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CASE事業のグローバル展開と日系企業の課題

グローバル製造業コンサルティング部長 岡崎 啓一
コーポレートイノベーションコンサルティング部長 小林 敬幸
グローバル製造業コンサルティング部 張 翼

#DX

#自動車

#小林 敬幸

2019/07/31

自動車業界に大きなインパクトを与える現象として注目されるCASE※1。CASE事業の開発は先進国にとどまらず、新興国でもさまざまな事業実証が始まっています。自動車業界の動向を調査してきた野村総合研究所(NRI)の岡崎 啓一、小林 敬幸、張 翼がCASE事業の最新状況と、日系企業がCASE事業をグローバル展開する際の課題やポイントを紹介します。

ASEAN次世代自動車産業の動向——グローバル製造業コンサルティング部 岡崎 啓一

――成長局面にあるASEAN自動車市場とCASEとの関連

1カ国あたりの経済規模は大きくないASEAN諸国ですが、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム、タイからなるASEAN5として捉えると、中国とインドの中間程度の規模に該当します。ASEAN5の自動車販売台数は右肩上がりで伸びており、最もGDP成長率の高いベトナムでは2020年で9.4%、それ以外の国も3〜6%弱の成長が予測されています。先進国が新車販売のマーケットとして飽和状態にあるのに対し、ASEAN5は成長局面にあることが注目されており、CASEの伸びも先進国よりも速くなる、あるいは先進国以上に斬新なビジネスモデルが誕生する可能性があると考えられます。

――活発化するASEANにおける次世代自動車産業の動向

ASEANでは、新しいプレイヤーがCASEビジネスに参入しています。Connected(接続)の領域では通信系のキャリアの動きが活発化し、海外進出に積極的でなかった日本の通信キャリアも、海外に進出する動きを見せています。Autonomous(自動運転)の領域は、シンガポールで自動運転バスの導入実証のための事業者公募が開始されるなど、ASEANの複数の国で実証実験が進められています。インフラ分野では、スマートシティのモビリティツールとしても自動運転が注目されています。
Shared & Service(共有とサービス化)の面では、規制が関係するため日本以上にASEANが先行しています。特に配車アプリ運営企業であるGrabは隆盛を極めており、短期間のうちに東南アジア8か国でビジネス展開をしています。Electrified(電動化)はCASEの4つの要素の中でも実用化が進んでいて、新しいプレイヤーの参入が進んでいることも特徴です。タイとマレーシアは、電動化の後押しとなる政策を推進しています。
ASEAN地域では、自動車分野の現地企業、現地政府、異業種での連携が非常に活発化していますので、日系企業も事業の創出に向けて、現地企業・現地政府との連携による事業創出への取り組みが必要となると考えます。

米国ライドシェアの実態と自動車市場へのインパクト——コーポレートイノベーションコンサルティング部 小林 敬幸

――ライドシェアの登場と米国タクシーとの関係

ライドシェアとは、車を所有するドライバーがタクシーのように利用者を目的地まで運ぶサービスです。2019年6月にニューヨーク証券取引所に株式上場したことで話題のUberが、2009年にライドシェアを米国で開始して10年が経過しました。
ライドシェアの登場でタクシー業界が落ち込むという観測もありましたが、米国国税調査局のデータでは、タクシー会社の被雇用者数は8万人弱で、過去ほとんど変化が見られません。一方で、同業界の自営業者数は2017年時点で97万人ですが、2009年の17万人から約80万人も増加しており、ライドシェアが増加の理由と考えられています。
2019年1月にNRIが実施したライドシェアドライバーを対象としたアンケート調査によれば、ライドシェアドライバーのう約4分の3が兼業という結果が出ています。また、専業ドライバーの前職はタクシードライバー以外が約8割を占めており、ライドシェアが新しい職を創出していることが分かります。
また、仕事について「大変満足」「満足」との回答が合わせて全体の84%を占めています。一番多い理由は、「働く時間が柔軟である」ことです。空いた時間に人を乗せて、副収入が得られることで満足しているドライバーが多いことが分かります。専業ドライバーの中には年収が10万ドルを超える人もいて、どれだけ働いたかによって年収が大きく変わります。

