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概要

昨今、注目度が高まっているグローバルサウスであるが、日本にとっては、①市場、②経済安全保障、③産業競争力再構築の観点で重要である。
ただし、グローバルサウスを構成している国毎に、経済力・社会・文化・宗教や日本との親密性などは大きく異なっている。十把一絡げに語ることは難しく、各国の特性に応じて日本との関係性を定義する必要がある。本稿では、経済発展・日本企業の事業活動の観点から、グローバルサウス諸国を分類し、日本政府が強化すべき地域戦略の一つの考え方を提示する。

グローバルサウスとは

グローバルサウスとは、南半球に位置するアジアやアフリカ、中南米地域の新興国・途上国の総称である。明確な定義や対象国のリストはなく、冷戦時代に「第三世界」と呼ばれていたインドや西アジア、中央アジアなどを含むアジア、アフリカ、ラテンアメリカ、太平洋島しょ国などの国々を指す。
日本政府は、グローバルサウスを重要視しており、「グローバルサウス諸国との連携強化推進会議」を2023年10月から総理大臣出席のもと主要官庁幹部で開催している。同会議では、「国際社会が歴史的な転換点を迎えている中、GS(グローバルサウス)との関与を更に強化し、分断と対立ではなく協調の国際社会を実現するために、 国際社会をリードしていくことが日本外交の重要課題」であるとしている。
注目度が高まっているグローバルサウスであるが、日本にとっては、①市場、②経済安全保障、③産業競争力再構築の観点で重要である。

欧米中を越えるグローバルサウスの経済規模

2026年にはグローバルサウスの人口の合計が世界の2/3を占めると推計される。さらに、経済規模はすでに中国のGDPを上回っており、2040年までには米国の名目GDPを超える見込みである。

図表1 グローバルサウスと主要国の経済発展

  1. 注) 2023年まで:IMF実績値
    2024~2029年:IMF実績値
    2030年以降:IMF及びWorld Bankの人口データを用いてNRI推計

出所)IMF, "World Economic Outlook"2024年4月版、World Bank Group, "Population estimates and projections"よりNRI作成

グローバルサウスの経済規模と発展性に注目して事業拡大と新たな戦略構築を図る日本企業は少なくない。例えば、ある化学メーカは、グローバルサウスは地理的にも広範囲であり、複数の生産拠点を設け、新たなサプライチェーン体制の構築を図る計画を立てている。また、ある電機メーカでは、グローバルサウスなかでもアフリカにおいては、先行する中国よりも安価な製品を展開しなければ勝てないと考え、従来の消費地での生産する戦略から、インドを一大生産拠点にする戦略へと転換を図る計画である。なお、インドは世界最大の人口を誇る国であり、同国の発展の行方は、市場としてみても、生産輸出拠点として捉えても、グローバルサウスに大きなインパクトをもたらしうるため、その動向は注意深く見守る必要がある。

経済安全保障の担保に向けた仲間づくり

近年、国家間の地政学的な覇権争いが、産業保護や技術強化の形で表面化し、いわゆるブロック化が進んでいる。グローバルサウス諸国は、農産物や希少鉱物や原油などの資源産出国が多い。また、東南アジア、インド、メキシコなどには日本企業の工場が集積しており、日本企業のサプライチェーンにおいて重要な役割を果たしている。さらに、グローバルサウス諸国には、陸路、海路、航路上の結節点となっている国も多い。日本が経済安全保障の担保を追及するにあたっては、グローバルサウス諸国と協調関係を築くことが必要不可欠となってくる。

産業競争力の再構築に向けたグローバルサウスとの協調

グローバルサウス諸国企業の台頭による日本企業の技術的優位性や価格競争力の相対的な低下、顧客ニーズがハードからソフトや社会課題解決へと変化することへの遅れ、およびGXやDXなどの新しい技術・トレンドへの対応の遅れから、日本産業の競争力は曲がり角だといっても過言ではない。この点、グローバルサウスを市場や生産の場ではなく、開発や新事業構築のテストベッドとして捉える日本企業が出始めている。
例えば、楽天、メルカリ、ラクスルといったIT企業は相次いで、直近数年でインドに研究開発拠点を立ち上げている。中でも、楽天グループのインド従業員は数千人規模にまでいたっている。DXが競争力の鍵を握る状況化では、インドなどのグローバルサウスIT人材リソースと連携した研究開発の必要性は高まることが想定できる。
また、日本企業がヘルスケア、インフラ、モビリティなどの分野において、グローバルサウス企業や政府と連携して、対象国のデータを協働で分析し、新事業を立ち上げて、グローバル展開を目指す動きが出てきている。これは、日本企業が、グローバルサウス企業のDXや現地市場ニーズに精通するナレッジを学ぶこと、および日本本社の厳しい品質基準や事業基準によらず迅速に事業立ち上げを図れることに着目しての活動となることが多い。今後、日本企業には、グローバルサウス諸国企業から学び、協働して新たなビジネスモデルを構築する動きが増えてくるものと考える。

