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野村総合研究所と
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近年、中東情勢の緊迫化やエネルギー価格の変動を背景に、エネルギー安全保障の重要性が高まっています。洋上風力は、国産のエネルギー源として期待されるとともに、幅広い産業に事業機会を生み出す成長分野です。連載『脱炭素と地方創生を同時に実現する「脱炭素ビジネス」への挑戦』の第9回では、港湾を起点とした洋上風力産業の形成について、国内外の事例をもとにご紹介します。

※実際の取組みが企業によって行われる場合も、地域の事例として記載します。

臨海エリアの強みを生かす洋上風力

福岡県北九州市は、日本の四大工業地帯の一つである「北九州工業地帯」として高度経済成長を牽引した一方、1960年代に深刻な公害を経験しました。1980年代には環境再生を果たし、現在は港湾や産業集積に強みを持つ臨海エリアの響灘地区で、洋上ウインドファームに必要な機能を集積し、洋上風力の総合拠点となることを目指しています。

洋上風力は、陸上より風況が安定し、日本でも導入拡大が期待されています(※1)。風車は多数の機器・部品で構成されます(※2)。その調達・製造などを担う関連産業は多岐にわたり、巨大なサプライチェーンを形成しています。日本の造船・製造・施工といった既存技術を活用できるほか、運用・保守(O&M:Operation & Maintenance)、物流、ICT・ロボティクス、人材育成など幅広い分野で新たな需要が期待されており、地元企業を含む多様な企業にとって新たな事業機会となります。

洋上風力には、風車の基礎部分を海底に固定する「着床式」と、洋上に浮かべる「浮体式」の2種類があります。日本は沿岸から水深が急に深くなる海域が多いため、比較的浅い海域に適した着床式に加え、より深い海域にも設置できる浮体式の導入拡大が期待されています。同市では、2025年4月に浮体式(風車1基)、2026年3月に着床式(風車25基)の商業運転を開始しました。後者は総事業費が約1,700億円であり、日本最大の洋上ウインドファームとなりました。地質調査などの海域調査を経て、風車建設には多くの地元企業が参入しました(※3)。

写真:北九州市響灘沖で稼働する『北九州響灘洋上ウインドファーム』(着床式、風車25基)
出所)NRI 撮影(2026年8月1日時点)

洋上風力は、発電設備の導入だけでなく、地域産業を育成する側面も持っています。そのためには、港湾・物流機能を核とした関連産業の集積が重要となります。その形は、地域の港湾条件や既存産業によって異なり、洋上風力の専用拠点港湾の構築や、複数港湾が連携するモデルなど、様々な展開が考えられます。

基地港湾を活用した洋上風力の産業拠点

(1)洋上風力の総合拠点

北九州港の響灘地区では、洋上風力の総合拠点の形成を進めています。総合拠点とは、洋上風力に必要な、①物流、②製造産業、③積出・建設、④運用・保守(O&M)の4つの機能を備えた産業拠点を指します。

総合拠点の製造機能は、響灘の着床式案件に加え、石狩湾新港の洋上風力案件にも対応しました。こうした製造を支えているのが物流機能であり、国内・海外との間で製品・部品の輸送を担うことが期待されています。大型着床式の施工では、大型の風車部材を海上で吊り上げて設置するためSEP船(自己昇降式作業台船)が活用されます。国内には数隻しかなく、2隻が北九州港を母港としており、風車25基の建設でも使用されました。O&M分野でも、O&M事業者がメンテナンスパーツの物流倉庫や、風車基礎の実機を用いた訓練施設を整備するなど、O&M基盤の整備が進んでいます。

同市は、将来的には国内はもとより東アジアに向けて、洋上風力に関わる様々なサービスの提供体制の確立を目指しています。

出所)
・国内各地の基地港湾は、「資料3 国土交通省説明資料」(2024年6月13日)より抜粋してNRI加工:
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/063_03_00.pdf
・4つの機能は、「グリーンエネルギーポートひびき事業」(北九州市)よりNRI作成:
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/30300033.html

(2)洋上風力を支える「基地港湾」

同市の総合拠点の中核インフラが、基地港湾です。基地港湾とは、洋上風力の設備設置や維持管理に利用される埠頭を有し、国が指定する港湾です。風車部材の保管・組立・積出を担い、洋上への輸送・施工を支えます。大型部材に対応するため、岸壁には高い耐荷重性と十分な水深や長さが求められます。
2026年4月時点で、基地港湾は全国で7港しかなく、西日本では北九州港が唯一です。こうした基地港湾を核として製造・物流・建設・O&Mなどの機能を周辺に集積できることが、北九州市の総合拠点の強みとなっています。基地港湾を核とした総合拠点モデルは、今後の洋上風力の関連産業の集積を進めるうえで、先行事例の一つとして参考になると考えられます。

