&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
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2024年は世界的な選挙イヤーとなり、世界中で既存与党が選挙で大きく敗北し、右傾化が進行した。米国ではトランプ前大統領が再選し、対中国政策の強硬化や国際協力体制への緊張が懸念されている。日本では衆議院において自公が過半数割れとなり、政策決定における交渉が重視されている。2025年は、これらの政治的変化が国際社会に影響を与え、地政学的、経済的リスクが増大し、多国間協力が後退する可能性が懸念される年となるといえよう。こうしたなかでは、私たち一人ひとりがどのように行動し、社会全体がどのように変化を受け入れるかが問われている。特に、日本は団塊世代の全員が後期高齢者となる「真の高齢社会」に突入し、社会保障や労働市場の課題が一層顕在化することが予想される。このような背景認識のもと、「シリーズ:2025日本が直面する社会課題」として、中長期的に取り組むべき社会課題とその解決に向けた政策の方向性を中立的な視点から整理してみることを試みた。本稿は、全6回にわたり連載するシリーズのプロローグである。

2024年は世界的な選挙イヤーとなり、米国や日本をはじめとした主要国の選挙が注目された。しかし、インフレや景気後退が市民生活を悪化させたことを受け、世界中で既存与党が選挙で大きく敗北し、右傾化が進行した。11月の米大統領選では、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が民主党のカマラ・ハリス副大統領を破り勝利した。この結果は、バイデン政権下の経済政策や社会分裂に対する不満が有権者の間で広がったことが背景にあるといわれる。トランプ氏の大統領再任は、2025年以降の米国および世界の政治に大きな影響を与えると考えられる。特に注目すべきは、対中国政策の強硬化である。トランプ氏は選挙中から米国第一主義を掲げており、貿易戦争の再燃やサプライチェーン再構築への圧力が強まる可能性がある。加えて、パリ協定からの再脱退の可能性や、NATO加盟国への防衛負担増加要求など、国際協力体制に対する緊張が高まるだろう。米国内では、経済政策として減税やエネルギー産業の活性化が進められると予想される一方で、所得格差や社会的分断のさらなる拡大が懸念される。選挙で示された経済不安が依然として国民の間に残るなか、トランプ政権がその不満をどのように解消していくかが鍵となる。
10月には日本でも衆議院総選挙が実施された。与党・自民党は191議席と敗北し、公明党の24議席と合わせても過半数を割った。自公の過半数割れは民主党政権が誕生した2009年の衆院選以来となった。新しい与野党の力関係により、補正予算や主要政策の決定において交渉が重視されている。少子化対策やエネルギー政策など日本の課題にどのように対応するかが試される局面となった。また、米国のトランプ政権との関係構築も重要課題である。特に、防衛費増額要求や貿易交渉への対応が迫られる可能性があり、国内世論をどうまとめるかが試されるだろう。
こうした動きを踏まえると、2025年は、世界が新たな地政学的、経済的、社会的課題に直面する重要な年となると考えられる。2024年の主要国選挙結果に伴う政治的変化が、国際社会に大きな影響を与えることが予想される。例えば、気候変動対策における国際的な足並みの乱れや、地政学的なリスクの増大が懸念される。米中対立が激化するなかで、多国間協力が後退し、経済や技術分野での分断が進む可能性がある。一方で、 グローバルサウスに代表される新興国の影響力拡大も無視できない。アジアやアフリカ諸国が独自の経済圏を形成しつつある中で、日本や米国がこれらの地域とどのように連携するかが問われる年となるだろう。
こうしたなかでは、私たち一人ひとりがどのように行動し、社会全体がどのように変化を受け入れるかが問われている。特に、日本は団塊世代の全員が後期高齢者となる「真の高齢社会」に突入し、社会保障や労働市場の課題が一層顕在化することが予想される。このような背景認識のもと、我々は、中立的な視点から中長期的に取り組むべき社会課題とその解決に向けた政策の方向性を整理してみることを試みた。
まず、地方創生施策について考えてみる。日本の地方は、人口減少や都市消滅の危機といった深刻な課題に直面している。地方都市の成長に向けて、産業誘致や産業高付加価値化のための具体的な処方箋を示すことが求められる。これにより、地方経済の活性化と持続可能な発展を実現することが可能となるだろう。地方都市における産業振興のポテンシャルを引き出すためには、国際的な経済構造の転換期における地方産業の方向性を明確にし、地域の資源や特性を活かした新しい価値創造(イノベーション)を推進する必要がある。また、交付金事業の在り方を見直し、地方自治体が自立的に発展できるような支援策を講じることも重要である。
さらに、2050年のカーボンニュートラル目標達成に向けた具体的なロードマップを策定し、エネルギー政策の見直しを進めることが必要である。特に、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギー技術の開発を通じて、持続可能な社会の実現を目指すべきである。 加えて、人材不足や産業構造の転換を支えるためには、国際的な労働市場における日本の競争力を高めることが不可欠である。これには、長らく維持されてきた雇用システムや労働慣行の変革といった労働市場改革を通じた人材の高付加価値化と流動性向上により、多様な人材が活躍できる社会を構築することが求められる。
最後に、グローバルサウスに対する日本の貢献と事業機会についても考えてみる。アジアやアフリカ諸国が独自の経済圏を形成しつつある中で、日本がこれらの地域とどのように連携し、共に成長していくかが問われている。特に、技術移転や人材育成を通じて、相互に利益を享受できる関係を築くことが重要である。
具体的には、この後順次公表する本誌シリーズの各コラムをご覧いただきたいが、このシリーズを通じて、我々は社会の持続可能な発展に貢献していきたいと考えている。2025年はこれらの課題に対し、日本が世界各国とどのように協調し、解決策を見出すかが試される年となるだろう。私たち一人ひとりも、このような大きな変化の中で自分の役割を考え、行動を起こす必要がある。社会全体が変化を受け入れ、未来をより良い方向に導くための重要な年となる良いきっかけになることを期待している。

プロフィール

  • 榊原 渉のポートレート

    榊原 渉

    コンサルティング事業本部 統括部長 兼 サステナビリティ事業コンサルティング部長 コンサルティング事業本部 DX事業推進部長

    

    1996年3月 早稲田大学理工学部建築学科卒業
    1998年3月  同 大学院理工学研究科建設工学専攻修了
    1998年4月 株式会社野村総合研究所入社
    2017年4月 グローバルインフラコンサルティング部長
    2020年4月 コンサルティング人材開発室長
    2022年4月 サステナビリティ事業コンサルティング部長
    2023年4月 サステナビリティ事業コンサルティング部長 兼 DX事業推進部長
    2024年4月 コンサルティング事業本部 統括部長 兼 サステナビリティ事業コンサルティング部長 兼 コンサルティング事業本部 DX事業推進部長

  • 岡村 篤のポートレート

    岡村 篤

    コンサルティング事業本部 社会システムコンサルティング部長

    2003年慶應義塾大学経済学部卒業後、同年NRI入社。
    入社後、主に国内外の産業政策・都市開発関連の案件に従事。
    その後、産業政策・都市政策の一環としてMICE分野の案件にも従事。国や自治体の戦略策定支援に加え、民間業の施設開発やエリア開発支援等を手掛ける。
    その他、地方創生関連案件や大規模再開発案件、人材政策案件など多数の実績を有する。
    2017年から2023年にかけて、立教大学において「コンベンション産業論」を担当。
    2022年から国際的なMICE業界団体であるMPI(Meeting Professionals International)のJapan Chapter会長に就任。2025年からは前会長職に就任。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。