フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 米国1月CPIの上振れで円安が進む:防衛ラインは152円前後か:揺らぐ米国経済ソフトランディング期待:円安に連動した株高の裏側で個人の生活は逆風に

米国1月CPIの上振れで円安が進む:防衛ラインは152円前後か:揺らぐ米国経済ソフトランディング期待:円安に連動した株高の裏側で個人の生活は逆風に

2024/02/14

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

米国1月CPIは予想を上回る

米国労働省が2月13日に発表した1月分CPI統計で、総合CPIは前月比+0.3%、コアCPI(除く食料・エネルギー)は前月比+0.4%と、それぞれ事前予想を+0.1%ポイント程度上回った。コアCPIの前月比上昇率は、8か月ぶりの水準となった。

コア財CPI(除く食料・エネルギー)は前月比-0.3%と、前月の同-0.1%から下落幅を拡大させた。中古車価格は1969年以来の下落幅となった。他方でコアサービスCPI(除くエネルギー)が、前月比+0.7%と前月の同+0.4%から大きく上昇幅を拡大させたことが、CPI全体を予想以上に押し上げた。

住居費は前月比+0.6%とほぼ1年ぶりの上昇率となった。それ以外に、自動車保険、医療費の上昇も目立ち、外来医療費とペットサービスは、1月としては過去最大の上昇率を記録した。

1月分からCPI統計では品目毎のウエイトが改訂され、サービス価格のウエイトが高まったことが、予想を上回るサービス価格の上昇の一因となった。ただし、サービス価格に先行する傾向が強い財の価格は下落状態が続いており、物価上昇率の低下傾向には変化はないと考えられる。

1ドル151円台直前までドル高円安が進む

しかし、金融市場の反応は思いのほか大きかった。CPIの上振れを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測が後ずれしたためだ。昨年末時点では金融市場は3月の利下げをかなり高い確率で織り込んでいた。その後、予想外に強かった1月分雇用統計を受けて、利下げ時期の見通しは5月へと移った(コラム「1月米雇用統計は予想外の上振れ:FRBの早期利下げ観測は一段と後退」、2024年2月5日)。そして今回の1月分CPIの上振れを受け、金融市場の利下げ見通しの中心は6月まで後ずれした感がある。

FRBによる利下げ時期の後ずれは、長期金利を押し上げるとともに、13日の米国株式を大きく下落させた。さらに、為替市場ではドル高円安の動きが強まり、ドル円レートは1ドル151円台直前までドル高円安が進んだ。日経平均株価は、前日には一時1,000円程度の急騰を見せたが、米国株価の下落と円高進行の2つの逆風を受けて、14日は大幅に下落している。

揺らぐ米国経済のソフトランディング観測

足元の日本株高の底流にあるのは、米国経済のソフトランディングへの強い期待である。インフレ率は着実に低下し、それを受けてFRBは利下げに転じるが、経済の安定は維持されるという、株式市場にとってはベストシナリオだ。

しかし、インフレ率の低下ペースが鈍り、FRBの利下げが後ずれし、高水準の政策金利が長く維持されれば、経済減速のリスクが高まる。米国経済のソフトランディングシナリオは、揺らぎつつあるのではないか(コラム「一時1,000円を超える日本株高騰を支える楽観期待はピークに近づいているか」、2024年2月13日)。

152円程度が当局の防衛ラインか

1ドル150円台まで円安が進んだことを受けて日本では、財務大臣、財務官は14日に揃って市場をけん制する口先介入に乗り出した。昨年、一昨年には、いずれも1ドル152円台の手前で円安に歯止めがかかった。逆に、今回1ドル152円を超えて円安が進めば、円安に一層弾みがついてしまう可能性があるだろう。そのため152円程度が、日本の当局が為替介入で円安を食い止めようとする防衛ラインとなるのではないか。

他方、足もとの円安が、こうした介入実施や介入警戒感の影響も助けとなって152円程度で歯止めがかかることになれば、過去3年にわたってこの水準で円安がピークとなるため、そこは強い抵抗線になるだろう。

個人の犠牲で成り立つ株高は円高転換で一巡か

そもそも、今年はFRBが大幅利上げを転換させ、日本銀行が10年以上続いた異例の金融緩和の正常化に踏み切る、歴史的な1年となる可能性が高い。それは、日本銀行による異例の金融緩和導入から10年以上続いた、行き過ぎた円安が本格的に修正に向かうきっかけとなるだろう。長期間続いた円安の流れが反転するのであれば、それは日本の株式市場には明らかに逆風だ。

円安になれば、海外投資家にとって日本株は割安となる。さらに、円安進行などによって一時的に物価上昇率が上振れる一方、企業は物価上昇ほどには賃上げを実行せず、その結果、実質賃金低下、労働分配率低下を伴う形で企業収益が大幅に増加しているのが現状だ。それが株価を押し上げているが、その裏側では個人の所得が犠牲になっている構図がある。個人にとっては必ずしも良い株価上昇とは言えないだろう。

しかし、物価の上昇率は既に低下傾向に転じており、仮に今後円高の流れとなれば、物価上昇率の低下傾向がさらに明確となる。その過程では、上記の株高の構図が逆回転することで、株価は上昇しにくくなる。

しかし、物価上昇率の低下によってようやく賃金の上昇が物価の上昇に追い付きくようになり、個人の生活は逆に安定を取り戻すだろう。現在は、株価と個人の生活環境とは、同じ方向を向いていないのである。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