着床式と浮体式では、港湾の使い方が異なります。着床式では、港湾から風車部材を運び、洋上で風車を基礎に据え付けるのに対し、浮体式では、港湾やその周辺で浮体基礎に風車を組立・搭載し、完成した浮体式風車を設置海域まで曳航します。こうした施工工程の違いから、浮体式では、各工程に必要な機能に応じて基地港湾以外の港湾や地区を活用することも考えられます。
北九州港では、基地港湾に指定されている響灘東地区に加え、西地区でも浮体式洋上風力の導入を見据えた拠点整備が検討されています(※3)。

浮体式洋上風力の商用化に向けたフランスの港湾整備

(1)地域主導の港湾再編

今後、日本でも導入拡大が期待される浮体式洋上風力では、欧州を中心に港湾整備が先行しています。中でもフランスでは、発電設備の建設・保守を支える港湾インフラと物流機能の一体的な整備が進められています。こうした取り組みは、日本の浮体式洋上風力の港湾整備を考える上でも参考になります。

フランスの地中海沿岸は、沿岸から水深が急に深くなる地形で、日本と同様に浮体式の導入が期待されています。地中海に面したポート・ラ・ヌーヴェルでは、浮体式洋上風力の本格導入を見据え、商用化に先立つ小規模な先行案件として2つのパイロットプロジェクトを実施し、浮体式洋上風力の拠点となる港湾機能の整備が進められています。
同港湾は、従来は欧州と北アフリカ間で穀物や農産物などの輸送を担っていました。地域主導で投資を行い、浮体式洋上風力の建設・物流拠点への転換を進め、失業率の高い地域で雇用創出と経済発展につなげようとしています。

出所)フランス国土地理院(IGN)よりNRI作成

港湾整備では、浮体式パイロット向けに重量物対応岸壁や組立用地が整備され、2つのパイロットプロジェクトでは、それぞれ3基の10MW級風車が組み立てられました。さらに、商用浮体式への対応を見据え、水深約16mの岸壁や陸上用地の拡張が計画されており、将来的には20MW級の浮体式風車を年間12基組立・進水できる能力が想定されています(※4)。北九州港でも、将来の浮体式への対応に向けた検討が進められています(※3)。

注)ポート・ラ・ヌーヴェル港全体の面積は210ヘクタールとなる。Phase 2は、Phase 1で整備された施設を拡張する計画
出所)
・Port-La Nouvelle Official Website (accessed April 2026):https://www.port-la-nouvelle.com/eng/
・DEME Group, “Port-La Nouvelle Port Concession inaugurated” (June 23, 2022) :
https://www.deme-group.com/news/port-la-nouvelle-port-concession-inaugurated
・ Wind Energy Ireland “National Ports Study” (March 2023):
https://windenergyireland.com/images/files/20230329-final-irish-ports-funding-study.pdf

(2)浮体式洋上風力の産業化を支える物流機能と港湾連携

同港湾では、物流用地も整備され、港湾に近接したエリアで鉄道・道路・海上輸送を連携させることで広域的な物流機能の強化も図られています。洋上風力の施工では、海上設置のタイミング調整や気象・海象条件などにより、待機が発生することがあります。こうした場合に、完成した風車を海上で一時保管するウェットストレージを活用することで、港湾内の保管スペースの制約を緩和し、施工・物流を柔軟に調整することが期待されています。

浮体式洋上風力では、専用拠点が整備される途上において、複数港湾が役割分担しながら連携してプロジェクトを進めることがあります。2つのパイロットのうち、初期案件では既存港とポート・ラ・ヌーヴェルが役割分担しながらプロジェクトが進められました。後続案件では、ポート・ラ・ヌーヴェルを主拠点として建設が進められています。

日本でも浮体式洋上風力の本格導入に向けては、港湾機能と輸送・保管体制を一体で整備する必要があります。一方、日本では浮体式に必要な岸壁、作業用地や水域などを備えた港湾は限られています。北九州市のような基地港湾を核とした総合拠点の構築に加え、地域の港湾条件に応じた港湾間の役割分担も重要となります。

