写真左より、野村総合研究所 桧原、WBCSD Peter Bakker氏、野村総合研究所 野口
野村総合研究所(以下、NRI)は、グローバルなサステナビリティのトレンドを理解し、それを経営戦略やリスクマネジメントに反映するために、2010年度より、外部有識者の方々と毎年ダイアログを行っています。
2023年度のダイアログでは、持続可能な開発をめざす企業約200社のCEO連合体、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)のプレジデント兼CEOであるPeter Bakker氏と、サステナビリティ推進担当役員の桧原、DX担当役員の野口が、DX3.0を通した社会課題解決プロセスや、企業と企業連合体(WBCSD)との連携について意見を交わしました。
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<参考> World Business Council for Sustainable Development (WBCSD) (外部サイト、英語のみ)
出席者
(所属、役職は2023年10月時点)
Peter Bakker氏
WBCSDプレジデント兼CEO
Peter氏は、2012年以来10年にわたり、世界有数のサステナブル企業が200社以上参加するWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)をリード。WBCSDは、スイスのジュネーブを拠点としたCEO主導のグローバルコミュニティで、ネットゼロ、ネイチャーポジティブ、公平な未来に向けて必要なシステム変革を促進するために活動している。
Peter氏は、2011年6月までグローバル運送・物流会社TNT NVのCFO兼CEOを務め、優秀なビジネスリーダーにおくられるClinton Global Citizen賞(2009年)及びサステナビリティリーダーシップ賞(2010年)を受賞しているほか、複数企業においてサステナビリティ関連の諮問委員会のメンバーを務めている。
加えて、世界の持続可能性の問題に取り組む企業への長年の貢献が認められ、2018年にオラニエ・ナッソー勲章も受賞。また、米国TIME誌の「2023年のビジネス界で最も影響力のある気候変動に取り組むリーダー100人」に選ばれました。
野口 智彦
野村総合研究所 常務執行役員
DX担当
桧原 猛
野村総合研究所 常務執行役員
サステナビリティ推進担当
NRIグループのビジネスモデルと成長ストーリーの紹介
NRI桧原:DX ビジネスの話に入る前に、弊社のビジネスモデルと成長ストーリーについてお話しします。
- NRIグループのビジネスモデル概要
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長期経営ビジョン「NRI Group Vision 2030」における成長ストーリー
- デジタルトランスフォーメーションを「DX1.0」(プロセスのデジタル化)、「DX2.0」(ビジネスモデルのデジタル化)、「DX3.0」 (2030年の主な焦点)の3つの段階に定義。DX 3.0は、社会全体におけるデジタル化を意味し、複数企業や業界に広範な影響を及ぼす。
- グローバル展開も重要戦略で、アジアや豪州に加え、北米にもビジネス領域の拡大を計画している。
NRIのDXビジネスの紹介
NRI野口:DX3.0は、社会DX、バリューチェーンDX、基盤DXなど、多様な分野で「デジタル社会資本」を創出し、社会変革をめざすものです。
NRIにとって極めて重要な戦略であり、社会的課題の解決に向けたビジネス志向のアプローチです。
社会的課題に取り組む事業を持続的に発展させるためには、収益性の高い事業が必要だと考えています。
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デジタル社会資本:デジタル技術で新たな価値を生み出し、社会や産業を支える共通のインフラやサービス
NRIグループの成長ストーリーとDX3.0ビジネスアプローチ
NRI:NRIグループの「成長ストーリー」と「DX3.0ビジネスアプローチ」について、サステナビリティの観点からのご意見をご教示ください。
Peter氏:注目すべき社会課題が複数ある中、自社の専門性に対応する社会課題を特定することは非常に困難だと思います。NRIが取り組んでいるDX3.0は、気候変動、食糧安全、水資源管理、自然生態系保全、人権、高齢化など、グローバル課題に対して、自社事業を通じた取り組みが可能なものを特定しています。また、それらの取り組みがWBCSDに貴重な支援となり得るほど優れている点、WBCSDが取り組む主要テーマと効果的に連動している点を高く評価しています。企業の社会的責任 (CSR) を超え、社会課題への関心を織り込んだビジネスモデルに移行しなければ、企業は社会に要求されている規模やスピード感に対応できません。これらの課題をビジネスモデルに織り込もうとするNRIの取り組みは素晴らしいと思います。
