではないか。かつて途上国債務問題は先進国の問題であった。債権国と債務国が2国間の債務返済見直しなどを協議する場は、先進国の代表からなる国際会議「パリクラブ」だった。

ところが、途上国債務問題がG20財務相・中央銀行総裁会議で話し合われるきっかけとなったのは、債権国としての中国の台頭であった。国際開発協会(IDA)加盟の最貧国の2国間債務残高のうち、対中国の割合は2010年の18%から2021年には49%にまで拡大したという。ただし、中国による途上国への貸出の実態は、明らかになっていない部分も多い。

債務問題への対応で債務減免の必要性は高まっている

途上国の債務問題が深刻さを増す中、もはや債務返済の繰り延べではなく債務減免の必要性が高まっている段階に見える。米国のボストン大学は4月6日に公表した報告書で、既に債務危機に陥っているか陥るリスクが高い61か国の債務の減免が不可欠、としている。さらに、必要な債務減免の額は最大で5,200億ドルに上るとした。

他方で、中国は概して債務減免に否定的であり、返済期限の延長を認めつつも、つなぎ融資によって引き続き債務返済を途上国に求めている。

先進国と中国が、何とか連携して債務再編で合意できた例がスリランカだ。外貨不足や経済危機に直面していたスリランカでは、パリクラブに加え、中国やインドなども協力を表明した。

インド輸出入銀行がスリランカとの債務に関して、返済期限の延長や金利の引き下げなどの救済策を取り、中国輸出入銀行が2022年と2023年を返済期限とするスリランカの債務支払いを猶予することで合意した。これら主要債権国の対応を条件に、IMFは3月の理事会でスリランカ向けの30億ドル相当の支援策を承認したのである。

途上国債務問題はG20の機能回復の試金石。失敗すれば金融危機の引き金にも

しかしパキスタンの債務問題では、先進国を中心とするパリクラブが経済改革の実施と引き換えに債務軽減をパキスタンに求める姿勢であるのに対し、主要債権国の中国はつなぎ融資で返済の継続を促す姿勢であり、債務再編策の合意ができない状況が続いている。

IMFのゲオルギエバ専務理事は中国の李強首相に対して、中国はチャドやスリランカの債務再編については協力的で合意に貢献したと評価する一方、ザンビアやガーナ、エチオピアなどの債務再編合意に向けた前向きの取り組みを要請した。

途上国債務問題は、純粋な経済問題ではなく、中国にとっては安全保障分野も含む国家戦略と深く関わっていることから、情報開示などの点を含めて、先進国側と足並みを揃えた対応には慎重である。

こうした先進国と中国の利害が関わる途上国債務問題で、双方が問題解決に向けて強く連携することは簡単でない。しかしそれが可能となるかは、G20の機能を取り戻していけるかどうかの重要な試金石となるだろう。

他方、それに失敗すれば、途上国債務問題がより深刻化するだろう。それは世界の金融市場を大きく混乱させるきっかけとなり、金融危機の引き金ともなりかねないのではないか。

(参考資料)
「途上国デフォルト回避へ5200億ドルの債務減免必要=米ボストン大」、2023年4月7日、ロイター通信ニュース
「米中に翻弄されるパキスタン 途上国債務の危うさ増す」、2023年4月10日、日本経済新聞電子版
「G20 景気・債務協調なるか 財務相会議 植田氏も出席へ」、2023年4月8日、東京読売新聞
「中国、重債務国の再編合意へ取り組み加速を=IMF専務理事」、2023年4月7日、ロイター通信ニュース

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