グローバルサウスに対する日本の地域戦略精緻化の必要性

グローバルサウスは、日本にとって様々な意味合いを有しているが、実は構成している国毎に、経済力・社会・文化・宗教や日本との親密性などは大きく異なっている。十把一絡げに語ることは難しく、各国の特性に応じて、日本との関係性を定義する必要がある。
特に、日本政府の場合、相手国の産業発展・社会課題解決、日本企業の海外事業支援、国際的な枠組みの促進、外交・安全保障の発展など、様々な視点がある。目的に応じて各国の位置づけを整理し、国別の地域戦略を構築し、関係を深耕していく必要があり、複雑性を帯びることになる。 地域戦略を国ごとに構築するために、一定の分類に沿って、地域戦略の方向性を整理するアプローチが有効ではないだろうか。以下では、経済発展・日本企業の事業活動の観点から、グローバルサウス諸国を分類し、日本政府が強化すべき地域戦略の一つの考え方を提示したい。

図表2 グローバルサウス諸国のタイプ分類と地域戦略の考え方

  1. 注) 上記以外にグローバルサウス諸国で、日本企業の進出が20拠点未満の国が数十か国程度存在する
    Per capita GDPは2023年数値。スリランカは2022年数値を活用。

出所)海外進出日系企業拠点数調査(外務省)2023年調査、GDP per capita, current prices(IMF)よりNRI作成

「内需成熟×日本企業多数」国:産業高度化、Well-Being向上のための社会システム整備

「内需成熟×日本企業多数」の国は、一定程度の経済発展を遂げており、一層の産業・社会の高度化への期待が高い。大都市や先進都市には、日本の安全・安心や、弱者に優しい社会システムの輸出が適合しうる。また、既に輸出産業も十分に成長しているため、さらに付加価値の高い産業への構造転換や、製造業のデジタル化、自動車産業のEV化などへの貢献が期待されることが多い。

「内需成熟×日本企業少数」国:新産業構築、Well-Being向上のための社会システム整備

「内需成熟×日本企業少数」の国は、一定程度の経済発展を遂げているにもかかわらず、日本企業の進出が進んでいない特徴を有する。これは、主に中東・アフリカ・中南米の資源国に代表されるように、経済水準は高いが人口が少ないため市場性が小さく、製造業のような輸出産業が育っていないため生産拠点としての魅力も小さいことに起因する。これらの国は、経済水準が高いため、大都市や先進都市には、日本の安全・安心や、弱者に優しい社会システムの輸出が適合しうる。一方で、資源につぐ産業が育っていないことが課題で、日本へは資源の継続的な購入に加えて、新産業の構築が期待されることが多い。

「内需発展×日本企業多数」国:輸出産業育成、産業インフラ・基盤インフラ整備

「内需発展×日本企業多数」の国は、インドやインドネシアに代表されるように、経済水準は高まりきっていないが、人口も多く、市場性が高く、日本企業の進出が進んでいる。
まだ、経済が発展途上にあり、工業団地のような産業インフラや、水・電力などの基盤インフラへのニーズは高い。ODAの効果的な提供が期待されている。また、輸出産業がまだ十分に育っておらず、日本には輸出産業育成が期待されることが多い。

「内需発展×日本企業少数」国:事業環境整備、産業インフラ・基盤インフラ整備

「内需発展×日本企業少数」の国は、バングラデシュやアフリカ諸国に代表されるように、経済発展の準備段階にある。その潜在性に鑑みて、日本企業が進出しつつあるが、事業環境の未整備等から、進出数が伸び悩んでいる。産業インフラ・基盤インフラの構築への期待は高く、ODAを効果的に活用すると同時に、事業環境の整備をもとめ日本企業の進出促進を図ることが重要となってくる。

結び

以上、経済発展・日本企業の事業活動の観点からグローバルサウス諸国を整理した。他の目的や観点であれば、当然、異なった整理・分析が必要となる。
2024年の選挙イヤーを経て世界は右傾化の道を進み、国際協力体制は緊張化し、ブロック化が加速している。この状況において、多様性のあるグローバルサウス諸国と、日本の官民は様々な目的で関係を深化していくことは重要であり、当社では、今後もその戦略検討に有用となりえる切り口提示を目指すとともに、深化に向けた一助となることを目指したい。

プロフィール

  • 又木 毅正

    コンサルティング事業本部 サステナビリティ事業コンサルティング部

  • 磯崎 彦次郎

    コンサルティング事業本部 社会システムコンサルティング部

  • 辻村 翔

    コンサルティング事業本部 サステナビリティ事業コンサルティング部

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。