港湾連携による洋上風力の拠点形成と企業参入の視点

(1)港湾連携型の拠点形成

北九州市は、良好な風況、基地港湾、製造業の集積を生かし、洋上風力の製造・建設・O&Mを一体で担う産業基盤の形成を進めています。一方、日本の他地域でも、既存産業を活用し、複数港湾で製造・建設・保守などの機能を分担する拠点形成も考えられます。例えば、基地港湾が最終組み立てと工事、隣接港湾が保守を担う役割分担などです。

実際に、秋田県では、基地港湾(能代港・秋田港)に近接する船川港を、洋上風力の保守拠点として整備する計画が進められています。資機材の保管や作業員輸送船の係留機能に加え、人材育成も計画されています(※5)。
また、建設工程を複数港湾で分担する動きもあります。秋田県の「八峰町・能代市沖」プロジェクト(2029年運転開始予定)では、基礎施工に秋田港・船川港、風車施工に室蘭港、O&Mに能代港を利用する計画です(※6)。

(2)企業参入の視点

洋上風力では、製造、建設、物流、O&Mなど幅広い領域で新たな事業機会が生まれます。また、洋上風力の事業性を高める手段として、デジタル技術の活用も重要となります。
今後は、港湾・輸送・施工を横断するデータ連携や、気象・海象データを活用した施工・O&Mの最適化などにより、物流・施工の効率化や運用維持費の低減を支えるデジタル技術・サービスが、新たな競争領域となる可能性があります(※7)。

一方で、国内サプライチェーンや港湾・送電インフラ整備などの課題もあり、官民連携による投資の重要性も高まっています。日本における2030年代の浮体式の商用化を見据え、企業は自社の技術や保有資産をどの領域で生かせるかを見極めながら、港湾・地域企業との連携を含めた参入戦略を構築していくことが重要となります。

おわりに

洋上風力事業の持続的な発展のためには、地域の既存産業や人材を生かしながら、地域と共に産業基盤を形成していくことが重要です。港湾を核として地域と洋上風力産業との接点を広げ、企業の事業機会と地域への経済波及を両立させることが、脱炭素と地方創生を同時に進める鍵になると考えます。

  1. (※1) 野村総合研究所(2026年03月04日)『洋上風力を成長産業にする ― 重点投資対象17分野による産業転換―』:
    https://www.nri.com/jp/media/journal/20260304.html
  2. (※2) 一般社団法人日本電機工業会『風車の構造』:
    https://www.jema-net.or.jp/energy/wind/structure.html
    発電能力が2MW級の風車では、構成部品は約1~2万点とされる。なお、本稿でいう関連産業には、建設・保守に必要な主要機器メーカー(鉄鋼・造船・重工・重電・ケーブルメーカーなど)や、施工を支える事業者(造船・海運・建設・海洋施工など)を含む。
  3. (※3) 北九州市 港湾空港局 洋上風力拠点化推進課 ヒアリング(2026年7月31日)
  4. (※4) Egis, “Port-la-Nouvelle: innovative infrastructure to support the energy transition” , accessed May 7, 2026:
    https://www.egis-group.com/projects/port-la-nouvelle-innovative-infrastructure-to-support-the-energy-transition
    なお、港湾整備の詳細については表1の出所を参照。
  5. (※5) 秋田県(2024年3月)『船川港長期構想』:
    https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/81403
    秋田県『船川港 港湾計画 改訂 説明資料』:
    https://www.pref.akita.lg.jp/uploads/public/archive_0000082523_00/02-1_%E8%88%B9%E5%B7%9D%E6%B8%AF%E6%A6%82%E8%A6%81%E8%AA%AC%E6%98%8E%E8%B3%87%E6%96%99.pdf
  6. (※6) 経済産業省・国土交通省(2025年3月)『秋田県八峰町及び能代市沖における洋上風力発電事業について』:
    https://www.meti.go.jp/press/2024/03/20250314003/20250314003.html
  7. (※7) 野村総合研究所(知的資産創造 2026年1月号)『GX産業の切り札「浮体式洋上風力事業」』:
    https://www.nri.com/jp/knowledge/publication/chitekishisan_202601/08.html

プロフィール

  • 佐野 則子のポートレート

    佐野 則子

    システムコンサルティング事業開発室

    

    民間シンクタンクを経て、1998年野村総合研究所に入社。システムエンジニアを経験した後、事業変革や業務改革などのコンサルティング業務に従事。
    現在は、デジタルで社会課題を解決することを目的として、社会提言、社会課題解決の実行支援、海外における革新的なデジタル活用調査、生活者の意識調査、事業創出の人財育成などを行っている。少子高齢化に関するヘルスケア分野の日米特許所有。2023年より「脱炭素×地方創生」をテーマとしたコラムを連載中。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。