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5Gの波に乗り遅れないために: 今、企業が取り組むべきこと

2023/08/24

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執筆者プロフィール

ITアーキテクチャーコンサルティング部 中村 規義:
大手SIerでシステム企画・開発に携わった後NRI入社。
現在は金融やインフラ業界向け事業戦略、IT戦略、業務改革などのコンサルティング業務に従事。

はじめに

野村総合研究所 ITアーキテクチャーコンサルティング部の中村です。
2020年に各通信事業者が5Gサービスを開始して以来、5Gは急速に普及しています。5Gは大容量・低遅延・多接続という3つの特性を持っていますが、現時点ではまだ多くの先行企業においてもその恩恵を享受できていません。

5Gを今後のビジネスに取り入れるためには、これらの特性を理解した上で、自社の課題や新たなサービスにどのように活かしていくかがポイントとなります。そこで、この記事では、5Gの特性や可能性、注意すべき点、そして今取り組むべきことについて解説します。5Gを取り入れたサービスを検討している事業開発担当の方々や、経営層、事業のマネジメント層の皆様の参考になれば幸いです。

5Gは何に使えるのか、その特性と可能性

先に示したように、5Gには大容量・低遅延・多接続という3つの特性があります。大容量とは、より多くのデータを一度に送受信できることを意味し、低遅延は通信の遅延時間が短くなることを指します。多接続は多くのデバイスが同時に接続できることを表します。これらの特性を活かすためには、自社のビジネスニーズや課題と特性を紐づける必要があります。

例えば、大容量特性を活用すると、工場の生産ラインでの検品や作業現場の安全監視などの業務効率化が期待できます。低遅延の特性は、自動運転車や工場のライン制御など、リアルタイム性が求められる現場で有効です。多接続の特性を活用すると、スマートシティやIoTデバイスなど、大量のデバイスが連携する環境でのビジネス展開が期待できます。

5Gの活用例~大容量特性を活かした生産ラインの効率化

ここでは、5Gの特性の一つである大容量を活用した例として、先ほど挙げた工場の生産ラインでの検品・安全監視の業務効率化をご紹介します。

5Gでは大容量通信が可能となるため、高精細な映像をリアルタイム転送することができます。この特性を活かすことで、遠隔地から複数の場所の生産ラインを監視する業務管理システムを構築できます。これにより、工場の課題である検品作業の見逃し防止や、目視検査の効率化が期待できます。さらに、危険なエリアでの安全確保にも貢献します。また、AIと組み合わせることで監視業務の自動化を進めることができ、リソースや工数の削減にもつながります。

5Gの伝送速度は10Gbpsです。これにより、フルHD(2K相当)や4Kなどの高精細な映像をリアルタイムで転送できます。従来の監視カメラのHD(1K相当)に比べ検知精度が格段に向上し、業務改革につながると期待できます。実際に、私たちがあるイベント会場での人数カウントで試したところ、フルHDや4Kなどの高精細映像を利用することでAIによる検知精度が向上することが確認できました。HDと4Kで検知精度を比較すると30%以上精度が向上する場合もありました。

5Gの注意点―すべての業務を最適化するとは限らない

ただし、5Gを利用する際には注意点もあります。5Gは必ずしもすべての業務に最適な解決策であるとは限りません。場合によっては、既存の通信手段で十分であったり、セキュリティやコスト面での検討が必要になることもあります。

例えば、先に挙げた大容量特性を活用した取り組みであっても、5Gの適用が適切でないケースも存在します。監視カメラのエリアが狭く、数m以内である場合は、フルHDの解像度で十分な安全確認ができます。その業務のために5Gを導入して4K映像のデータ転送を行うとオーバースペックとなってしまいます。また、確認頻度が低いなら、映像転送の通信量が少なくても問題ありません。この場合も5Gである必要はなく4Gで十分な場合があります。

データ容量やデータ転送速度以外でも、注意したいポイントはいくつかあります。例えば、多数のデバイスを同時に接続することでネットワークが複雑化し、セキュリティ上の懸念が高まる可能性もあり、対策が必要です。また、基本的に導入コストも高くなるため、費用対効果が悪くなってしまう場合もあります。業務改革や新事業創出を検討する際には、5Gの活用を視野に入れながらも、オーバースペックにならないように注意していくことをおすすめします。