NRI野口:社会課題は日本の課題とグローバルな課題に大きく分類され、それぞれに対し多様なアプローチを最適化することが可能と考えます。NRIのアプローチには、社会課題解決へのアプローチをビジネスとして成立させるため、2つの重要なステップがあります。
まず、社会コードを新たに確立すること、つまり、価値創造のポテンシャルを生み出すことです。ここでいうコードとは、ルール、規制、商慣習、消費者の価値観などを意味しています。
次のステップは、デジタル社会プラットフォームの開発で、特定された価値を持続可能なビジネス機会に変え、例えば温室効果ガス排出量や取引に関するルール、または継続的にルールを管理・可視化するプラットフォームを設計します。
NRIの4階層モデルによる社会課題への取り組みについて
持続可能なエコシステムの構築におけるNRIの役割とDX3.0の取り組み
NRI野口:フロントプレーヤー、プラットフォーマー、コードメーカー、イネーブラーの4層モデルについてお話したいと思います。
フロントプレーヤーとは、エンドユーザーにサービスを提供するプレーヤーのことです。プラットフォーマーは、フロントプレーヤーにプラットフォーム(カーボンフットプリント追跡システムなど)を提供します。コードメーカーは、行政、地方自治体、業界団体、政府、広告代理店のような機関を指します。一番重要と考えるイネーブラーの役割は、持続可能な商品・サービスを実現するエコシステム全体をデザインします。
NRIは、上記モデルにおいて、イネーブラーとプラットフォーマーとして、エコシステムを構築したいと考えています。その理由はNRIの2つのコア事業にあります。一つ目はシンクタンクとして問題を特定し、政策を設計することです。もう一つはDXを実現するコンソリューション(コンサルティングとITソリューション)です。
NRIはDX3.0関連のプロジェクトを現在数多く計画・実施しており、そのうち既にPoC(概念実証)の段階に至っているプロジェクトが数件あります。
例1:NRIは、経済産業省の脱炭素社会に向けた取り組みである 「GXリーグ」 に関し、関係者間の調整やファシリテーションを担う事務局の役割を果たしています。加えて、GXリーグの参加企業566社(2023年9月時点)のうちの1社としても参画しています。
<参考>
GXリーグ(外部サイト)
サステナビリティブック:GXリーグの全体コーディネート
例2:WBCSDのPACT(Partnership for Carbon Transparency:炭素の透明性のためのパートナーシップ)のPoCに参画し、株式会社日立製作所(ストレージ事業者)及びEIZO株式会社(デスクトップモニター事業者)と協業し、両社の実測値を基にした温室効果ガス排出量のトラッキングで、NRI-CTSを活用しました。
<参考> お知らせ:WBCSD Partnership for Carbon Transparency (PACT) 実証実験に参画
例3:日本の社会インフラの老朽化、特に道路の老朽化対策に関する取り組みをご紹介します。日本の道路は1950年から70年に集中的に整備され、老朽化が進み、その殆どが整備から50年以上経っています。地方自治体にとっても人的・財務的に相当な負担となっており、解決を目指しています。NRIのアプローチは、センサーを用いて道路をスキャン、デジタル・ツインを作成し、保守の形態を事後保守から予防保守へと転換します。ここでのNRIの役割は、デジタルツインの提供と、業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進です。
Peter氏:NRIが取り組む4層モデルや革新的なプロジェクトについて詳しく教えていただき、ありがとうございます。NRIは、重要な社会課題に対し積極的かつ革新的なアプローチで取り組んでいますね。多岐にわたる取り組みのうち、気候変動関連のソリューションについてお話させてください。
WBCSDは、温室効果ガスプロトコルの実施、PACTを通じたScope 3の算定、削減貢献量の算定と排出量削減に向けた包括的なシステム構築など、気候変動に関するソリューションに積極的に取り組んでいます。また、サプライチェーン内の排出量を算定するシステムも構築しています。同時に、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、温室効果ガスプロトコルのScope 3基準に沿った算定・開示の枠組みを策定中です。9月18日には、ニューヨークで「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の最終提言が発表され、企業が測定・管理すべき指標の定義に関する議論がありました。生物多様性開示フレームワークの公表期限は2025年としています。この期限は、今までの気候変動対策よりもかなり短いものです。企業が負担を感じないよう、御社のような協力的な行動と革新的なソリューションが求められます。
さらに、サーキュラーエコノミーについては、リサイクルと素材再利用の推進へのプレッシャーが高まっており、サーキュラリティを測定して、進捗状況を効果的に報告することは、今後も注目すべき課題です。
