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マイナス金利政策解除のタイミングからその後の日銀の政策対応に注目が移る

2024/03/14

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マイナス金利政策解除と同時にYCCを撤廃するか

主要企業の間で高い賃上げでの妥結が相次いでいることを踏まえると、今年の春闘の賃上げの結果を特に重視してきた日本銀行が、3月18・19日の次回金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除に踏み切る可能性は、7割あるいはそれ以上にまで高まってきたと考えられる。

金融市場の関心は、日本銀行がいつマイナス金利政策解除に踏み切るかから、マイナス金利政策解除と同時にどのような政策修正を行うのか、そしてマイナス金利政策解除後の政策運営へと次第に移っている。

日本銀行は、マイナス金利政策解除と同時にイールドカーブ・コントロール(YCC)を撤廃し、国債買い入れ額に新たな目標を設定するとの観測もある(コラム「3月にも日銀がYCC撤廃と国債買い入れ額目標再導入との観測:量的引き締め開始までの時限措置」、2024年3月11日)。

マイナス金利政策解除後に、長期金利の安定を確認したうえで、今年後半にYCCを撤廃するという可能性もある一方、マイナス金利政策解除後に長期金利が不安定化することを避けるために、マイナス金利政策解除と同時にYCCを撤廃し、国債買い入れ額に新たな目標を設定する可能性も、半分程度の確率であるのではないか。

しかし、それは「量」を目標とする政策運営に回帰することを意味するものではない。長期金利の安定を維持しながら、正常化のプロセスを進めるための一時的な対応である。日本銀行が長期国債の保有残高を削減し、マネタリーベースの縮小を始める、いわゆる量的引き締め(QT)開始までの移行措置だろう。

フォワードガイダンスの修正とETF買い入れ額上限の撤廃

マイナス金利政策解除と同時に修正されることがほぼ確実なのは、先行きの金融政策の方針を示すフォワードガイダンスである。現在のフォワードガイダンスは、「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」というもので、コロナ問題発生時に導入した緩和バイアスのガイダンスだ。これを、金融引き締め方向のフォワードガイダンスへと一気に転換するだろう。

また、「ETF、J-RIETをそれぞれ年間約12兆円、年間1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に買い入れる」という方針を、マイナス金利政策解除と同時に撤廃するとの観測もある。この方針もコロナ問題発生時に導入した古いものだ。日本銀行は実際には、ETF、J-RIETをほぼ購入しなくなっており、この買い入れ上限額の方針は形骸化している。そのため、マイナス金利政策解除、政策転換と同時に、買い入れ上限を撤廃することは十分に考えられる。

しかし、ETFの買い入れ策の正常化では、どのように日本銀行の保有額を減らしていくかが最も重要である。この点についての対応は、かなり先になるだろう。

政策金利を+0.1%まで引き上げる一方、階層型日銀当座預金制度は維持か

日本銀行は、政策金利(付利金利)を現状の-0.1%から+0.1%に0.2%ポイント引きあげ、無担保コール翌日物金利を0~+0.1%のレンジへと0.1%程度引き上げると予想する。日本銀行は、無担保コール翌日物金利の水準をマイナス金利政策導入前の水準まで戻す、実質的には0.1%程度の小幅な金利引き上げ措置、と説明するだろう。

また、今回のマイナス金利政策解除時には、現状の階層型日銀当座預金制度は維持すると見込む。階層型当座預金制度は、日本銀行が政策金利を再度引き上げる前に、所要準備と超過準備からなる従来型の日銀当座預金制度に戻すと予想するが、それは早くても今年の後半となるのではないか(コラム「マイナス金利政策解除後の政策金利は何か?」、2024年3月1日)。

長期金利の安定確保が当面の課題に

マイナス金利政策解除後の日本銀行は、それが長期金利の大幅上昇、円高など金融市場に動揺をもたらさないかどうかを慎重に見極めることが最優先課題となる。

日本銀行は、マイナス金利政策解除後も政策金利はゼロ近傍の低水準で当面推移するとの見通しを示し、金融市場の追加利上げ観測をけん制している。しかし、2%の物価目標達成を宣言した上でマイナス金利政策解除に踏み切る場合には、金融市場では政策金利が2%を超える中立水準まで迅速に引き上げられるとの観測が浮上することを、完全に避けることはできないだろう。そうした観測が長期金利を上昇させる場合には、国債買い入れ額の増額や指値オペを引き続き活用しつつ、長期金利の安定に努めるだろう。

長期金利の安定が確認された後に、日本銀行は政策金利を+0.1%から+0.3%へと引き上げる、追加利上げを検討するだろう。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ、国内物価上昇率の下振れ、内外景気情勢の軟化などが、追加利上げの障害となり、追加利上げの実施は、2025年前半までずれ込むと見ておきたい(コラム「日銀マイナス金利政策解除の歴史的瞬間が近づく」、2024年3月13日)。

正常化の対応は金利政策からバランスシート政策に

政策金利を+0.3%まで引き上げれば、それは中立水準に近づくことから、それ以上の引き上げを日本銀行は急がないのではないか。その水準が当面のターミナルレート(金利の到着点)になると見ておきたい。YCCの撤廃と政策金利引き上げによって、「金利」への対応はとりあえず一巡する。

その後、2025年後半以降の日本銀行の政策修正の対象は、金利政策からバランスシート政策へ、「金利」から「量」へと移るのである。日本銀行はオーバーシュート型コミットメントを撤廃したうえで、長期国債の保有額を減らす、いわゆる量的引き締め(QT)を始めるだろう。それは、2025年後半と見る。国債を売却するのではなく、償還分の半分程度を再投資することで、緩やかに国債保有残高を削減していく。その際、残高削減ペースを目標として掲げ、経済情勢などに合わせてそのペースを微調整していくことになるのではないか。

ETFのオフバランス化が正常化の仕上げに

そして最後に着手するのが、ETF(及びJ-RIET)のオフバランス化だ。株式時価総額に占める日本銀行が保有するETF相当分の割合は、50%を超える日本銀行の国債保有比率と比べればかなり小さく、市場機能を損ねるリスクは相対的に小さいと考えられる。そのため日本銀行は、バランスシート政策のうち、最初に国債保有残高の削減に着手し、その後に、ETFを外部の受け皿機関に移すなどのオフバランス化に踏み切ると見ておきたい。その時期は、2026年と予想する。

ただし、株価が大幅に下落すれば、日本銀行はETFの正常化を前倒しする可能性がでてくる。日経平均株価が2万円を下回れば、保有ETFに含み損が発生し、1万円台前半となれば、含み損に対応した引き当てによって日本銀行が債務超過に陥るためだ。

ETFの正常化が進む頃には、植田総裁の任期も終盤を迎えることになる。こうして、異例の金融緩和策の副作用を軽減することを目指した正常化という歴史的な使命を、植田総裁は果たしていくことになるだろう。

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