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なお続く米地銀NYCBショック

2024/02/07

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格下げなどを受けNYCBの株価は続落

先週の1月31日と2月1日の2日間で、米国のニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)の株価は約45%も急落した(コラム「NYCB赤字転落で米地銀株急落:米銀危機第2ステージの幕開けか:米商業用不動産の調整は世界の金融リスクとなるか」、2024年2月2日)。株価は週末の2月2日には持ち直したが、週明け後の5日には再び10%超えの下落となるなど、なお下落に歯止めがかかっていない。

5日には、大手格付会社フィッチによるNYCBの長期債格下げとシティによるNYCBの目標株価引き下げが、株価下落を後押しした。フィッチは2日の取引時間終了後に、NYCBの長期債格付けを「BBB」から「BBBマイナス」に引き下げた。また、格付け見通しを今後の格下げを示唆する「ネガティブ」とした。

1月31日には、大手格付会社ムーディーズが、NYCBの長期および短期格付けをすべて「ウオッチ・ネガティブ」の対象とし、格下げ方向で見直す、と発表していた。ムーディーズによるNYCBの長期発行体格付けは現在「Baa3」と投資適格の中で最も低い。格下げすれば、NYCBの格付けはジャンク級(投機的格付け)となる。また、報道によると、シティはNYCBの目標株価を11ドルから7ドルに引き下げた。

大幅な貸倒引当金の計上には、米規制・監督当局からの働きかけも

NYCBが1月31日に発表した2023年10〜12月期決算で、純損失は2億5,200万ドルとなった。事前のアナリスト予想は2億600万ドルの純利益だった。予想外の赤字転落となったのは、大幅な貸倒引当金計上の影響による。NYCBはアナリスト予想の10倍を超える5億5,200万ドルの貸倒引当金を計上した。さらに減配を決めた。これらが、市場に大きなネガティブショックを生んだのである。

NYCBが予想外に大きな貸倒引当金を計上した背景には、同行が昨年3月に経営破たんした米地銀シグネチャー・バンクの資産380億ドル(現金250億ドルとローン約130億ドル)を連邦預金保険公社(FDIC)から買い取ることで合意したことがある。その結果、NYCBの総資産は1,000億ドルを超え、より厳しい資本ルールの対象へ移行したことが想定される。

そうした経緯のもと、今回の大幅な貸倒引当金の計上は、米規制・監督当局からの働きかけに基づく面があったとブルームバーグは報じている。

米国商業用不動産価格の下落による貸出債権の劣化は共通のリスク

しかし、それだけであれば、NYCBの貸倒引当金の計上、配当減、赤字転落は、個社要因によるものとなる。しかしNYCBの抱える問題はそれだけではない。それがゆえに、同行の株価の下落は他の米地銀にも波及しているのである。

ムーディーズは、NYCBの格付け見通しを「ネガティブ」とした際に、「ニューヨークのオフィスおよび集合住宅の不動産関連の予期せぬ損失内容と低調な利益、資本の著しい減少、ホールセール資金調達への依存拡大」をその理由として挙げた。

また、NYCBの格下げを決めたフィッチは、在宅勤務の定着など「勤務形態の変化や集合住宅の価格下落リスクといった外的要因により、かつての低金利環境に比べ不確実性が高まっている」と説明している。

NYCBの経営不安の背景にあり、他の米地銀にも共通しているのが、オフィスを中心とする米国商業用不動産価格の下落による貸出債権の劣化である。

商業用不動産向けローンは借り換え時に大きなリスク

全米の商業用不動産向け融資の残高は約4.6兆ドルとみられるが、米連邦準備制度理事会(FRB)によると、中堅・中小行の融資に占める商業用不動産向けの割合は4割超と、1割強の大手行に比べてかなり高く、商業用不動産向け融資の焦げ付きは、中堅・中小行の経営に大きな打撃を与える。

不動産価格の下落によって担保である不動産物件の価値は下落しており、それは、貸出債権の劣化につながる。また、担保価値が低下すれば、企業は銀行からの借入枠が縮小される。さらに金利上昇による借り換えコストが高まることで、借り換えを断念して不動産物件を売却する動きが企業の間で広がる可能性がある。それは、不動産価格の下落を加速させるだろう。

不動産調査会社の米トレップの推計によると、米国の商業用不動産向けローンは2024年に5,440億ドル、2028年までには累計で2.8兆ドルの資金が償還満期を迎える、という。

FRBが5日発表した銀行のシニア・ローン・オフィサー・オピニオン・サーベイ(SLOOS)によると、中堅・中小銀行の半数が、3か月前に比べて商業用不動産向け融資の審査基準を一段と厳しくした、と回答している。さらに、全体の4分の1にあたる銀行が2024年中に審査基準を一段と厳格化するとした。中堅・中小銀行は、商業用不動産向け融資のリスク管理強化に動いている。

米国の商業用不動産市場の調整がさらに進めば、米国の中堅・中小銀行の経営を大きく揺るがしかねない。それはまた、堅調な米国経済の逆風にもなるだろう。

(参考資料)
「米不動産融資、24年の償還80兆円 金利高で借り換え難」、2024年2月6日、日本経済新聞電子版
「米銀、不動産向け融資厳格化続く 23年10〜12月」、2024年2月6日、日本経済新聞電子版

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