今、企業が取り組むべきこと

5G技術の特性は、あらゆる業種の企業にとって、業務の効率化や革新、そして新規ビジネスの創出という観点から大きな機会を提供しています。しかし、5Gは一部の特定領域での活用が進んでいるとはいえ、まだ完成された技術ではなく、現在も開発が進められています。さらに、新しいサービスや応用例が次々と生み出され、その適用範囲は広がっています。

例えば、最近ではネットワークスライシング(ネットワーク帯域の論理分割)技術が実装されています。この技術により、特性の異なるデータを同じネットワークで送信することが可能になります。同じネットワーク上で、大容量と低遅延の特性を活かして高精細映像を送りながら、工場ラインを遠隔操作することができます。また、多接続と低遅延の特性を活かして多数のセンサーデータを収集し、リアルタイムに危険なエリアの安全確認を行うことも可能です。

サービス開始当初はローカル5G(企業等が独自に構築する5Gネットワーク)の構築には高額な費用がかかり、ハードルが高い状況でしたが、近年は5Gのネットワークをクラウド上で運用したり、ネットワーク機器間のインターフェースをオープン化するOpenRAN(オープンな無線アクセスネットワーク)を採用することで、低価格化が進んでいます。ローカル5Gの環境を自社で保有する必要がなくなり、サブスクリプション型サービスを提供する事業者も増えており、より手頃な価格で5Gを利用することができるようになっています。

このような状況を踏まえると、企業は5Gの技術が完成するのを待ってから活用を考えるのではなく、今からその活用方法を模索し、5Gの活用に向けての戦略を立てることが重要です。こうすることで、早期に5Gを活用した業務改革や新規ビジネスの創出を行い、競争優位を確立することが可能になります。

5Gで競争優位を確立したい企業は、以下の2つのことに今から取り組んでいくことが重要です。

1)5Gの活用が有効なビジネス・業務領域を見定める

最初に行うべきことは、5Gの特性を活かせる可能性のある自社ビジネスや業務を探すことです。既存の業務の効率化や新ビジネスを創出できる領域はないかを分析していきます。

まず、自社の業務やビジネスを詳細に分析し、それぞれの領域で5Gの特性によりどのような改善や変革が可能かを洗い出します。例えば、大量のデータを送るのに時間がかかり、余計なリードタイムが生じている、通信のタイムラグがあるためリモート操作ができないなど、大容量・低遅延・多接続という特性が発揮されることで解決の可能性がある課題と技術を繋げます。

次に、現在の5Gの技術開発のロードマップをもとに、これからどのような技術やサービスが開発され、いつ利用可能になるかを把握しましょう。その上で、導入のタイミング、費用対効果、技術的な課題などを総合的に考慮し、5Gの導入・活用の具体的な戦略と計画を作成します。

このプロセスでは、5G技術の専門的な知識だけでなく、自社の業務やビジネスの深い理解と業界・市場に対する洞察力が求められます。そして、5Gの特性を最大限に活用するためには、専門的なスキルと知識も必要となります。そのため、企業は必要に応じて外部の専門家やコンサルタントを活用するか、または社内の人材を育成・研修することが求められます。

2)ビジネス・業務領域での5Gの活用の方向性を確かめ、効果を実証する

自社のビジネスや業務に5Gの活用が有効であると判断し、その活用に向けた全体スケジュールを立てたら、次に効果や実現性を実証する必要があります。理論上の可能性から具体的な実現性へと移行するこのステップは、5Gの導入を現実のものにするためには欠かせません。
実証実験では、5G導入対象の業務領域に対し、具体的な活用方法や効果確認のためのプロトタイプを作成し、テストを行っていきます。テストでは、5Gのネットワークを構築し、適用するシナリオを作成し、実際に使ってみます。その結果を分析し、改善点や効果を評価します。
5Gの導入・実証には、技術的な知識が必要であり、法規制やセキュリティ課題への対策も考慮しなければなりません。そのため、ここでも技術の専門家やビジネスアナリスト、業務領域のエキスパートとの連携が重要です。

これらの取り組みを通じて、自社のビジネスや業務で5Gを活用する方法を具体的に検討することができます。そして、5Gのもつ特性をフルに活用して業務の効率化や新ビジネスを創出することで競争力を高めることができるでしょう。NRIでは、5Gの活用に関して、構想支援など幅広くコンサルティングサービスをご用意しています。5Gの活用に向けてなにかお困りの際は、ぜひご相談ください。

執筆者情報

  • 中村 規義

    ITアーキテクチャーコンサルティング部

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