フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 中国政府の株価対策は対症療法でしかない

中国政府の株価対策は対症療法でしかない

2024/02/15

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

中国政府が株価対策に乗り出す

中国株は過去3年の間、ほぼ一貫して下落を続けている。2022年には、米連邦準備制度理事会(FRB)など主要中銀の大幅利上げによって、世界の株式市場は打撃を受けたため、中国株の弱さは目立たなかった。しかし、昨年からは利上げ打ち止め観測が世界の株式市場の追い風となる中、中国株のパフォーマンスの悪さは際立った。さらに2024年の年初には、世界の中で日本株が突出して強く、中国株が突出して弱い状況が生まれた。

今年に入ってから中国政府は、株価対策に一気に乗り出した。証券行政トップの中国証券監督管理委員会(証監会)は1月29日に、株価の下落を加速させると考える「空売り」の制限を狙って、譲渡制限付き株式の貸し出しを全面的に禁止した。

2月5日には、「悪意のある空売り」の摘発を強化する方針を表明した。ある違法集団が、100以上の証券口座を利用し、空売りで1億3000万元の違法な利益を上げた事例などを公表した。

同日に同委員会は、追い証(追加担保の差し入れ義務)に対応できない投資家が、強制決済されるリスクを軽減するために、証券会社に対して、追加担保の差し入れ期限の延長や委託保証金維持率などの柔軟対応を求めた。信用買いの投資家が株価下落によって証券会社から求められた追い証に対応できず、強制的に保有株を売却される動きが株安に拍車をかけていると考えられているためだ。

6日に証監会は6日、空売りに必要な株式を貸し出す証券会社の株券転貸業務について、新規の積み増しを禁止するなどの新たな空売り規制を発表した。

また同日には、中国政府系投資会社の中央匯金(かいきん)投資が上場投資信託(ETF)への投資拡大を発表し、証監会が機関投資家に株式投資の拡大を求めた。それ以外にも、中国政府系ファンド(SWF)がETFを買い増したと公表した。こうした株価対策に利用される政府系の投資家は、「国家隊」と呼ばれる。

さらに7日には、政府(国務院)は、証監会主席の易会満氏を免職し、新たに上海市共産党委員会幹部の呉清氏を任命した。易氏は、株価対策が十分な成果を上げないことで、責任を取らされた形だ。

2015年の株価対策との共通点

中国政府は、2015年に株価が大幅に上昇した後に急落した際にも、当時の証監会主席を解任している(解任は2016年)。また、当時も「国家隊」である中国政府系投資会社の中央匯金が、株価急落局面でたびたび株価下支え役を果たしてきた。当時は1.3兆元の株式買い支えが行われたとされる。

また当時も政府は、株式の空売りを含む信用取引を規制した。信用取引とは、証券会社から借りた現金や株式を使って、株式を売買する取引だ。株式購入と空売りの2種類がある。信用取引を行えば、株価が下落する局面で大きな利益を上げることができる。

2015年初めには、株式の信用取引が急拡大した。個人投資家だけではなく上場企業も信用取引に殺到した。この信用取引の拡大が、CSI300指数が2015年6月にピークに達するまで、1年足らずで2倍以上になった原動力だった。信用取引残高は2兆3,000億元と、5倍以上にまで膨れ上がった。

信用取引が拡大した下で株価が下がると、信用で株式を購入していた投資家は、証券会社への返済資金を株式の売却によって捻出することを強いられ、それが株価の下落を加速させるなどの悪循環が生じた。

不動産市場の悪化に歯止めをかける必要

しかし、足もとでは信用取引は拡大していない。信用取引残高は前回ピーク時の水準を約40%下回り、減少傾向にある。2015年と同様に信用取引を規制しても、株価安定の効果は期待できないのではないか。

現在の株価下落の背景にあるのは、株式市場の問題ではなく、経済の悪化といったファンダメンタルズの問題である。特に、不動産市場の悪化が、景気減速を通じて株価下落を引き起こしている面が強いだろう。実際、不動産市場の悪化と株式市場の悪化は、2021年と同時期に始まっている。

住宅価格の下落は、逆資産効果によって住宅を保有する個人の消費に悪影響を与える。他方、すでに個人が購入したものの建設が未完成のまま放置されている住宅の存在が、需要減少を通じて住宅価格を下落させるとともに、購入者の景況感を悪化させている。

そこで、不動産市場の悪化に歯止めをかけるには、比較的財務が健全で規模が大きい不動産開発業者に対して直接資本を注入し、同業他社が放置した物件を完成させることが、重要な不動産市場対策になり、それは経済対策、そして株価対策にもなるだろう。

供給過剰によるデフレの問題も

また、中国の1月の消費者物価指数は前年比0.8%下落し、4か月連続の下落となるとともに、2009年9月以来の大幅下落となった。こうしたデフレ傾向も、企業収益の縮小などを通じて株価を押し下げている。デフレ傾向の背景には、鉄鋼、EVなどで顕著な供給過剰の問題がある。ところが政府は、供給過剰を解消するために、個人の需要を喚起するような財政政策を拒んできた。逆に米国への対抗から、国の補助金を通じて半導体の国内生産を拡大させる、供給を拡大させ逆方向の政策に注力している。

中国の株価下落の背景にあるのは、こうした不動産市場の悪化、供給過剰問題である。こうした問題に本格的に手を付けずに、株価を支える政策を実施してみても、それは対症療法であり、弥縫策でしかないだろう。

(参考資料)
"A Stock Bailout Won't Solve China’s Troubles(中国の株価対策、問題の根本解決にならず)", Wall Street Journal, February 8, 2024
「中国株、「介入」で下げ止まり 買い支えで個人資金誘う」、2024年2月11日、日本経済新聞電子版
「米中高官が会談 中国経済 冷え込み深刻 株価低迷で対策躍起」、2024年2月8日、産経新聞
「中国、株価対策に躍起 ETF購入や空売り摘発 7日ぶり反発も構造問題山積み」、2024年2月7日、日本経済新聞

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn