&N 未来創発ラボ

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概要

これまでわが国は東京一極集中に歯止めをかけられていない。2014年に始まった地方創生の取組も観光や交流に重きを置いたものが多く、地方経済を支える産業のあり方そのものに踏み込むような骨太な取組はあまり見られないのが現状である。そこで本稿では、地方都市の成長に向けた要件を明らかにした上で、成長ポテンシャルが高いと見込まれる都市を明らかにする。

1.地方創生において目指すべき都市像

これまでわが国では東京一極集中に歯止めがかかったことはなく、今後もその傾向が続くと見込まれる。2050年にかけての人口変化を都市圏1別に見ると、東京都市圏(3.8%減)より減少率が低いのは福岡都市圏(1.6%減)と沖縄のいくつかの都市圏のみであり、政令指定都市で最も減少率が高い北九州都市圏では22.9%減、都道府県庁所在都市で最も減少率が高い青森都市圏では38.3%減と、大幅な都市の縮小が見込まれている2
東京一極集中が進む一番の理由は、人々が望む進学先、就職先が地方に不足しているためである。東京に居住する地方出身者へのアンケート3によると、地方から東京へ移住した理由としては「自身が望む進学先が東京にあったため」「自身が望む就職先や職種が東京にあったため」が大半を占めた。また、全体の67%が出身地に戻る意思があるものの、「現在と同等以上の収入や待遇が得られる仕事があること」が条件との回答が大半を占める。地方創生のためには、地方に産業を創発し「しごと」を生み出していくことが重要であるといえる。
一方、海外に目を転じてみると、日本と同様に人口減少と高齢化に直面しているドイツには、小規模だが生産性で大都市をしのぐ地方都市が存在している。例えば、人口15万人のレーゲンスブルク市(バイエルン州)には、自動車産業を中心に、半導体・電気機械・産業機械・センサー等の企業が集積し、1人あたり域内総生産(GRP4)は国内第8位(2021年)、生産額に占める輸出額の比率は60%以上に達する。1986年にBMWの生産・開発拠点が立地したのをきっかけに、やがて同社に部品を供給するサプライヤーも研究開発拠点を置くようになり、そこからスピンアウトした人材が同地で創業する流れが生まれている。また、優れた人材や先端的な研究開発成果等の資源の活用を目的として、さまざまな大手企業が積極的に拠点を設置するに至っている。ドイツにはこのように、地域に進出したグローバル企業や大学・研究機関からいくつもの新たな企業が生まれ、域外に流出することなく同地でビジネスを成長させ、世界から外貨を稼いでいる内発発展型の地方都市がいくつも存在する。

2.地方都市成長の要件

それでは、地方都市がこのように内発的な発展を遂げるためには、何が必要なのだろうか。
筆者は、スタートアップの創出や地元企業による新事業の創出が活発になされ、成長を遂げている都市を調査した結果、①新しいビジネスを創出・育成する基盤となる「大手企業の存在」、②優秀な人材やビジネスシーズを輩出する「大学・研究機関の存在」、③ステークホルダ―の連携を促したり、対外的に地域の目指す方向性を打ち出して外部に発信する「地方公共団体の積極性」に加え、④優秀な人材が住み働きたいと思う「魅力的な都市環境」、⑤多様な文化・価値観を持った人材を受け入れる「寛容な風土」が必要であると考えている。

図表1 地方都市成長の要件

  1. 出所) NRI「ランキングによる都市の持つ「成長可能性」の可視化~地方創生の成功の鍵はどこにあるのか~」(2017年07月05日)
    https://www.nri.com/jp/knowledge/report/2017forum255.html

これまでは、インハウスの研究者・エンジニアが製品を開発する自前主義の企業が多かったが、自前で開発するには限界があることから、最近では、他の企業やスタートアップ、アカデミアとの連携を強化してオープンイノベーションを推進する動きが強まっている。こうした動きの中、立地する大手企業や大学・研究機関が連携する中から新しいビジネスやスタートアップが創出される可能性は高まってきていると言えよう。
わが国の都道府県庁所在地規模の都市には、製造業を中心にグローバルに事業展開する企業の拠点が一定数あるとともに、理工系・情報系の専攻を持つ大学や技術系の高等専門学校など、起業家や事業オペレータになりうる優秀な人材を輩出する教育・研究機関も立地している。そこで、地元の自治体や経済界が積極的に、こうしたプレイヤーの連携を促進し、新たな事業・ビジネスの創出、ダイナミックな産業再生を促していくことが求められる。
上述した要件の中で核となるのが大手企業の存在である。大規模な製造拠点は、地価が高く開発余地の乏しい大都市圏には立地しづらいことから地方部を中心に立地しており、地方都市にはそうした拠点に所属する優秀な人材の蓄積がある。また、近年の地政学的リスクの顕在化等を背景として、グローバルサプライチェーンを見直し、国内回帰・国内生産体制の強化を図る動きも出てきており、これは地方都市にとっては産業集積を強化するチャンスになりうる。企業がオープンイノベーションの動きを加速化する中、こうした人材の蓄積は新たな事業・ビジネスを生み出す貴重な地域資源として捉えることができる。
一方で、グローバルな企業間競争が激化する中、重厚長大型の製造業を中心に事業構造の転換が求められている日本企業は多く、これまで地域を支えてきた企業が撤退し、雇用が失われるリスクも同時に高まっている。つまり、現在、地方都市は最後の成長機会を活かせるか逃すかの瀬戸際にあると言えるだろう。

