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ロシアが通貨防衛のために資本規制を再導入

2023/10/17

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1ドル=100ルーブルを一時割り込む

先進国によるロシア産原油輸出価格上限設定という制裁措置の影響などから、今年に入ってロシアの対外収支、財政収支は急速に悪化し、それが通貨価値の下落につながっている。

10月に通貨ルーブルは、心理的な節目の1ドル=100ルーブルを一時割り込んで下落した。ルーブルは今年に入ってから、新興国通貨で3番目に悪いパフォーマンスとなっている。

通貨安はロシア企業の輸出競争力を高め、輸出代金を増加させる面がある一方、国内物価を押し上げ、国民の生活を圧迫する。

そこでロシア中央銀行は、8月に緊急利上げを実施し、9月にも追加利上げを行い、政策金利を13%とした。しかし利上げによる通貨防衛は、経済活動を強く抑制してしまう恐れがある。

そこで、ロシア政府は資本規制措置を通じた通貨防衛に踏み切った。主要な石油生産業者を含む国内の大手輸出業者43社に対して、国外での販売で得た利益を国内市場で売却してルーブルに換えることを義務付けるものだ。両替を義務付ける期間は6か月間で、石油・ガスや製鉄、化学、木材など主要な輸出企業が対象となる。

ベロウソフ第1副首相は発表資料で「今回の措置の主な目的は、外国為替市場の透明性と予測可能性を高めるための長期的な状況を作り出し、通貨の投機の可能性を減らすことだ」と説明している。

ロシア中央銀行も一転して資本規制再導入を支持

資本規制の再導入は以前から検討されていたが、直ぐには実現しなかった。企業側に反発があったことに加え、ロシア中銀のナビウリナ総裁は9月に、そうした措置は問題を解決するには非効率的な方法だと、否定的な見解を示していた。

ところがロシア中央銀行は12日には一転して、政府による資本規制の再導入を支持すると表明した。これまでは通貨ルーブルの急激な下落に歯止めをかけるために政策金利を引き上げることを支持しており、軌道修正を図ったのである。

ロシアは2022年のウクライナ侵攻後にルーブルが急落した際にも同様の規制を導入していたが、同通貨が回復するとこれを解除していた。通貨防衛のために中央銀行が大幅な利上げを実施し、その後に資本規制を導入したことで、昨年と同じ措置が繰り返されたことになる。

ルーブルの本格回復はもはや難しい

昨年はこうした措置を受けて、ルーブルの価値は急速に回復したが、今回はルーブルの本格回復には結び付いていない。長期化する戦争と制裁措置の下、ロシア経済の疲弊は進んでいる。生産資源が軍事関連に優先的に利用されるなか、民間経済の活動は低迷を余儀なくされているのである。また、西側企業のロシア撤退が進む中、ロシア経済の将来の成長も見えなくなってきている。

為替市場がこうしたロシア経済の中長期の展望に視点を移す中、ルーブル回復への道のりはより厳しいものとなっている。

(参考資料)
"Russia Reimposes Some Capital Controls to Stem Ruble's Slide", Bloomberg, October 11, 2023
「ロシア中銀、通貨管理再導入に支持表明 軌道修正」、2023年10月12日、ロイター通信ニュース
「ロシア、輸出企業に外貨の両替義務付け 自国通貨安で」、2023年10月13日、日本経済新聞電子版

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