――ライドシェア事業者の現状と今後、そこからの示唆

Uberの売上高は急拡大していますが、利益は依然マイナスです。赤字の理由は、Lyftなどとのドライバー獲得競争が激しくなる中、ドライバーへの支払いが売上の8割も占める為です。そのような状況下、Uberは更に自動運転技術の開発に1,000人以上の開発者と1656億円(2018年)もの開発費を投じています。まさに、社運をかけて自動運転に取り組んでいると言えます。ライドシェア事業者は、労働集約産業からの脱却が課題であり、自動運転などの技術導入に積極的であることから、日系企業には自動運転技術や製品提供のチャンスが広がります。
Uberのビジネスは需給マッチングであり、この手法はモビリティ産業のあらゆる場面での応用が期待されます。変化が激しい顧客ニーズに対応した動的マーケティングに、企業は力を入れていく必要があります。

知能化で進化する中国自動車業界——グローバル製造業コンサルティング部 張 翼

――CASE事業に対する中国官民の積極的取り組み

中国政府のデジタルインフラ投資方針と、V2X※2関連機器に強い民間の通信系企業の存在から、中国の自動運転はインフラ協調型※3で独自性を出しながら加速化を図って行く可能性が高いと言われています。
また、2025年までにレベル3(運転がクルマ主体)の自動運転車を10〜20%、2030年までにレベル4以上の完全自動運転車両を10%程度普及させるという指標が、中国の一大国策である「中国製造2025」に記載されています。
さらに、IT企業のバイドゥはクラウドサービスや車両制御の全体のプラットフォームなど、車の技術開発のためのベースを業界横断型で作り込み、民間各社に開放する「アポロ計画」というコンソーシアムを提唱しています。その設立当初から欧米系のグローバルプレイヤーも多数参画し、最近ではトヨタやホンダ、パナソニックも参加を表明しています。
これまでは、自国で製品開発を行い中国で販売するモデルも成立しましたが、データ主導型の知能化自動車では、中国で中国のデータを活用しながらビジネスモデルを構築する必要があり、自動車メーカーだけではなく外資系部品メーカーも動き始めています。
自動車メーカーは、プラットフォーマーに車両データの一部を開示し、プラットフォーマーはそれに顧客データを掛け算して新しいサービスを創出する。自動車メーカーとプラットフォーマーはこのように一体になって、マネタイズの仕組み創出を狙っており、上海汽車とアリババが合弁会社を作るなど、新たなビジネスに向けた動きはすでに始まっています。製品開発から事業開発にシフトしていく場として、政府主導の実証実験は大きな舞台になると考えます。

――社会実装先行型イノベーションによるダイナミックな技術創出

中国では、市場形成の中で応用を積み重ねていく社会実装先行型のイノベーションが注目されています。一例は2022年開催のアジア競技大会です。開催地の浙江省杭州市はアリババと一緒に、デジタル交通インフラだけでなく、社会インフラ、都市インフラを統合するデジタル都市の計画を推進しています。
欧米系の企業は政府主導型の社会実証実験に関わることに積極的です。例えばボッシュやコンチネンタルなどの欧州勢が連携をして緊急時自動ブレーキの標準搭載化の法規制を政府に働きかけ、技術のスタンダード作りにおいて影響力を発揮しています。日系の関連企業もこうしたプロジェクトに関わるべきですし、新しいグローバル戦略、中国産業界との付き合い方を考える時期に入っていると言えます。

  • 1 CASE:Connected(接続)/Autonomous(自動運転)/Shared & Services(共有)/Electrification(電動化)の頭文字をとったもの。
  • 2 V2X:Vehicle-to-everything。自動車とその周辺環境との通信を可能にする無線テクノロジー。
  • 3 インフラ協調型:クルマのセンサーでは捉えきれない情報を、インフラとクルマ、クルマとクルマの双方向通信を行い、安全運転を維持するシステム。
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