今後、気候変動プラットフォームにおいてNRIの役割は進化し、やがて「プラットフォーマー」へ展開すると考えています。しかし、自然資本やサーキュラーエコノミーといった他の分野において、NRIはいまだ初期段階です。ただ、NRIのビジネスモデルは、新たなコンセプトを探求し、それをコンサルティングやソフトウェアのソリューションとして提供する企業として、世界的にも際立っていると思います。
今後に向けた重点課題
NRI野口:現時点では、PACTの「Climate Bundle」と「CFOネットワーク」に重点を置いています。「Climate Week NYC」で中間報告書を発表したPACTチームのおかげで、サプライヤーと協力し、NRIのCTSプラットフォームに統合し、「Pathfinder Framework」を通じて貴重なデータ接続の機会を提供することができました。
Peter氏:PACTに取り上げられた主要課題の解決に向けて、PoC(概念実証)にとどまらず、技術ソリューションの導入を推進する必要があります。また、システムを中小企業のニーズに対してどのように適応すべきかが重要です。
また、削減貢献量という概念は、即座には説得力がないように思えるかもしれませんが、DX3.0に移行すれば、デジタルソリューションを活用し、クライアント企業の気候変動への影響削減の支援が可能です。このアプローチは排出量を削減する大きな可能性を秘めている一方、持続可能な投資機会を求める投資家が多いため、削減貢献量を経済市場につなげることが今後の課題です。そのため、強固な削減貢献量算定システムが、投資家にとって望ましい基準になると考えます。さらに、自然資本への関心は、TNFDの発表後に高まっています。なお、Scope 1、2、3の排出量にまつわる議論に、自然関連の指標をどのように組み込むかが今後の課題となります。
最近ニューヨークで「The Global Circularity Protocol」が発表されました。温室効果ガスのプロトコルと、企業が自社製品のサーキュラリティを追跡・改善するシステムを構築するものです。サーキュラーエコノミーは、複数の企業が協力して実現するものだと思います。例えば、ファッション業界では、大規模な農作業や商品回転率の高さによる自然や気候への悪影響が大きいため、我々は大手ファッションブランドと協力してサーキュラリティを推進しています。その成功は、ブランドと小売業者の協働による包括的な回収システムや効率的な返品プロセスの確立にかかっています。これにより、デジタルサポートサービスに対する需要やビジネス機会も増加しています。
NRI野口:サーキュラーエコノミーの観点では、製品、部品、材料という3つのレベルがあると考えます。製品レベルはある程度確立されています。しかし、部品レベルでは標準化という問題があります。材料レベル、特にプラスチックでは、添加物の追跡が難しいため、これも課題となっています。サーキュラーエコノミーを確立するためには、サプライチェーン(ポジティブとリバースのサプライチェーンを含む)全体をつなぐデジタルシステムが不可欠です。データ交換のための効率的なコード化は、この変革に不可欠です。
弊社の特徴は、様々な業界の大手企業との協業にあり、例えば大手自動車製造業や小売業などの主要顧客との協業は、サプライチェーン全体の脱炭素化につながります。
DX3.0ではこのように企業連携を図り、社会に影響を及ぼすことを第一に考えています。サーキュラーエコノミー発展の成功には標準化が不可欠であり、サプライチェーン内でのコード設定といった取り組みは標準化を促進するため、サーキュラーエコノミーの発展に極めて重要な役割を果たしています。
終わりに
Peter氏:NRIの考え方と解決策を共有してくださり、ありがとうございました。
NRIとWBCSDの役割は異なっても、大企業との取引が中心である点は類似しています。ほぼ全ての中小企業が大企業のサプライチェーンとつながっているのは事実です。もし中小企業が使いやすい、且つサプライチェーンに適合しやすいデジタルソリューションを構築できれば、すべての企業にとって有効なソリューションを提供できます。
企業がWBCSDに加盟する場合、我々の仕組みや企業が我々に提供できることを把握するのに時間がかかることが通常です。多くの企業は、貴社のPACTの取り組みのように、1つか2つの特定分野に関与することから始めます。こうしたプロジェクトは、企業とWBCSDの双方に利益をもたらし、企業の計画に沿った重要な分野への拡大につながることもあります。
今後ともWBCSDとの協力関係を強化していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
Laurette Siemonek氏(Chief of Staff) 右列手前から、 野村総合研究所 伊吹(サステナビリティ推進部長)
Hale(コーポレートコミュニケーション部)
桧原(常務執行役員)
野口(常務執行役員)
榊原(DX事業推進部長)
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