3.成長ポテンシャルの高い都市はどこか

それでは、優れたリソースが豊富にあり、今後の成長ポテンシャルを秘めた地方都市はどこなのだろうか。
それを見るために、今後大きな成長が見込まれる産業セクターを特定した上で、その産業セクターにおける有望企業がどこに製造・研究開発拠点を設置しているかを調べてみた。
成長産業セクターとしては、官民の産業振興に係る各種戦略・計画5において共通して言及され、かつ、既に社会実装段階にある産業として「情報通信サービス」「半導体・先端電子部品」「ロボット」「バイオ・医薬品」「蓄電池」の5つをピックアップした。
そして、それぞれの業界において売上高が上位の企業(Tier1企業)及び売上規模は小さくとも近年の売上高成長率が高い企業(Tier2企業)を抽出し、これら企業における既存事業所の所在地及び今後の事業所の建設予定地を調査した6。その結果を都市圏別に集計した結果が下図である。

図表2 成長産業セクターにおける有望企業の拠点立地状況

  1. 出所) 個別企業のウェブサイト、プレスリリース等よりNRI作成

今後の成長が期待される有望企業の立地が多い都市としては、東京、大阪、名古屋といった大都市に次いで、富山、福井、徳島といった地方都市が上位に入る結果となった。北陸の都市が上位に入った背景としては、水や電気が豊富であるため電子部品産業の立地が多いこと、また、もともと立地していた製薬企業がバイオ事業に領域を拡大していること等が考えられる。
今回、個別事業所の機能や事業内容までは調査できていないため、ここでリストアップした全ての拠点が、オープンイノベーションに積極的であるか、また、新規ビジネスやスタートアップを創出する機能を有しているかは分からない。しかし、優秀な人材が存在している可能性は高く、成長に向けたポテンシャルが高い都市であるとはいえるだろう。都市間競争が激しくなる中、こうした拠点は容易に誘致できるものではない。地元自治体には、現在地域に存在する有望なリソースに着目し、その企業の成長や事業構造の転換、人材獲得を支援しつつ、地域に立地する大学・高専等の教育・研究機関との連携を促し、新規ビジネスやスタートアップの創出に向けた施策を講じていくことが期待される。
また、上で挙げた企業の立地状況は「都市圏」で整理した結果であり、必ずしも拠点都市に立地しているとは限らない。それぞれの自治体の中だけで見るとリソースが限られる場合でも、都市圏の視点で見ると意外とリソースが豊富にある可能性もある。自治体間で連携し、地域全体で産業の育成・振興に努めていくという視点も重要である。
地方都市の成長を実現する上で鍵になるのは「人材」である。採用が買い手市場であった時代には、企業はその名前だけで優秀な人材を獲得することができたが、人材の獲得競争が激しくなる中、近年は有名企業であっても地方工場併設の研究開発拠点では優秀な人材を集めるのが難しく、研究開発拠点を首都圏に移転・集約する動きが出てきている。また、2025年には7年ぶりにGDPギャップがプラスに転じることが明らかとなり7、今後労働力不足がますます深刻化する可能性が高い。このため、地方都市においては、産業政策と両輪で、東京や大阪といった大都市には無い地域の魅力に磨きをかけ、優秀な人材が「住み働きたい」と思えるような魅力的な都市づくりを行っていくことも求められると言えよう。

  1. 1 「日本の都市圏設定基準」(金本良嗣・徳岡一幸、2002)に基づく「都市雇用圏」単位で見ている。都市雇用圏は、DID人口および従業常住人口比から中心都市を選定し、そこへの通勤率を考慮して圏域を定義したもの。
  2. 2国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」による。
  3. 318歳~39歳の地方出身者(東京都、愛知県、大阪府以外の出身)で東京在住者を対象としたウェブアンケート。2017年6月実施。
  4. 4域内総生産(Gross Regional Product:GRP)とは、一定の地域内で生産された付加価値額。
  5. 5官側の方針を示す文書として『経済財政運営と改革の基本方針』(2024.6)、『統合イノベーション戦略』(2024.6)、『成長戦略実行計画』(2021.6)、『産業技術ビジョン』(2020.5)、『半導体・デジタル産業戦略』(2023.6)、『バイオエコノミー戦略』(2024.6)、『マテリアル革新力強化戦略』(2021.4)、GX実現に向けた投資促進策を具体化する『分野別投資戦略』(2024.12)を、また、民側の方針を示す文書として『産業技術立国への再挑戦~2030-2040年における産業とキー・テクノロジー~』(日本経済団体連合会、2022.10)を参照した。
  6. 6ただし、個別事業所の規模・機能やそこに所属している従業者の属性までは調査できていない。このため、抽出した事業所の全てが産業創発拠点としてのポテンシャルを有しているとは限らない点には留意が必要である。
  7. 72024年12月26日の経済財政諮問会議で公表された内閣府試算による。

プロフィール

  • 小林 庸至

    コンサルティング事業本部 社会システムコンサルティング部

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。